世界美食紀行

パワースポットで食いだおれ マレーシア(3)

  • 文 江藤詩文
  • 2013年7月29日

写真:米粉で作った、透明感のあるやわらかな平打ち麺もイポーの名物。鶏ガラと豚骨の合わせ出汁のスープは、酸っぱ辛くて食が進みます。奥はアイス・ホワイト・コーヒー米粉で作った、透明感のあるやわらかな平打ち麺もイポーの名物。鶏ガラと豚骨の合わせ出汁のスープは、酸っぱ辛くて食が進みます。奥はアイス・ホワイト・コーヒー

写真:醤油ベースの甘辛い自家製ダレを絡めた「ゆでもやし」。同じタレをかけ回したゆで鶏と、香りのいい炊き込みご飯がセットですが、主役はあくまでも「もやし」醤油ベースの甘辛い自家製ダレを絡めた「ゆでもやし」。同じタレをかけ回したゆで鶏と、香りのいい炊き込みご飯がセットですが、主役はあくまでも「もやし」

写真:健康的に育てた鶏を使った、もうひとつの名物が「ソルトチキン」。内蔵を抜いた鶏に、漢方の生薬を入れて紙で包み、高温で蒸し焼きに。豪快に手づかみでかぶりつきます健康的に育てた鶏を使った、もうひとつの名物が「ソルトチキン」。内蔵を抜いた鶏に、漢方の生薬を入れて紙で包み、高温で蒸し焼きに。豪快に手づかみでかぶりつきます

写真:豆乳スイーツ「豆花」も、水のおかげで清らかな味わい。シロップをかけた定番のほか、漢方ゼリーを浮かべた、白黒の組み合わせから“マイケル・ジャクソン”と呼ばれるものも豆乳スイーツ「豆花」も、水のおかげで清らかな味わい。シロップをかけた定番のほか、漢方ゼリーを浮かべた、白黒の組み合わせから“マイケル・ジャクソン”と呼ばれるものも

写真:岩壁にへばりつくように建てられた「ペラ州洞窟寺院」。入り口に立つと、のしかかってくるような建物は圧倒的な迫力があります。地元のひとの参詣も多く、居心地がいい岩壁にへばりつくように建てられた「ペラ州洞窟寺院」。入り口に立つと、のしかかってくるような建物は圧倒的な迫力があります。地元のひとの参詣も多く、居心地がいい

写真:イポーには、ミネラルを豊富に含んだ天然の温泉も湧出しています。約400万年前に形成された石灰岩の洞窟を利用した「ザ・バンジャラン・ホットスプリング・リトリート」は、5ツ星のラグジュアリーなリゾートホテルイポーには、ミネラルを豊富に含んだ天然の温泉も湧出しています。約400万年前に形成された石灰岩の洞窟を利用した「ザ・バンジャラン・ホットスプリング・リトリート」は、5ツ星のラグジュアリーなリゾートホテル

写真:映画「セカンドバージン」のロケ地になった、イポー郊外にある「ケリー城」。英国人の主が病死し、建設途中でそのまま忘れさられて、近年になって草むらから発見されたムーア建築の建物。美しくも物悲しさが漂います映画「セカンドバージン」のロケ地になった、イポー郊外にある「ケリー城」。英国人の主が病死し、建設途中でそのまま忘れさられて、近年になって草むらから発見されたムーア建築の建物。美しくも物悲しさが漂います

 とろ〜り、重たげな乳白色。ねっとりした練乳が、甘いにおいを漂わせて、グラスにたっぷり注がれました。

 「ホット三つ」「こっちはアイスで二つね!」

 途切れることなくつづく注文に、右手を上げて次々と応える。軽やかにコーヒーを淹(い)れていくのは、“コーヒー・マイスター”と呼ばれる初老の男性。“マレーシアの国民的飲料”と言いたくなるほど、いたるところで飲める「ホワイト・コーヒー」が、飛ぶように売れていきます。

 マレーシアでは、コーヒー豆を、マーガリンと砂糖で真っ黒になるまで焙煎します。砂糖の使用量を減らして黒さを抑えたのが、「ホワイト・コーヒー」という名前の由来といいます。

 練乳とスキムミルクに、砂糖まで加えた、甘い甘いコーヒー。どう見ても適当に目分量で淹(い)れているようなのですが、“コーヒー・マイスター”の手にかかると、甘さと味わいが均一にできあがるとか。

 この「ホワイト・コーヒー」の発祥地とされているのが、マレーシアの古都「イポー」です。

うま味をまとった「もやし」料理

 首都クアラルンプールから、マレー鉄道の新しい高速電車「ETS(エレクトリック・トレイン・サービス)」に乗り込み、北上すること約2時間20分。英国植民地時代のコロニアル風な建築物がいまも残るイポーは、クアラルンプールから日帰りできる観光地として、マレーシアの人々に人気です。

 なぜなら、イポーはマレーシアきっての“美食の街”だそう。険しい岩山に周辺をぐるりと囲まれた盆地という地形ゆえ、昔からきれいな水に恵まれてきました。良質な水がある土地は、料理の文化が発展します。

 イポーの名物は、なんと、その清涼な水が育んだ「もやし」だとか。短くて太く、シャキッとした歯ごたえ。においのないもやしを、チキンライスとセットで、たっぷり食べるのが定番です。

 まずは身の引き締まった地鶏をまるごと、天然水でやわらかくしっとりとゆで上げます。鶏のうま味が出たゆで汁は、つまり“丸鶏でとった出汁”。これでご飯を炊き、もやしをさっと湯がきます。出汁は味を整えてスープとしても食べます。鶏を余すところなく味わい尽くす、この絶妙な組み合わせ。食べることに貪欲な先人たちの知恵に、思わず感謝したくなりました。

鍾乳洞にまつられた仏さま

 切り立った岩山に囲まれた地形は、清らかな水に加えて、数々のミステリアスな洞窟を、イポーにもたらしました。イポーの周辺には、石灰岩の鍾乳洞をそのまま利用した仏教寺院が、いくつもあります。

 かんかんと真上から照りつける太陽を逃れて、鍾乳洞のお寺に入ると、薄暗い内部は、奥まで長く延びていました。空気はひんやりとして、“いい気”が流れているよう。ほっとひと心地つけるスペースです。

 自然の地形を生かした洞窟は、地元の人たちの手により、東南アジアらしく華やかに飾られています。どことなくのんびりしたお顔の仏像が、何体も安置されていました。

 信仰心によって守られつつ、観光客も受け入れるおおらかな風通しのよさで、いつのまにか“パワースポット”として知られるようになりました。何カ所も回る女子グループもいるそうです。

 美食が自慢の古都で、食べ歩きの合間に寺院へお参り。う〜ん、なんだか煩悩が勝っているような……。そんな旅行者を受け入れる度量の大きさもマレーシアらしいな。なんだか納得できるのでした。

■取材協力:マレーシア政府観光局

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)

旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化を体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案する。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。「江藤詩文の世界ゆるり鉄道旅」をmsn産経に連載中。

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