東京の台所

<4> 武蔵野の「文化住宅」、半手作り生活

  • 文・写真 大平一枝
  • 2013年2月6日
  

<住人プロフィール>
美術教師。40歳。
文化住宅・3K・JR中央線 吉祥寺駅(三鷹市)・入居9年・
夫(40歳、彫刻家)、長女(11歳)、次女(8歳)、三女(6歳)の5人暮らし

    ◇

 まだ子どもがひとりだった頃、彼女の「なんとなく次は吉祥寺がいいな」というつぶやきから、ぼちぼち家探しをしているうちに、井の頭公園にほど近い今の家が見つかった。砂壁には雨だれ模様。庭は荒れ放題で築年数もわからない平屋の文化住宅である。彫刻と木工を生業とする夫にとって、DIYはお手の物だ。「修理しちゃっていいですよネ」と、大家さんをねじ伏せ、最初は少しずつ、そのうち大胆にリフォームをくわえていった。

 庭にデッキを張り、家と隣家のすき間に工房を作り、壁や建具は塗り替えた。なかでも台所は圧巻だ。なにしろまな板を置く調理台、ガス台を置くスペース全部が手作りだ。

「台所で気に入っているのは、窓が大きくて開放的なところ。もとは外だったところに床と壁を張り出して増築しているらしく、一段下がっていて足もとのが寒いのですが、ここに立って料理をするのは気持ちが良くて楽しいです」

 窓から居間の先の庭まで、夏は心地よい風が通りすぎる。夫の作った棚や台が主役だと思っていたが、もしかしたらこの大きな窓こそ台所の主役かもしれない。

 美大時代の友だちに陶芸家も多く、もともと焼き物も好きなので、個展などに行くとつい買いたくなるが、ものをあまり持たないようにしている。

「収納が少ないので。今は子どもも増えて家族5人ですから、毎日乱暴に使っても丈夫で、家にあっても嫌じゃない質感とデザインで、機能性の高いものを少しだけ持つようにしています。焼き物とか、そのうち、そういうものもゆっくり楽しめるときが来る気がします」

 彼女の朝は忙しい。ごはんチームとパンチームにわかれるからだ。

「長女次女は必ずご飯がいいというし、三女はたっぷりマーガリンを塗ったパンが好き。おかずもパン派はソーセージかツナ。ご飯派は肉か魚、それと野菜。お弁当作りもあるから慌ただしいです」

 鍋は、片手鍋と大鍋のふたつでだいたい事足りるそう。熱伝導が良くて、汁物煮物、揚げ物、何でもおいしく仕上げてくれるル・クルーゼを長年愛用している。

「足りないもの、うーん。なんだろう。なにか足したら何かを処分しないと家に収まらない。だから欲しいものをあまり数えないようにしています。実際あまり物欲はないかなあ」

 欲しいところにちゃんと夫自作の棚があり、台がある。足りないものがないこの台所には、あまりプラスチック製のものが見当たらない。いや、木造のこの文化住宅全体、内と外を見回しても、そういう無機質な素材がほとんどない。夫婦は共に、家は「町の財産」であり、風景を作るものではないかと考えている。合成樹脂がどんなにカラフルで見た目がキレイでも、木や石や焼き物など自然素材の質感の美しさにはかなわないと信じている。

 歳月とともにいい味わいになるかどうか。彼らの中で美しさの基準はそこにある。

 ぬくもりという安易な言葉を使ったとたん薄っぺらく聞こえるので悔しいが、その台所に立つと気持ちがよくて、あたたかい。それは自作家具と窓と、空間を構成している大小のものたちの質感のせいなのだとわかった。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

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