葉山から、はじまる。

<24>東京離れ、オーガニックな服づくり叶える

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2013年6月28日
店内の右側の棚には、オーガニックのドイツのシュタイナーの思想に基づいたハーブティや化粧品、生活用品が並ぶ。ドイツ製「ソネット」の洗剤は、環境と健康を配慮したおすすめ。ミルフォイルの製品化の過程でもソネットを使用している

  • 店内の右側の棚には、オーガニックのドイツのシュタイナーの思想に基づいたハーブティや化粧品、生活用品が並ぶ。ドイツ製「ソネット」の洗剤は、環境と健康を配慮したおすすめ。ミルフォイルの製品化の過程でもソネットを使用している

  • 国道134号線沿いにあるミルフォイルは、たたいずまいもさり気なくシンプル

  • ミルフォイルはセールをしないことがポリシー。棚にはオリジナルの定番が並ぶ。Tシャツの襟ぐりは広すぎず、狭すぎず、絶妙のバランス。七分袖Tシャツ4935円(税込み)など

  • 戸外の緑に映えるプリントの商品は、グラフィックデザイナー、メンズのデザイナーと井上さんの3人でコラボした「ラベージ」というブランド

  • 秋冬はシックなモノトーンが中心で、春夏はカラフルな色や柄が登場。デザインは変えず、色や柄で遊びながら、一つの定番を長く売っていく

  • オーナーの井上浩司さんは葉山で子育て中。緑の多い場所ならではのワーク・ライフ・バランスを探っている

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 葉山の町中を走る幹線、国道134号線沿いにあるオリジナル・ウエアとオーガニック生活雑貨のショップ「ミルフォイル」は、大きな看板もなく、また間口も小さくて、決して目立つ店舗ではない。しかし昨年のオープン以来、地元を中心にファンが急増中。ナチュラル志向の人たちから、大きな支持を集めている。

 理由は、原料の糸から、染料、仕上げの洗剤まで、すべての工程でオーガニックな手法を貫いていること。ショップの棚に並ぶTシャツ、タンクトップ、ワンピース、スパッツなどは、どれもシックな色合いで、手に取ると、すっと柔らかく肌に馴染む。

 店では葉山に越してきたばかりという若い夫婦が、身内の赤ちゃんの誕生祝いを探していた。

「なるべくエコロジーに沿った暮らしをしたいと思って、葉山への引越しを決めたんです。ここなら意識の高い人が多いし、情報も集まっているんじゃないかな、って」

 オーナーの井上浩司さん(46)とそんな会話を交わしながら、彼らが選んだのは、生成り色のシンプルなベビーウエア。赤ちゃんも、お母さんも喜びそうな風合いに、思わず頬ずりしたくなる。

「何よりもこだわっているのは、ファーストタッチのよさ。環境負荷が少なくて安全という点もさることながら、『赤ちゃんの肌にやさしい』ということをいちばん大事に考えています。生成りの商品はワタの段階から最終的な形にするまでの間に、化学処理をほどこさないので、それが可能になるんですね」と、井上さんは説明する。

 井上さんは、大阪と東京で長くアパレルビジネスに関わってきた。独立前に勤めていたファッション企業では、ブランドの企画・デザイン・ディレクションを担っていた。そこでオーガニック・コットンを知ったが、企業が重視する大量生産と環境への配慮を両立させることは難しかった。

 葉山への縁を取り持ったのは、葉山でオーガニックライフ・ショップ「レパスマニス」を経営する川崎直美さんだった。

「仕入れの打ち合わせをしていたときに、川崎さんから『たまには葉山でどう?』と誘われて。初めて来てみたら、海と山が近くて、自然があふれているところが、自分の理想に近いと思いました。それで、『ここに店を持とう』と、直感的に決めちゃって(笑)」

 そうやって立ち上げたブランドには、ほつれなどの問題から普通は化学繊維にする縫製糸にもオーガニック・コットンを使用している。

「ビジネスの規模を小さくする。店も都会の1等地と決め付けない。そんなふうに枠組みを変えてみたら、自分の理想を追求できるようになりました」

 都会ではなく、地方から発信する。そのモデルとなる「地域のコミュニティショップ」を実践するのに、人と情報のネットワークがある葉山は格好の土地だった。葉山で成り立てば、神奈川の藤野や千葉の房総エリアなど、コミュニティ活動の盛んな土地でも応用できる。井上さんは、アパレルビジネスを通して、その可能性を広げたかった。

 オリジナル・ウエアの原料となるオーガニック・コットンは、インドで生産されている。その原料を商品に仕立てるのは宮城県にある工場だ。アパレル業界では、中国や東南アジアなど、安い労働力のある国で縫製することが常識になっているが、高い縫製技術のある日本で作るからこそ意味がある、と井上さんは言う。

「日本ではキズものなどの返品が出たら工場が責任を負うというシステムの中で、縫製技術が磨かれてきました。ですから、現場の雇用条件は決して恵まれたものではありません。その厳しさを見てきた僕は、デザインをできるだけシンプルにすることで手間を省き、その分、細かいこだわりを表現してもらうようにしています。工場の加工賃は値切りませんし、加工原料が上がれば、値上げにも応じます。また、現場の人に気持ちよく作業をしてもらえるように、製品化の過程で使う洗剤なども、体に害のあるものは使いません。そのような、ちょっとした思いやりと気配りが商品に反映していくのだと思っています」

 1枚の手触りのいいTシャツの背景には、日本の地方が抱える地域産業と雇用の課題が潜んでいる。20年近い取引を通じて、井上さんはその課題についても考えてきた。

「東北の工場は、農閑期に働きに出てきてくれる農家の奥さんたちに支えられています。農業が盛んになれば、彼女たちの生活基盤は安定するし、縫製工場の雇用形態が改善されていけば、昔のように、日本の工場も成り立っていく。自分が作るものに関わる人たちみんなで利益を分け合っていくことで、少しでも理想に近づいていければいいな、と願っているんです」

 井上さんがいう「利益」とはお金だけでなく、「気持ちのよさ」という価値も含む。だからこそ、ブランドの身上は、あくまでも自然にさりげなく。

「Tシャツやワンピースは、ふわっと軽い風合いで、あえて少し大きめに作っています。それだと重ね着も楽しめます。体を締め付けずに、あまーく、ゆったり着てほしいですね」

 夏はシックな定番にカラフルなラインも加わる。「水着の上にどうぞ」というところが、いかにも葉山らしい。

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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)など。「『葉山から、はじまる。』取材者だより」はこちらから。

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