東京の台所

<117>兄、妹、女友だち。意外に快適! 大人のシェアハウス

  • 文・写真 大平一枝
  • 2016年4月20日

〈住人プロフィール〉
イラストレーター・30歳(女性)
マンション・3LDK・小田急線 喜多見駅(世田谷区)
築年数30年・入居2カ月・兄(会社員・33歳)、友人(女性・デザイナー・30歳)との3人暮らし

    ◇

 本欄でシェアハウスが登場するのは3軒目だ。外国人、社会人1年生の女性3人、そして今回。前回と今回で、共同生活者の共通項があった。酒が好き、ルールを決めすぎないの2点だ。偶然かもしれない。だが、案外シェアハウス暮らしをうまく乗り切るのに不可欠な条件じゃないかと、私などは思った。

 住人はフリーのイラストレーターである。よく一緒に旅をする仲良しの美大の同級生の女友だちAさんは、フリーのデザイナーだ。ある日、Aさんを含む友人数人と山登りをした帰りのバスで、いつものように次に行きたい旅の話をしていたときにつぶやいた。

「そろそろ引っ越そうかなあと思って」

 するとAさんが言った。

「シェアしちゃう? そしたらひとり暮らしより安い家賃で広い家に住めるし、浮いたお金で旅行に行けるよ」

 あ、いいなあとすぐにのった。互いに無類の旅行好きだった。二人で行くこともあるが、別の友人と行くこともある。

「とくにAはよく旅にでているので、留守が多いんです。一緒に住んじゃったほうが効率的で、不在の時は留守番も頼めて安心だし、そういえばシェアはいいかもしれないと。迷いはなかったですね」

 もう一人いたほうが煮詰まらなくていいんじゃないか、ということになり、3人で借りることにした。ところが、あと1人がなかなか見つからない。

 料理好きのAさんは、古いが台所が広くて明るいマンションに目をつけていた。住人も料理好きなので異論はなかったという。早く契約をしたいのに、肝心なメンバーが決まらず、互いに焦りだした。

 そんなとき、3歳上の兄から、神奈川の実家を出てひとり暮らしを始めようと考えていることを聞いた。シェアハウスをもちかけると、彼はこともなげに「いいよ」という。

 別な日、おそるおそるAさんに聞いた。

「あのさ、うちの兄なんて……、どうかな?」

 Aさんはあっさり答えた。

「いーんじゃない?もう性別問わないよ。会わせて」

 はたして初顔合わせはうまくいった。

「事前に、お互いにだめそうだったら私に言ってね、と伝えてあったんです。それがどうやらよかったみたいで」

 兄は誰とでも仲よくなれるのんびりした性格らしい。「細かいことは気にしないっていうか気がつかないタイプ。いつもニコニコしてる感じですかね」

 こうして思いがけず、兄、妹、女友だちという3人の共同生活が始まった。

 まだ2カ月というが、台所もリビングも居心地良さそうに整っていた。Aさんと住人はインテリア、器の好みが似ている。持ち寄った白いイケアのゴミ箱まで同じだったのには、さすがに驚いたらしい。

 そして、ふたりとも料理好きだ。

「私は、思ったことをはっきり言うタイプなのでもう少しケンカとか、ぶつかったりするのかなと思ったら、それが一度もないんですよね。自分でも意外でした」

 聞くと、無意識のうちにできた生活リズムの中に、ぶつからないヒントが隠れていた。

 3人とも食事時間は3食別。昼間、たまたま昼食の時間がかち合ったら一緒に卓を囲むが、食べるものは自分のものだけを作る。皿も調理道具も、自分の使ったものは自分で片付ける。

 掃除は分担制。風呂は兄、台所はAさん、トイレは住人。リビングや廊下は、気づいた人がやる。となると、帰りが遅い兄はあまり担当できない。そのかわり、会社に行くついでにゴミを捨てていく。

 洗面所は、3人それぞれ使うたびに髪の毛など毎回拭き取る。個人の友だちを呼ぶときは、事前にほかの二人に申告する。

「ひとり暮らしの時より、きれい好きになりました。それから物を増やさないようになった。一人だとあまり考えずに買い足しますが、3人がそれをやっちゃうと、置き場所がなくなりますから」

 いいことはまだある。

「旅先でお酒を買えるのがうれしいですね。酒蔵で美味しいお酒を見かけても、一人では飲みきれないからあきらめていたけど、今は、あの二人に買っていってあげようって思って一升瓶で買える。みんなそうやって買ってくるからたまっちゃって。旅の話を聞きながら夜、飲むのがすごく楽しいです。いも羊羹なんかも買えるのもうれしいですね、3人なら食べきれますから」

 酒や食べ物が3人を緩やかにつなげている。

 兄が加わることもあれば、女どうしのおしゃべりを邪魔しないよう、そっと部屋に身を引くこともある。女二人に男一人は、聞けば聞くほどバランスや距離感の塩梅がちょうど良さそうだ。

「ゆるやか? ああ、そうですね。最初に決めすぎず、互いの生活リズムを見てから、徐々にゆるやかに最低限のルールを決めていった感じです。今のところ何も困ったことがないです」

 帰ると明かりが点っている。そのたび、ああシェアハウスにしてよかったなと思うそうだ。

 それでも、と食い下がると、ひとつだけ小さな不満をこっそり教えてくれた。

「家に彼氏をね、ちょっと呼びにくいんです。Aには言えるんだけど」

 ふむふむ、お兄ちゃんにとって妹はいつまでも妹なのだな。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。大量生産、大量消費の社会からこぼれ落ちるもの・こと・価値観をテーマに各誌紙に執筆。著書に『東京の台所』『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『信州おばあちゃんのおいしいお茶うけ』(誠文堂新光社)、『日々の散歩で見つかる山もりのしあわせ』(交通新聞社)、『日曜日のアイデア帖~ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『昭和ことば辞典』『かみさま』(ポプラ社)ほか多数。HP「暮らしの柄」 ■レンズ協力:SIGMA ART|18-35mm F1.8 DC HSM、SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO HSM

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