太陽のまちから

いまこそ、民主主義のバージョンアップを

  • 文 保坂展人
  • 2013年7月2日

写真:大勢の聴衆がつめかけた「世田谷区基本構想シンポジウム」(世田谷区提供)大勢の聴衆がつめかけた「世田谷区基本構想シンポジウム」(世田谷区提供)

写真:演壇に立つ保坂展人・世田谷区長(世田谷区提供)演壇に立つ保坂展人・世田谷区長(世田谷区提供)

 6月29日(土)の昼下がり、「世田谷区基本構想シンポジウム」が開かれました。基本構想とは、従来は「自治体の憲法」とも呼ばれ、将来のまちづくりの基本的な指針を定めるものです。行政にとっては日々の仕事の土台となる重要なものですが、名称もかたく、認知率も23.8%(2012年区民意識調査)。にもかかわらず、会場となった世田谷区民会館大ホールには、450人の聴衆が集まりました。

 市民には縁遠く思われがちな「世田谷区の憲法」に、どうやって関心を抱いてもらうか。私なりに心を砕いてきました。

 2011年12月、25人の委員からなる基本構想審議会(森岡淸志会長・放送大学教授)が設置されて以来、1年半にわたる議論をすべて公開しました。

 昨年6月には、「無作為抽出方式」による区民意見ワークショップを行ないました。朝10時開始、夕方5時終了という長時間にもかかわらず、20代から70代までの88人が集まり、世田谷区の未来ビジョンをめぐって語り合いました。静かな感動を覚えたのは、20に分かれたグループがそれぞれのビジョンを語り終えたときのことでした。

「こんな楽しいひとときはなかった。ぜひ、地域で異世代交流ができるコミュニティ・カフェをつくりたい」

 参加者のなかから、そんな声が相次いだのです。

 また今年1月には、基本構想にからんだ「区民意見提案会」を開き、公募によって集まった29のグループが濃密な議論を重ねました。こうして区民が参加する回路を積み上げてきたことが、シンポジウムでの異例なまでの盛況につながったのだと思います。

 この日、基調講演に立ったのは、審議会の座長代理をつとめた社会学者の宮台真司さんです。「話す前に原稿を書いたのは、生まれてはじめて」というように、原稿を手に壇上に立ちました。その文章を少し紹介しましょう。

「東日本大震災と原発事故は、〈任せて文句を言う〉だけの「お任せ民主主義」が、我々の命を守らない事実を明らかにしました。〈引き受けて考える〉ことを旨とした「参加民主主義」へのシフトが求められたのです。そのために基本構想への取り組みが開始されました」

 1年半の審議会を通してキーワードとなったのが、合意形成の手法でした。

「コンセンサス会議というデンマーク発のやり方では、対立的立場の専門家の意見や専門家同士の討議を市民が観察した上、市民と専門家との間の質疑応答をも加えて〈科学の民主化〉を行った上、最終的には専門家を排して、市民だけが決定に参加します。こうしたやり方を通じて、極端さや勇壮さを競うだけの、事実認識が出鱈目(でたらめ)なポピュリストの主張を、完全に無力化すると同時に、新しい事実や価値についての気づきを獲得して、共同体自治のベースになる〈我々〉を構築します。つまり、〈民主主義を通じて民主主義をバージョンアップする営み〉なのです」

 宮台さんは、「参加と熟議」を徹底することで「民主主義をバージョンアップする」ことは議会の役割を軽視するどころか、民主主義の質を高める、と位置づけています。

 基調報告に続いて、「基本構想」の文案につながった議論の経過や論点が審議会の委員から語られました。その後、聴衆から寄せられた質問や意見はなんと103枚。ほぼ4人にひとりがなんらかの反応を示したのです。何という参加率の高さでしょうか。

 相も変わらず「政治不信」の言葉が繰り返されるなか、まもなく参議院選挙が始まります。今年初めて解禁されるネットも参加のツールには違いありません。キャラの立った首長のトップダウンの「改革」がもてはやされる風潮もあります。

 でも、重要なのは「民主主義の進化」ではないでしょうか。情報回路をつくり、議論をかわす場をもうければ、「熟議」は可能だということを、世田谷でのささやかな取り組みが示しているように思うのです。「ボトムアップ」の議論の結果、自治の力が飛躍的に高まり、政治と行政の質も向上するでしょう。

 私には、確信があります。日本は変わることができる。そのためには、「参加と熟議」のための手間と時間を惜しまずに「民主主義の進化」を重ねて市民が力を蓄えていく。遠回りに見えるかもしれませんが、それがほとんど唯一の手法だと思います。

 7月7日からは5日間連続で、世田谷区内の地域ごとに「基本構想タウンミィーティング」を開きます。

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PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03〜05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

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