このパンがすごい!

畑直送の新鮮野菜で、地産地消のパン作り / soil

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年5月31日

岩澤安史の丸ごとトマトクロワッサン

写真:メロンパン、ホワイトチョコとカシスの抹茶メロンパン、パンペルデュ、フレンチトースト、クグロフ…店内に並ぶパン
メロンパン、ホワイトチョコとカシスの抹茶メロンパン、パンペルデュ、フレンチトースト、クグロフ…店内に並ぶパン

写真:横須賀葉野菜のポテトパン
横須賀葉野菜のポテトパン

写真:メロンパン メロンパン

写真:クリームパン
クリームパン

写真:クロックムッシュ クロックムッシュ

写真:外観 外観

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soil(神奈川)

 京浜急行の赤い電車に乗って横須賀に向かう。車窓から、町並みの向こうに、眼に滲(し)みるように青い海が見える。

 県立大学という駅の中に垢(あか)抜けたガラス張りのパン屋「soil」ができた。店の前で、偶然出会った森柾人オーナーは野菜を抱えている。いま農家に行ってもらってきたのだという。soilのコンセプトは横須賀でいまとれたばかりの素材を直接仕入れて使用すること。

「スーパーより4、5日早く手に入るし、誰が作った食材なのかわかる」
と森さん。畑に行って店で使う小麦の収穫まで行うなど、素材やそれを育む農家とどっぷり向き合っている。

 soilのパンはどきどきさせてくれる。うつくしい形、おいしそうなきつね色。そして何より眼につく、ごろごろとパンを覆う野菜や果物。

 どーんとデニッシュの上にのった赤い球体。まさかとは思う、でもそれでしかない。まるごと1個のトマトをクロワッサンにのせちゃってるではないか。というすごいパンが、「岩澤安史の丸ごとトマトクロワッサン」。安心してほしい。デニッシュに野菜かよ、という戸惑いは食べた瞬間一蹴されるのだから。飛び散る甘い液体。湧きあがるフルーティな香り。これは野菜ではなく果物だ! さわやかさに浸る間もなく、迫りくるダマンドクリームとチーズクリームという2種類の甘さ。そして、かりかりと心地よいクロワッサンの割れっぷりに、バター感。いつのまにか、トマトのパンを上質なデザートとして受け入れている自分がいた。

「このトマトを食べた瞬間、デニッシュにしようと思いました」

 とまだ30歳の小森俊幸シェフは言う。毎日届く野菜と格闘する。ときには野菜がきてからどんなパンを作るか決めることもある。

「蒸したり、ゆでたり、オーブンで焼いたり。野菜に合わせて調理します。毎日毎日悩んでます。生地で悩んで、野菜で悩んで。ベシャメルソースもなにもかも自家製。やればやるほど帰れない(笑)」

 横須賀葉野菜のポテトパンを噛(か)む。むにゅうとした生地に少しコシが生まれたかと思うとぷるんとちぎれた。そして、甘さと塩気の絶妙なバランス上にミルキーな口溶けが広がる。そこへ、フレッシュなままに混ぜ込んだ葉野菜の香りがハーブのようにきいてくる。

 せっかく横須賀まできたのだから海のものだって食べたい! とはやる気持ちに、さるひめと雑穀のフーガスが応えてくれる。横須賀沖合に浮かぶ猿島。「さるひめ」とはここでとれた早どりわかめのことだ。たしかにこのわかめは普段口にするわかめよりえぐみもなく味わいが軽やかだ。この素材を料理するにフーガスをもってきた小森シェフのセンスに脱帽。細く焼いてかりかりとスナック感覚で食べられるこのパンにはわかめの塩気がうってつけ。まだらな塩気と海の香りが、旨味(うまみ)、苦味、香ばしさ、(生地に練りこまれた)雑穀の甘さ、とくんずほぐれつし、変化に満ちて複雑にマリアージュする万華鏡となる。

 オーソドックスなパンのおいしさも、シェフの高い技術を証明する。そう感じたのは、メロンパンを食べたとき。上皮にビスケット、本体にパンと2種類の生地を同居させるメロンパンは焼くのがむずかしく、パンがぱさついたりしがちだ。そうではなく、ビスケットはかりかり、パンはしっとりというコントラストを見事実現している。パンはリッチなブリオッシュ、ビスケットはバニラビーンズ入りと、それぞれ単独でも成り立つほどの完成度。ビスケットの甘さの勢いで薄味のパンを食べるパターンではなく、バニラビーンズ入りのビスケットとブリオッシュの甘さ、バターや卵といった濃厚な味わい同士をぶつけあい、高まりあうのだ。この店を知った以上、赤い電車に乗って三浦半島に行ったら、もう素通りはできない。

■soil
神奈川県横須賀市安浦町2-29-1
046・874・6622
9:00~19:00(日祝休)

>>「このパンがすごい!」でご紹介した全店舗マップはこちら

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)

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