東京の台所

<15>「抹茶ジャンキー」のデザイン王国 

  • 文 大平一枝
  • 2013年5月8日
  

〈住人プロフィール〉
 グラフィックデザイナー、美大講師、41歳。
 賃貸マンション・3LDK・小田急線 池ノ上駅(世田谷区)
 入居2年・築年数5年

    ◇

 デザイナーという職業のためか、ひとつひとつの色、柄、質感、形なにもかもに隙がない。器ひとつ、布巾ひとつ、毎日1リットルは飲むという炭酸水を作るマシンでさえも、機能と同じくらい見た目の美しさを重視し、精査してから買ったという。主張しすぎず、うるさくなく、それでいて存在感があり、フォルムが美しいものばかりだ。

 しかし、そういうデザイン性の高いものに囲まれた空間にありがちな堅苦しさがない。正直に言えば、その手の家の取材は、ずぼらな私のような者は少し疲れてしまう。どこか人を緊張させる空間というのはあるものだ。ところがここは予想外に居心地がいい。

「祖父が田舎で旅館をやっていて、毎日のように遊びに行っていたのです。木造日本家屋の平屋で、物見台があって、そこへいくまでに急な階段やぞっとするくらい暗いところがあって。それが心のどこかに、原風景として残っているんですね。こういう仕事をしているので北欧のデザインや西欧の古いものだとかに憧れもしますが、最近は日本のものに惹かれていくのを感じます」

 5年前からお茶を習っている。それまでも自己流で抹茶を点てて飲んでいた。冗談交じりに「お抹茶ジャンキー」と自称する。

「10時、14時、16時。1日に3回は必ず抹茶を飲みます。和三盆やドライフルーツをちょこっとつまんで。さて仕事をするかと、気持ちを切り替えるのにいい。お茶が仕事の区切りになっているのかもしれませんね」

 一人暮らしのマンションは仕事場でもある。だらだらしようとすればいくらでも怠けられる。逆に根を詰めたら、昼夜もなくなる。

「25歳から一人暮らしを始めました。元々料理好きなのでなんとなく化学調味料はやめておこうくらいに思って自炊していましたが、30を過ぎてからは、食べることは大事だなとはっきり意識するようになりました」

 料理は、野菜のうま味が分かる程度の薄味にし、だしは自分でとり、調味料の品質にはこだわる。そして、飼い犬にあわせて早寝早起き、規則正しい暮らしをするようになったら痩せて、冷え性も治った。

 壁には自分で作った注連縄(しめなわ)。「どうぞ」と差し出された焼き物の器には抹茶。木のテーブルにキャビネット。おじいちゃんの家にもあったに違いない日本の台所道具やしつらいが、RC造りのマンションの1室に、やわらかな質感を与えている。なごみの因子はこれか。

 ところでコレクションは、各国の爪楊枝やれんげ、匙などのカトラリーだと言う。

「まずはその土地のスーパーに行きます。旅の目的は美術館とスーパーと言い切ってもいいですね。そこで爪楊枝やチープなスプーン、ペーパーナプキンなんかを買うんです。台湾、メキシコ、ベトナム。国によって形や質感が全然違うんですよ。日本にはない雑な発想で作られたプロダクトは見るだけでも楽しい。どんな料理に添えようか。買ってから考える。だからどんどん増える一方です」

 ひとつひとつ形が違うような素朴なカトラリーが引き出しから次々出てきた。そこまで計算してはいまいが、このゆるささえとりこんだ台所はいわば彼女のデザイン王国。そういう意味で、隙がない。

つづきはこちら

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

おすすめ

スクロールが必要な長いwebサイトや出力しにくいアプリ画面も、レシートのように一枚の紙に出力できる便利なスマホプリンター

SDスロットに差しておくだけで、指定したファイルが更新されるたびに自動で保存してくれる便利なSDカード

iPhone6/6Plus対応のケースやガラスフィルムが続々入荷

高度な状況判断と理想的な清掃動作を実現した、新生「ルンバ」

栄養素を逃さないのは低速回転?高速回転?

一見海外からの郵送物にしか見えないスリーブは、摩擦や水濡れにも強い緩衝材入りのPCケース。タブレットやスマホ用も発売中


Shopping

  • ダイバーシティープロジェクト