このパンがすごい!

料理人とパン職人のコラボが生み出す、おいしさの一期一会 / ブラン

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年9月21日

フランス産ブリドモーチーズとくるみ、はちみつ

写真:「フランス産ブリドモーチーズとくるみ、はちみつ」を開いたところ 「フランス産ブリドモーチーズとくるみ、はちみつ」を開いたところ

写真:イワシオイルサーディンと山北みかん イワシオイルサーディンと山北みかん

写真:高知から届いた食材 高知から届いた食材

写真:瓦

写真:カオカの有機チョコレートと小夏ピールのブリオッシュ断面 カオカの有機チョコレートと小夏ピールのブリオッシュ断面

写真:和田尚悟さん(左)と大谷陽平さん 和田尚悟さん(左)と大谷陽平さん

写真:外観 外観

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ブラン(東京都)

 ある日、blanc(ブラン)に行くと、高知で野菜の仲卸をしている、和田尚悟さんの父が送った野菜が届いていた。朝はコーヒーとパン、昼はランチ、夜はワインバー。料理人とパン職人がコラボした注目の業態であるこの店の料理やサンドイッチは、高知から届いた旬の野菜や魚で作られる。

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 「イワシオイルサーディンと山北みかん」を頼むと、チャバタの中に赤や黄色の柑橘(かんきつ)類がはさまっていることに面食らうかもしれない。サーディンには臭みも余計な味もなく、青魚の持つ力強い香りやわくわくさせる旨味(うまみ)が舌も鼻孔も襲う。と同時に、高知の名品・山北みかんの果汁がほとばしって明るい甘さが咲くと、いぶし銀だと思っていたイワシの味わいが一気に華やぎ、まるでスポットライトを浴びるスターになる。ライトの色は実は2色で、もうひと色、レモンを絞りたいところへグレープフルーツの甘酸っぱさが飛び散る。さわやかな苦みを南フランス産のセルバティコ(野生種のルッコラ)が与えてもいる。

 それらはチャバタのぬくもりに包まれながら起こる。浅く焼かれ、ねっちりとほどけては溶けていくそれは最初目立たないけれど、鰯(いわし)が消えていくと小麦のミネラリーな風味がじんじんとしていたのに気づく。具材たちに深みと強靭(きょうじん)さを見えないところで与えていたのだ。

「料理と合わせたときおいしいパン、そういう評価がうれしい。パンだけ食べたときはノーマルなんだけど、小麦の味がしてきて料理の味を引き出すような」

 パン職人和田尚悟さんと、料理人大谷陽平さん。とあるベーカリーカフェで出会った2人は料理とパンのわくわくするようなマリアージュを起こしたくて、自分たちの店を持とうと話し合った。

 大谷さんは、ネオビストロというジャンルを確立した伝説的な店、パリのル・ヴェール・ヴォレで働いた経験を持つ。その日届いた旬の食材をアドリブで提供、昼夜問わず誰もが気軽に立ち寄れるスタイルは、この店から受け継いだものだ。

 凝ったソースでまとめあげるのではない。インスピレーションと季節の移り変わりが生み出す偶発的な食材の出会いはまさに一期一会で、そのかけがえのなさがおいしさに感動を与えている。

 瓦と名付けられたカンパーニュに具材をはさんだ「フランス産ブリドモーチーズとくるみ、はちみつ」。舌にやさしく触れるカンパーニュの中身に歯が入ると、内側からさまざまな風味が滲(にじ)みだしてくる。先走ろうとするブリドモーの手強(てごわ)い香り。それをはちみつの栗に似た甘さがマイルドにしつつ、カンパーニュの中の黒糖のような香りとも相性を見せる。あるいは、こりこりとくるみを噛(か)めば香ばしいパンの皮がそれとつながろうとする。あるいは、チーズのミルキーさにキタノカオリの甘さ、チーズの熟成香にはライ麦の風味が対応する。2種類の自家培養発酵種を使い、さまざまな風味に富みながらそれらが尖(とが)らずまろやかでバランスがいいことが、あらゆる食材を受け入れ、理解する懐の深さにつながっているのだ。

 料理とのマリアージュを考えたプレーンなパンだけでなく、ワンポーションのおやつパンも楽しいアイテムがそろっている。「カオカの有機チョコレートと小夏ピールのブリオッシュ」は、まるで香りの贈り物だった。切った瞬間、高知産小夏ピールの苦みと甘さが混じりあった香気が飛び出して、ごくりと唾(つば)を飲み込んだ。引っ張る強さがなく、ただただやわらかでぷにゃっとした歯切れの心地よさだけがあるブリオッシュ。フランス産カオカのオーガニックチョコレートと小夏は無敵のマリアージュだった。

 ピールは、サンドイッチに使った小夏の皮を、手間を惜しまず下処理し、オーブンの余熱で作ったもの。だから、香りはしっかりとありながら風味はやさしい。そのために、チョコといっしょになったとき、両者はやさしさの周波数が合っているのだ。素材への思い、丁寧な仕事は、決して裏切らない。

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Blanc(ブラン)
東京都港区虎ノ門1-11-13 1F
03・6273・3164
7:00~9:00
11:00~14:00
17:00~22:45(L.O.22:15)
第2・4土曜日は、11:30~L.O.1:00
第1・3土(貸切時営業)、日祝休

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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