旅好きを公言(?)していると、「今度うちの地元に来て、あれ食べてほしいなぁ」とか「おいしいものありますよ!」とかうれしい情報がちらほら入ってくる。先日も静岡出身の友人と話していたら「あぁ、本当のしらすのおいしさを味わってほしいなぁ」という会話に。東京に生まれ育った私は「生しらす」をほとんど食べたことがなく、「東京でもたまに生しらす売っているよね?」と言うと「あれは一度、冷凍してあるから……。獲れたばかりのものを食べないと!」その言葉にはやけに説得力がありました。
ならばぜひ連れていってもらおうと案内をお願いして、「その場だから味わえるおいしさ」を求めて大人の遠足に出かけることになりました。友人の立ててくれた計画はすばらしく、漁港で生しらすを食べるだけではなく、しらすを釜あげにするところも見せてもらえるというのです。そして、ワサビ棚の広がる山里へも行こうと。
しらすにワサビ! なんとも魅力的な組み合わせ。あとは遠足の当日、しらす漁があるかどうかの天候次第。てるてる坊主まで作ってくれていた友人から早朝、無事に漁が出たことの報告を受け、いざ出発。用宗漁港に着いたのはちょうど、漁から最後の船が帰ってきた時でした。今年はしらす水揚げ量が少ないと聞いてはいたけど、船から運ばれるカゴの数は素人目からも少なくみえました。
漁港からほど近い、しらす加工場に行ってみると、大きな釜に湯が沸かし始められていました。見学を快く受けてくださったのは18歳の頃からこの家業に就いているという小林さん。大きな丸釜も桶も年季の入った、なんとも格好のいい道具。最近大きな工場では自動釜や乾燥機を導入しているなか、小林さんのところは今でも道具も工程も昔から変わらない作り方だそう。助手の方が一人いるだけで、基本は小林さん一人で切り盛りしています。
まずは桶に井戸水をたっぷりと張り、流水でしらすに紛れ込んだ砂や海藻などを取り除きながら洗っていく。全体的に大きさが揃っていない時はふるいでふるって選別をする、なんとも丁寧な作業。しらすを洗う前にちょっと味見をさせてもらいました。ツルンとした舌触りに、ほのかに塩気と甘さを感じ、苦みなどがまったくない。おいしい! まさに獲れたての味。井戸水で洗ったしらすも味見。塩気がなくさらにやさしい味わい。うーん、これは炊きたてのごはんに生醤油がほしくなります。この後も工程段階ごとに味見したことは想像がつきますね?!
そしていよいよ、勢いよく沸いた丸釜に塩を入れてしらすをゆで揚げます。さっとゆで揚げるのかと思っていたら、意外とゆで時間は長い。塩の量もゆで時間も長年の勘!と小林さん。一連の動きにはキビキビと本当に無駄がなく、見惚れてしまうほど。ゆで揚げたしらすをすだれにのせ、斜めに立てかけて水分をおとす。そして棚に並べてムラがないように、ほぐしながら自然乾燥。まさに釜あげされたばかりの熱々しらすは、そこでしかできない贅沢なつまみ食いでした。
生と釜あげの両方を抱えて友人のご両親宅へ。お昼はお母さまがごはんを炊いて待っていてくれるという素敵な計らいでした。生しらすは青ねぎと醤油で、釜あげにはワサビをのせて。こんなにおいしいしらす、食べたことない! 山盛りのしらす、ごはんをおかわりしたのは言うまでもありません。
さて、おなかも満足したところで、国内のワサビ栽培発祥の地といわれる有東木(うとうぎ)へ。標高500〜600メートル、山々に囲まれた小さな集落は肥沃な土壌で湧き水も豊富だそう。霧深い山合いに巨大杉のある神社があったりして、ちょっと神秘的な雰囲気です。有東木の農産物を使った食事を出したり加工品の販売するお店が一軒だけありました。そこは農家のお母さんたちが交代で働いているそうで、ワサビのことを聞いてみると「ちょっと見てみる?」とすぐ隣で栽培しているワサビ棚を案内してくれました。
湧き水が豊富というのがうなずけるほど、冷たくて澄んだ水がそよそよと流れていて、ワサビ棚のまわりの空気はひんやりとしています。ワサビはきれいな水でないと育たないということくらいは知っていましたが、畑で苗を育てて棚田に移し収穫までに、一年以上かかるとは知りませんでした。手をかけて作られたワサビのおいしさは格別でした。
「その土地のおいしいもの」に巡り合えた大人の遠足。案内をしてくれた友人とその日、出逢った人たちに感謝!

料理家。素材の味を生かした、やさしくシンプルな料理が人気。季節を大切にしたていねいな暮らしぶりや、センスある着こなし、器づかいでも注目を集める。近著に『夏とごはん』(筑摩書房)、『季節のおつまみ2品、3品』(PHP研究所)、『スープの教科書』(家の光協会)、『衣・食・住 おとなの備え』(主婦と生活社)、『創業380年の酒蔵がすすめる 福光屋の甘酒レシピ』(PHP研究所)など。
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