太陽のまちから

時代の扉を開く「現場」の声

  • 文 保坂展人
  • 2013年2月12日

 行政のトップだからと言って、すべての実務に精通しているわけではありません。しかも区役所という組織の中にいると、「これまでにできていること」「これから実現しようとしていること」を聞くことはあっても、「いま、できていないこと」を耳にする機会はほとんどありません。「制度が機能していない」「現状はあきらめるしかない」といった声を拾うことができにくいのです。

 そのため、私は毎朝、「区長へのメール」を開封して読むことから1日を始めています。ここには、区民からの具体的な訴えがダイレクトに飛び込んでくるのです。そのほか、27の地域別の車座集会、年間30回の区民意見交換会も重ねてきました。また、くじ引きで招待した参加者に区政の課題について語り合ってもらう「ワールド・カフェ」を開いたりもしました。

 「声なき声」に耳を澄ます。そこに進むべき道が示されるのだと信じて、心を砕いているつもりです。

 ツイッターフォロワーのオフ会を続けているのもそのひとつです。「桜新町で子どもの未来を語る茶話会」。11日の午前10時、サザエさんで知られる町の和風喫茶店に子育て中のお母さんたちが次々とやってきました。

 ジャーナリストや国会議員の時代のように、私が一方的に語り、質問に答えるという形式よりも、はるかに濃密で有益な展開に恵まれています。ツイッターによる私のつぶやきに継続的に目を通して問題意識を共有してもらっているおかげで、より深い議論ができるのです。

 たとえば、働いているお母さんが子どもを認可保育園に入れるためにどんな苦労をしているか、あるいは学童保育の現場でなにが起きているかなど、区長室の椅子に座っていてはわからない「まちづくりの死角」がリアルに見えてきます。ほかにも、世田谷区が模索している「成人発達障害支援」にどんな期待があるのか。いじめで傷ついた子が学校に行けなくなった時に、どのような立ち直りの機会が必要なのか……。日常の中でぶつかる制度の壁や隙間が次々と語られ、「現場」の声に教えられることばかりです。

 フォロワーを対象したオフ会がけっして区民の意見をすべて反映しているわけではないことは自覚しています。それでも、私が励まされるのはなぜでしょうか。

 これまでのように行政に要請や注文を繰り返すのではなく、市民・区民としてみずから参加し行動することで責任を分かち合おうという志に触れることができるからだと思います。そこに、時代の扉を開いていく可能性を感じるのです。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03〜05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。


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