東京の台所

<33>年中無休。31歳新米パパの料理漬け生活

  • 文・写真 大平一枝
  • 2013年9月18日
  

〈住人プロフィール〉
 会社員(男性)・31歳
 分譲マンション・2LDK・東京メトロ半蔵門線 押上駅(墨田区)
 入居2カ月・築4年
 妻(31歳・会社員)、長女(1歳)の3人暮らし

    ◇

 ほんの少しかもしれないが、それでも料理のおかげで確実に人生が変わったという男性の台所を訪ねた。

 スカイツリーがそびえる押上の町にある分譲マンション。2LDKのその部屋の購入するとき、最大の決め手になったのは4畳半の台所だった。

「新婚時代から料理を始めて今年で3年目です。この家は、全体にそれほど広くないのに、台所だけやけに広くて、それがいいなあと即決でした」

 料理のきっかけは、妻は食にあまりこだわりがなく、夫は食べることが大好きだったから。

「自分が食べたいものを僕が作ればいいんだと思って。いまは娘も生まれて妻は子育てに手がかかるし、彼女はこだわりがない分、なんでもおいしいと言って食べてくれます。それに、買い物から僕が全部やっているので、『冷蔵庫の管理をしなくてすむのも楽だわ』と喜んでくれる。全部僕が作りますが、苦労どころかとても楽しいです」

 屈託のない笑顔が眩しい。働きながら子育てした身としては、どんどんこういう男性が増えてほしいと願うし、実際増えているのだろうとも思う。大丈夫、未来は明るい、なんて人様の台所でそっと胸をなで下ろしたりして。

 妻は「まさか、ここまで料理にハマルとは思っていませんでした。私の誕生日には、ホタテとサーモンのイタリア風、オニオンスープ、牛肉のワイン煮、デザートまでフルコース。私の両親が来たときも、本格的な和食を作ってくれたので驚いてましたね」と教えてくれた。

 夫は、ふだんの料理は、いかに手早くつくり、見た目もバランス良く仕上げるかがポイントだと言う。

「僕はゲームが好きだったのですが、料理をするようになってからまったくやらなくなりました。段取りとかバランスを考えるのはじつはゲームみたいに面白い。ただ、ゲームと違う点は、僕ひとりでなく、みんなが喜んでくれることです」

 がんばったら、がんばっただけ人が喜ぶ。その張り合いは、ゲームの比ではない。というか今までの人生で味わったことのない種類の感情だ。それが嬉しい。

 器や鍋にもこだわりたいが、少し先にとっておくらしい。今は、始まって間もない親子3人暮らしのリズムを整えるのに精一杯だからだ。あ、もう一つ、料理でいいことがありました、と思い出したように言った。

「会社のコミュニケーションが広がったんです。ちょっと怖いなってみんなから思われている年配の女性とも自分だけ友だちになっちゃって。今日はなに作るの?とか、あれ作ったわよって、料理のことで話かけられたりして盛り上がるんです。料理をすると、職場でもいいことがあるというわけですね」

 この人の台所には、いい鍋や上等な道具はとうぶんいらなさそうだ。愛情と、楽しむ気持ちが、料理を十分美味くする。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

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