リノベーション・スタイル

特別対談<6>路地の中や市場隣で、暮らすように泊まる ~東京R不動産

  • 吉里裕也×石井健
  • 2016年6月2日

吉里裕也さん(左)と、石井健さん

  • 吉里裕也さん(左)と、石井健さん

  • 「食、人、ローカリズム……いろいろな体験ができる宿が増えていくでしょうね」と吉里さん

  • 「宿泊サイトは、新しい視点がないと難しい」と、石井さん

  • ゲストハウスをめぐる盛り上がりは一時期のペンションやカフェに近い、という 

  • 川沿いの住宅街にある「橋端家」。金沢の路地に溶け込む体験を

  • 小倉、旦過(たんが)市場の隣りにある「Tanga Table」。窓の間には「旦過市場はココ!」の文字

(東京R不動産 前編から続く)

石井 ところで、昨年秋には金沢でも宿を始めていますよね?

吉里 はい、2015年の9月からです。「橋端家」という宿で、古い町家をリノベーションして一棟貸しをしています。時期によって違いますが、一泊1万8000円から2万4000円くらい。2人で泊まるとちょっと高いですが、4人で泊まると割安な感じですね。

石井 金沢で始めるにあたっては、何かきっかけが?

吉里 金沢は美しい古都なのに、町の魅力を感じられる宿が少ないなあと思っていたんです。そんなときにちょうど古い一軒家を見つけたので、こういう家なら住人になった気分で滞在できそうだ、と思って……。

石井 場所はどの辺なんでしょう。

吉里 女川と呼ばれる浅野川沿いの住宅街で、兼六園やひがし茶屋街、近江町市場も徒歩圏内です。金沢の魅力って、やっぱり路地だと思うんですよね。あちこち入り組んでいて、歩くといつも方向感覚がなくなっちゃう(笑)。だったらいっそ、こんな住宅街の一軒家に泊まって、路地の風情にどっぷり浸かるのがいいんじゃなんじゃないかと思ったんです。

石井 予約はサイトでもできるんでしたっけ?

吉里 実は橋端家を始めたときに、全国の宿を集めて紹介するポータルサイト「HOWSTAY(ハウステイ)」をオープンしました。主に一棟貸しの宿を集めているのですが、橋端家もそこから予約できます。とはいえ、これはまだトライアル段階なので、ベータ版なんですが。

石井 宿泊サイトはやっぱり難しいですよね。

吉里 まさに。

石井 いろいろなホテルを網羅している予約サイトはすでにあるし、旅行者を相手にする以上、外国人も視野にいれないといけない。そうなると、BOOKING.COMやエクスペディアの方が強いんですよね。宿泊に特化したプラットフォームを国内限定でやっていくのは、今までにない新しい視点がないと難しいです。

吉里 そうなんですよね。

正直、ブームすぎてちょっと怖いな、と

吉里 そういえば、僕らは、一棟貸しの宿だけじゃなくてゲストハウスもやっているんですよ。北九州の小倉にある「Tanga Table(タンガ・テーブル)」という宿なんですが、旦過(たんが)市場に隣接していて、宿泊客以外も使える食堂もあります。

石井 みなさんで合同出資したんですか?

吉里 もともとは、2014年のリノベーションスクールの案件だったんです。リノベーションスクールでは実際の建物を使ってプランを考え、最終日にはオーナーさんにプレゼンをするんですが、その案件が通り、Tanga Tableという会社を5人で立ち上げることになりました。

石井 どんな宿ですか?

吉里 ドミトリーと個室が5室で、67ベッドあり、食堂は50席くらいです。近くに“北九州の台所”と言われる旦過市場があるんですが、ここがすごいんですよ。外から来た者にとっては見たことのない特殊な食材ばっかり。だから、「おいしいを味わえる宿がいいな」と思いました。それで、世界各国料理のケータリングや飲食店舗の再建などを手がけていたフードコーディネイターの寺脇加恵さんに、ダイニング部門を担当してもらいました。食堂では、小倉ならではの「大葉春菊」や、「合馬(おうま)たけのこ」、「豊前(ぶぜん)海一粒かき」など、地元の料理が一日中味わえます。もちろん、自分で食材を買ってきて調理することもできます。

石井 面白そうですね。ほんと、ゲストハウスはいま流行っていますね。

吉里 正直、ブームすぎてちょっと怖いな、というのもあります。そんな中で、100床以上の規模でやっているところと、5床とか20床くらいでやっているところは、同じゲストハウスと呼ばれていますが、構造もマーケットも全然違うんですよね。小さいところは顔が見えるコミュニケーションがあり、そこにゲストハウスの良さがあるんですが、一方で単純なビジネスでいうと、かなり難しいんです。効率の点からみると、宿泊ビジネスは規模が大きければ大きい方がもうかる構造になっているので……。50床以下でまわそうとすると、経費ばかりかさんでしまい、いろいろな問題が出てきてペイしにくいのが実態です。20床くらいでやっている宿には、ちょっと前の「田舎に戻ってカフェをやる」、という感じに近いものがあります。

宿は、いろんな形で人の心と接点が持ちやすい

石井 小さくなっていくと、小料理屋さんの延長みたいな感じになるんですよね。ママさんがいて、お料理があって、2階にも泊まれるよ、みたいな。

吉里 そうそう。一時期ペンションが流行ったのと近い感覚ですよね。あれはあれで、夫婦が住み込みで働いているからペイできるし、いい世界だと思います。問題は、50床くらいの規模のときです。その場合、まず大事なのは立地でしょう。東京、大阪、金沢だったら今はたいてい上手くいきます。僕らは北九州なので、その差はすごく感じますね。宿が目的地化しないとだめなので。

石井 そうですね。

吉里 僕らの場合は、旦過市場という、古くからの街の台所みたいな場所が近くにあります。そこに行くと特殊な食材がいっぱいあるんですよ。だから地元の食を楽しむというのが宿のテーマにもなっています。宿泊とレストラン、両方が大事なんです。

石井 ホテルが総合芸術だとすると、入り口はいっぱいあるんですよね。料理から入ってくる人、建築から入ってくる人、コミュニティデザインから入ってくる人、地域復興から入ってくる人……。いろんな視線があるからこそ、この時代に「こういうのって楽しいよね」という感覚をみんなが共有しているんだと思います。これからもどんどん増えていくでしょうね。

吉里 そうですね。宿ってやはりメッセージが大きいんです。たとえば、朝ご飯に土鍋で炊いた美味しいご飯と味噌汁が出てきたら、それだけでけっこう感動するじゃないですか。そういうのも含めて、人に与えるインパクトの間口が広い。いろんな形で人の心と接点が持ちやすいんです。食、人、ローカリズム……いろいろな体験ができる宿が増えていくでしょうね。

(構成 宇佐美里圭・写真 篠塚ようこ)

    ◇

吉里裕也(よしざと・ひろや)

1972年京都生まれ。東京都立大学工学研究科建築学専攻修了。株式会社 スペースデザインを経て、「 東京R不動産」を立ち上げるとともに、CIA Inc./The Brand Architect Groupにて都市施設やリテールのブランディングを行う。2004年に 株式会社スピークを共同設立。不動産・建築・デザイン・オペレーション・マーケティング等を包括的に扱うディレクターとしてプロデュース、マネジメントを行う。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から600件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。また「賃貸アパート改修さくらアパートメント」(東京・経堂)で2014年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)、『MUJI 家について話そう』(部分監修)、『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリア LIFE in TOKYO』(監修)。
ブルースタジオへのリノベーションのご相談は、隔月開催のセミナーや、個別相談で承っています。

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