葉山から、はじまる。

<27>ビーチカルチャーを変革した「海の家」

  • 文 清野由美 写真 猪俣博史
  • 2013年7月19日
アジアの市場が砂浜に出現したような、竹とトタンで作ったOASISの外観

  • アジアの市場が砂浜に出現したような、竹とトタンで作ったOASISの外観

  • ライブやイベントのスケジュールが手描きされたボード

  • 海辺のバーカウンターでは、スピリッツ&リキュールや、カクテルのメニューも充実

  • キッチンで料理作りにいそしむ朝山正和さん。若いスタッフと一緒に労働を楽しむ

  • エスニック・テイストがあふれるOASISキッチンのユニークなメニューは、キャシュ・オン・デリバリーで

  • 森戸海岸に建つOASISの全景。海辺に向かって、バーやカフェのカウンターが並ぶ

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 夏。葉山のオンシーズンがついにやってきた! 梅雨明けと同時に、一気に真夏日に突入した海辺には「海の家」がでそろい、浜辺は夏の光景に染まっている。

 葉山の海の守り神、森戸神社の横に広がる森戸海岸には、葉山の夏を象徴する海の家「OASIS(オアシス)」が、今年もオープンした。

 海岸通りから森戸神社の参道に入り、森戸大橋を渡ったすぐ目の前。竹とトタンで作った建物はエコロジーそのもので、メニューに並ぶのは南インド定食、ジャマイカンプレートなど、エスニック色あふれる料理たち。店内に設けられたステージでは、レゲエ音楽を中心に、さまざまなライブが、ひと夏にわたって展開される。

 1981年にスタートしたオアシスは、それ以前の典型的な「海の家」とはまったく異なるコンセプトで、ビーチ・カルチャーに変革をもたらした。当時から一貫して主宰者を務めるのが、葉山在住35年になる朝山正和さん(60)だ。

 大分県の出身で、中高時代は小倉で過ごした朝山さんが、葉山に住み着いたのは78年のことだった。東京芸大建築科に在学中、ヨーロッパなど世界各地を放浪し、7年をかけて同大を卒業した後は、東京で空間デザインの仕事についた。

 時代は学生運動の重さが残る70年代から、商業主義が花開く80年代へと、劇的に変化する節目。東京では派手な仕事もあったが、都市のサイクルは肌に合わなかった。

「ものすごく収入が高くても、ものすごく出費がある。そうやって仕事を回していくことに、恐怖を感じちゃって(笑)」

 ひとつ前の時代のヒッピー的な生き方に共感していた朝山さんは、故郷のように海と山がある葉山で、「ブラブラと暮らすこと」を選ぶ。

 そのころ、逗子の自然食品店「陰陽洞」の店主から、海の家の運営を持ちかけられた。海水浴人気が低下した浜辺で、海の家の組合に入るのは難しくはなかった。周囲には、音楽家、美術家、旅行者、フリーランスら、「自然食品が好きで、定職を持たない人たち」が集まっていた。みんな、お金はなくても、時間を持っている。彼らとともに始動させた海の家のプロジェクトでは、建物を自分たちで建てることから手がけた。

「僕自身、デザインされた建築物というよりも、インスタレーション(3次元の展示)に近いものが面白いと思っていたし、仮設のような建物で生きていく、というイメージに自由さを感じていたので」

 都会では場所の個性とは無関係に、コンクリートのビルが建てられる。セルフビルドの海の家はそのような効率とはかけ離れていたが、場所とダイレクトにかかわりながら、人が生きていけるスタイルだった。

 そんな建物で、自然食をベースにしたアジアの食事を出す。代金は、従来の海の家のような席料ではなく、出入り自由で食事代を支払ってもらうカフェ方式。プロジェクトには「セルフビルド」「エスニック」「オーガニック」と、後にオルタナティブな生き方のキーワードとなる概念の芽があった。

「それと、美術系の人間は音楽が好き。なかでも当時からみんな、レゲエが好きでね」

 レゲエは、構造が重視される西洋音楽と違って、リズムに乗れれば、あとは自由。葉山の波の音と、ジャマイカのリズムと、その背後にある民族重視のメッセージ。それらが浜辺でシンクロしながら、独特のオアシス・カルチャーが発信されていった。

(→後編に続きます。)

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PROFILE

清野由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)など。「『葉山から、はじまる。』取材者だより」はこちらから。

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