このパンがすごい!

今しか出会えない、新麦の新米のようなとろける甘さ / エペ

  • 文・写真 池田浩明
  • 2016年10月26日

リュスティック

写真:国産小麦のバゲット
国産小麦のバゲット

写真:かぼちゃとブルーチーズ かぼちゃとブルーチーズ

写真:新潟港直送鮮魚のブイヤベースと、カンパーニュ・ナチュール、岩のりとバターのリュスティック
新潟港直送鮮魚のブイヤベースと、カンパーニュ・ナチュール、岩のりとバターのリュスティック

写真:店内風景
店内風景

写真:外観
外観

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EPEE (エペ)(東京都)

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神林シェフによるパンと料理のマリアージュ

 8月10日に九州からはじまった新麦は、10月20日ついに北海道が解禁し、シーズンのクライマックスを迎えた。その日、真っ先に行ってみたかったのは吉祥寺のエペだ。

「新麦には、新米のようなフレッシュなおいしさがありますよね。お客さんにもすごく好評でした」

 昨年、はじめての新麦シーズンを振り返って、エペの神林慎吾シェフが言った言葉をよく覚えている。パンは発酵という不可思議な過程を経るものなので、一言で新麦といっても、その特徴は作り手がどう引き出すかに多くをよっている。神林シェフによる新麦パンの「新米のようなおいしさ」とは、どういうものなのか。

 リュスティックは、私が「日本の至宝」と呼ぶキタノカオリの新麦(北海道・江別製粉)が使用される。混ぜすぎず、成形も最小限にとどめるこのパンは、小麦の風味を表現するのにもってこい。くっきり立ち上がったクープは、せんべいのようにばりばりと音を立てて割れ、皮愛好家をよろこばせる。一方、中身。舌にまとわった瞬間、ねっとり溶け、お米に似たフレーバーが湧き上がる。歯触りはもっちりとやさしく、とろけると、甘く、オイリーで、プレーンなパンなのに、まるでバターが入っているかのように感じられる。キタノカオリならではのフレーバーが、見事に強調されていたのだ。

 神林シェフが得意とするのは氷温熟成。通常、冷蔵庫などで行う低温長時間発酵よりもっと低い、マイナス5度の温度帯で長い時間にわたって熟成させる。

「凍るか凍らないかぎりぎりの温度です。プラス(0度以上)だと発酵(酵母が呼吸活動して糖が消費される)してしまうけど、この温度なら熟成だけが進みます。低温下で追いつめられた酵母が凍らないように、糖やアミノ酸を作りだすのではないか。この温度にはすごいことが隠されている」

 氷温熟成によって、新麦は真価をいっそう発揮する。

 国産小麦のバゲットに使用されるのは、十勝の農家・前田農産の新麦はるきらり。軽やかで歯切れのいいパンができるこの小麦の特徴が見事に活かされている。かりかりと皮は小気味よく割れる。その上で、香ばしさの奥にシリアルな甘さ、ナッツのような香りが感じられるのだ。中身もまた軽く浮いて、口溶けが軽快。でありながら、ふつふつと豊かで、清らかな穀物っぽい味わいが、時間とともにキレのいい甘さに化ける。

 神林シェフは、パンと料理のマリアージュを究めることをライフワークにしている。ビストロに併設されたブーランジュリーというエペの業態は、その最高の舞台。ディナー、ランチで料理に合ったパンが供される。イシダイ、ヘダイ、国産ムール貝を使ったブイヤベースには、岩のりとバターのリュスティックが合わせられた。ダシと岩のりが相まって海の香りが口の中でむんむんした。そこにダイス状のバターがとろけてまろやかに、クリーミーに。この上ない幸福の瞬間だった。あるいはカンパーニュナチュールといっしょに食せば、魚の香りとフランス産小麦、ライ麦の力強さが口の奥のほうで交錯して、両者のどちらでもない第三の風味が幻のように立ち現れた。

 調理パンにも素材と小麦の相性は表現される。かぼちゃのペーストにブルーチーズが混ぜ込まれた、かぼちゃとブルーチーズ。両者が出会うことで、不意打ちのような甘じょっぱさとともに、かぼちゃがミルキーになっていた。ビストロの席に着かなくても、1個の調理パンの中にさえ、すてきなマリアージュが仕組まれる。

 8割のパンに使用された国産小麦の大部分がいま新麦に置き換わっている。この機会にぜひエペを訪れ、新麦のおいしさを味わっていただきたい。

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■EPEE (エペ)
東京都武蔵野市吉祥寺南町1-10-4 1F
0422-72-1030
9:30~21:30

新麦コレクションのお知らせ

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PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

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