名前のない料理店

沖縄の食材でフルコースを出前する

  • 短期集中連載 名前のない料理店(1)
  • 2013年6月18日

写真:60キロに及ぶ食材と調理器具・食器を運び込む(撮影 垂見健吾)60キロに及ぶ食材と調理器具・食器を運び込む(撮影 垂見健吾)

写真:簡易テーブルを広げての準備もひとりでこなす(撮影 垂見健吾)簡易テーブルを広げての準備もひとりでこなす(撮影 垂見健吾)

写真:慣れた手つきで、「ライブ」と呼ぶ宴を待つ(撮影 垂見健吾)慣れた手つきで、「ライブ」と呼ぶ宴を待つ(撮影 垂見健吾)

写真:持ち込んだ食材を開いて、いよいよ調理がはじまる(撮影 垂見健吾)持ち込んだ食材を開いて、いよいよ調理がはじまる(撮影 垂見健吾)

写真:新鮮な食材を扱うだけに、いつも、その日だけの特別メニュー(撮影 垂見健吾)新鮮な食材を扱うだけに、いつも、その日だけの特別メニュー(撮影 垂見健吾)

 沖縄で、一風変わった「レストラン」がひそかな人気を呼んでいる。その名も「名前のない料理店」。

 依頼を受けた個人の家や指定された会場で、地元の食材だけを使ったフランス料理のコースをつくって振る舞う。切り盛りするのは、シェフの小島圭史さん(43)。航空関連会社から転職した、異色の料理人だ。

 料理のみ、1人5千円から。最低6人集まれば、出張に応じる。一般的には、飲み物は客が用意する。ホームパーティをはじめ、結婚祝いの食事会や親戚が集まる祝宴のほか、ときには県外からも声がかかる。おもな客層は30代から50代という。

 人気の秘密は、地元の自然食材への徹底したこだわり、見たこともない新鮮な調理法への驚き、さらには、親しい人たちと囲む日常空間での非日常の味……。

 たとえば、春のある日、沖縄中部で開かれた宴には、人気ミュージシャンのキヨサクさんをはじめ13人が食卓を囲んだ。

 午後7時半すぎ、小島さんはワゴン車に積んできた約60キロにも及ぶ調理器具や食材をキッチンに運び込んだ。

 この日のメニューは以下の全7品。

 〈アミューズ〉
 自家製の生ハムとクリームチーズ

 〈温前菜〉
 勝連産の鰆と紅ジャガ芋のプレッサ

 〈冷前菜〉
 東村のヒージャー(山羊)ミルクと島人参のヴルーテ

 〈魚〉
 読谷産のマンボウのソテ/泡瀬のアサリと姫シャコ貝のジュ

 〈肉〉
 島豚のパテ・アン・クルート
 純血アグー・ロースのロティ・フダン草のナージュ

 〈デザート〉
 ニガナのグラス、ビーツのタルト

 いずれも、素材の仕入れから仕込みまで済ませてあり、現場で調理するだけ。とはいっても、ひととおりコースを終えるまで3時間はかかる。

 小島さんは、乾杯するゲストたちを横目に、メインとなる純血アグー豚の塊をフライパンで火にかけた。同時に、コンロの近くに広げた即席のテーブルで、アミューズを皿に盛っていく。わきには、生ハムの塊。聞けば、沖縄でも希少な純血アグー豚を仕入れて、まるまる1頭をみずからさばき、1年以上かけて熟成させたものだという。

「たとえば、スペインの有名な生ハムをだせばおいしいかもしれないけど、それは、僕の料理じゃない。沖縄にいるからこそ沖縄の、それも食べたことのない味を提供したいんです」

 沖縄の土地で暮らしているのだから、この土地をまるごと食べてほしい。そう小島さんは語る。

「最高級の食材をそろえて、おいしいところだけを使えば、贅沢な料理はできる。でも、それが本当に最高の料理なのでしょうか」

 食材を捨ててばかりいる厨房をイヤと言うほど見てきた小島さんは、こんな結論にたどりついた。

「人間の都合ではなく、野菜や肉の都合で調理をしたい」

 仕込みから調理、配膳、片付けまで、基本的には1人でこなす。「あんまりもうからないんですけどね」。そう言いながらもやめられないのは、食材との、そしてお客さんとの「一期一会」があるからだ、という。

「完全アウェーの状況のなかで、どんな料理をだしたら、喜んでもらえるか。ライブのおもしろさ、ですかね」

 そもそも、この出張スタイルは苦肉の策として生まれた。料理人の道へ進んだのも、ふとした偶然からだった。(つづく)

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