とろ〜り、重たげな乳白色。ねっとりした練乳が、甘いにおいを漂わせて、グラスにたっぷり注がれました。
「ホット三つ」「こっちはアイスで二つね!」
途切れることなくつづく注文に、右手を上げて次々と応える。軽やかにコーヒーを淹(い)れていくのは、“コーヒー・マイスター”と呼ばれる初老の男性。“マレーシアの国民的飲料”と言いたくなるほど、いたるところで飲める「ホワイト・コーヒー」が、飛ぶように売れていきます。
マレーシアでは、コーヒー豆を、マーガリンと砂糖で真っ黒になるまで焙煎します。砂糖の使用量を減らして黒さを抑えたのが、「ホワイト・コーヒー」という名前の由来といいます。
練乳とスキムミルクに、砂糖まで加えた、甘い甘いコーヒー。どう見ても適当に目分量で淹(い)れているようなのですが、“コーヒー・マイスター”の手にかかると、甘さと味わいが均一にできあがるとか。
この「ホワイト・コーヒー」の発祥地とされているのが、マレーシアの古都「イポー」です。
首都クアラルンプールから、マレー鉄道の新しい高速電車「ETS(エレクトリック・トレイン・サービス)」に乗り込み、北上すること約2時間20分。英国植民地時代のコロニアル風な建築物がいまも残るイポーは、クアラルンプールから日帰りできる観光地として、マレーシアの人々に人気です。
なぜなら、イポーはマレーシアきっての“美食の街”だそう。険しい岩山に周辺をぐるりと囲まれた盆地という地形ゆえ、昔からきれいな水に恵まれてきました。良質な水がある土地は、料理の文化が発展します。
イポーの名物は、なんと、その清涼な水が育んだ「もやし」だとか。短くて太く、シャキッとした歯ごたえ。においのないもやしを、チキンライスとセットで、たっぷり食べるのが定番です。
まずは身の引き締まった地鶏をまるごと、天然水でやわらかくしっとりとゆで上げます。鶏のうま味が出たゆで汁は、つまり“丸鶏でとった出汁”。これでご飯を炊き、もやしをさっと湯がきます。出汁は味を整えてスープとしても食べます。鶏を余すところなく味わい尽くす、この絶妙な組み合わせ。食べることに貪欲な先人たちの知恵に、思わず感謝したくなりました。
切り立った岩山に囲まれた地形は、清らかな水に加えて、数々のミステリアスな洞窟を、イポーにもたらしました。イポーの周辺には、石灰岩の鍾乳洞をそのまま利用した仏教寺院が、いくつもあります。
かんかんと真上から照りつける太陽を逃れて、鍾乳洞のお寺に入ると、薄暗い内部は、奥まで長く延びていました。空気はひんやりとして、“いい気”が流れているよう。ほっとひと心地つけるスペースです。
自然の地形を生かした洞窟は、地元の人たちの手により、東南アジアらしく華やかに飾られています。どことなくのんびりしたお顔の仏像が、何体も安置されていました。
信仰心によって守られつつ、観光客も受け入れるおおらかな風通しのよさで、いつのまにか“パワースポット”として知られるようになりました。何カ所も回る女子グループもいるそうです。
美食が自慢の古都で、食べ歩きの合間に寺院へお参り。う〜ん、なんだか煩悩が勝っているような……。そんな旅行者を受け入れる度量の大きさもマレーシアらしいな。なんだか納得できるのでした。
■取材協力:マレーシア政府観光局

旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化を体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案する。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。「江藤詩文の世界ゆるり鉄道旅」をmsn産経に連載中。
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