リノベーション・スタイル

特別対談<5>東京R不動産がいま力を入れる「トライアルステイ」

  • 吉里裕也×石井健
  • 2016年5月25日

吉里裕也さん(左)と、石井健さん

  • 吉里裕也さん(左)と、石井健さん

  • 「ホテルって、建築から皿や食事まで総合的、包括的の特性をもつので、結果的にデザイン系の人たちはみんなそちらに興味を持つんだと思います」と吉里さん

  • 「たぶん、10~20年前にデザイン事務所をやりながらカフェをやるという感覚が、いまは宿になっていますね」と石井さん

  • 房総の馬場家

  • ボートハウス

 連載「リノベーションスタイル」でおなじみの石井健(ブルースタジオ)さんが、いま日本各地で急増している“ゲストハウス”に注目し、宿泊事業とリノベーションをテーマに語り合う特別編第3弾。

 最終回のゲストは、個性的な物件を独自の視点で紹介している不動産紹介サイト「東京R不動産」(Real Tokyo Estate)の運営会社、スピーク代表の吉里裕也さん。東京R不動産といえば、「不動産は面白い!」と多くの人に気づかせ、不動産業界に新風を呼び込んだパイオニア。そして彼らも最近、町家や空き家などをリノベーションし、宿泊施設として再生する事業を始めたといいます。吉里さんたちが宿泊事業を始めたのはなぜ? 日本のゲストハウスブームはどこへ行くのか? あれこれお話をうかがいました。

    ◇

石井 今回は「ゲストハウス」をテーマにリノベーション業界の人と対談をしているんですが、たしか吉里さんたちも宿泊事業やっていますよね。東京の新島の宿は、僕らも社員研修で伺ったことがあります。

吉里 「saro(サロー)」ですね。6年くらい前に始めたんですが、去年閉めてしまったんですよ。

石井 え、そうなんですか! サローは、古い一軒家を別荘のようにリノベーションしていて、居心地がよかったです。

吉里 リノベーションとはいえ、壁に絵を描いてもらったり、家具を持ち込んだりしたくらいで、ほとんど手を入れてないんですけどね。あの家は、うちの相棒の林(厚見)が、かなり入れ込んで立ち上げたんですが、現場の“女将(おかみ)”的な宿の顔となっていた、高野くんの持つ空気感が一番大きかった気がしますね。みんな彼に悩みを聞いてもらいに行くという感じで……。ちょっとしたリトリートの場所になっていました。

石井 もう完全にクローズしちゃったんですか?

吉里 実は今、近くに一軒家を借りています。せっかく6年もやってきたのに、島と関係なくなるのも寂しいので……。でも法律的にちょっと難しくて、一般営業はまだしてないんですが。

音楽や小説をやる人たちが、最後に映画にたどりつくように……

石井 宿にはもともと興味があったんですか?

吉里 僕はR不動産を立ち上げる前は、他の会社でサービスアパートメントという家具付きのマンスリー賃貸住宅の立ち上げをやっていたんです。デベロッパーだったんですが、入社間もないときに「この物件を周辺より倍近い値段で貸してこい!」って言われたんですよ。普通だったら「無理です」で終わるんですが、新卒でよくわからないから、同期のメンバーと頭を悩ませて(笑)。その中で出てきたアイデアが、「サービスや家具を付けたら高く貸せるんじゃないか」ということだったんです。1998年ごろの話ですね。

石井 スペースデザインという会社ですよね。リクルート創業者の江副(浩正)さんがオーナーの……。

吉里 そうです。そのときはまだ“サービスアパートメント”とか“マンスリーマンション”という言葉はなくて。主に外国人がターゲットだったので、英語の得意なオペレーション部隊が身の回りのお世話までやっていました。そのときの経験が、宿をやるときに若干影響している気がします。

石井 時代がひとまわり巡って……。

吉里 そうですね。あと、林(厚見)なんかは、アメリカに留学していた時代、フィリップ・スタルクがデザインをしたモンドリアン・ホテルを見ていたんです。それがすごく衝撃だったみたいで、昔から「いつかああいうホテルをやりたい」と言っていました。建築やデザインをやっている人たちって、理想の空間や体験を突き詰めていくと、最終的に宿泊施設に行くんだろうな、という気がします。

石井 そうですね。“コト作り”を考え始めると、最後にホテルにたどりつくというのはありますよね。建築もグラフィックもサービスもやりたい……みたいな。

吉里 箸の袋のデザインも気になってきて……(笑)。

石井 食もありますしね。

吉里 結局、体験そのもののデザインなんですよね。

石井 体験価値は、住宅やインテリアだけじゃなく、家電から何から何まで、いま基本になっていますよね。その中で、ここ最近は宿をやる人が爆発的に増えています。たぶん、10年、20年前くらいにデザイン事務所をやりながらカフェをやるという感覚が、いまは宿になっていますね。

吉里 ホテルって、こういう言い方が正しいかはわかりませんが、“空間芸術”、“時間芸術” の両方の特性をもっている気がするんですよね。建築から皿や食事まで、総合的、包括的なので、結果的にデザイン系の人たちはみんなそちらに興味を持つんだと思います。音楽や小説をやっている人たちが、最後に映画にたどりつくみたいに(笑)。

石井 総合的に監修ができるからでしょうか……。

吉里 ええ。自分の理想の世界観を作りたい、というのはありますよね。

スタッフの家とボートハウスも、ゆるやかな宿に

石井 そういえば、東京R不動産では、房総のボートハウスも宿にしていましたよね?

吉里 あれはとりあえず買っちゃった成り行きで……(笑)。

石井 5、6年前の話でしたっけ?

吉里 ええ、もともと会社で色々な暮らし方のスタイルを試してみたくて買ったんですが、最近そんなに使っていなかったんですね。賃貸に出してもよかったんですが、せっかくだから実験してみようということになり、上総一宮にあった、R不動産を一緒に立ち上げた馬場(正尊)の家を宿にして、そのあと、ボートハウスも半年くらい前に許可を取って宿に変え、ゆるやかに貸しているんです。

石井 なるほど。そういえば、最近は「トライアルステイ」もやっていますよね。

吉里 はい、かなり力を入れています。2010年に房総で始めたのが最初でした。当時は1カ月500円で空き家に泊まれるというもので、使われていない空き家をそのまま貸し出すというのがポイントでした。地方への移住や二拠点移住の促進が目的で、4年ほど前から福岡県と、去年からは神奈川県三浦市と一緒にやっています。他の自治体からも声がかかっているんですが……。

実はオーナーさんにとっての「トライアル」でもある

石井 一番大変なことはなんですか?

吉里 やはり空き家を提供してもらうことですね。だから自治体と組むのはすごくいいんです。最大のメリットは職員の親戚や知り合いのツテで、空き家を集められること。そして、そういうことをやっていると、最初は乗り気じゃなかったオーナーさんも、最後はまんざらじゃなくなってくるんです。空き家問題の一つは、実はオーナーさんの心理的ハードルなので。

石井 そうですね、それはかなり大きいです。

吉里 みなさん最初は面倒くさいって嫌がるんですが、実際に貸してみると、借り手は意識が高くていい人たちが多いし、迷惑行為をする人はほとんどいないし。しかも、家って3カ月くらい誰も住まないとダメになってしまうんですが、1週間でも人が泊まってくれれば一変します。その上、お金も入ってくる。だから、あら、「けっこういいじゃない」ってなる(笑)。移住者にとっての「トライアル」は、実はオーナーさんにとっての「トライアル」でもあるんです。オーナーさんの意識が変わるっていうのは大きいですよ。

石井 そうすると、自治体の意識も変わりますからね。

吉里 はい、この事業をやっていて、それに気づいたんです。で、せっかく空き家を見つけたら、やはりどうにかできたらいいなと思ってきて。基本的にはHAGISOの宮崎(晃吉)くんがやっているのと考え方は同じなんですが、空き家を宿にして、街全体をホテルに見立てるような取り組みができたらいいな、と思っています。空き家問題って結局は人口問題なので、右から左に人を動かしても根本的な解決にはならないんですが、そうなると、空き家の機能そのものを変えないといけないんです。物販でもオフィスでもいいんですが、たぶんその中の一つに宿があるんだと思います。

石井 そうですね。

(後半に続く:6月1日更新予定です)

(構成 宇佐美里圭・写真 篠塚ようこ)

    ◇

吉里裕也(よしざと・ひろや)

1972年京都生まれ。東京都立大学工学研究科建築学専攻修了。株式会社 スペースデザインを経て、「東京R不動産」を立ち上げるとともに、CIA Inc./The Brand Architect Groupにて都市施設やリテールのブランディングを行う。2004年に株式会社スピークを共同設立。不動産・建築・デザイン・オペレーション・マーケティング等を包括的に扱うディレクターとしてプロデュース、マネジメントを行う。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から600件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。

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