リノベーション・スタイル

<35>暮らしのリズム生む「長屋」風で

  • 文 石井健
  • 2013年9月25日
[RIKUBUN](東京都世田谷区)辻さん一家(夫30代、妻40代、長女2歳)/ 築35年 / 54.8m² / 800万円

  • [RIKUBUN](東京都世田谷区)辻さん一家(夫30代、妻40代、長女2歳)/ 築35年 / 54.8m² / 800万円

  • リビングはナラ材のフローリングとコンクリート打ちっ放しの壁がモダンな印象

  • ウォークインクローゼットの一部をロフトにし、子どもの遊び部屋に

  • 土間のワークスペース。亀「りくぶん」の水槽や自転車が置いてある

  • 生活の中心となる畳スペース。寝るときはカーテンを下ろす

  • お風呂の壁は土間と同じモルタルを使った。ガラスブロックで採光

  • 見取り図

 この物件は、畳を生活の中心にしたリノベーションの例です。辻さんは公務員で、もともと職員寮に住んでいらっしゃいました。そこを退去することになったので、のんびりした雰囲気が好きな世田谷線沿線で中古マンションを購入することに。

 いざ、どのような暮らし方をしたいのか考えていくと、「家族全員でリズムのある生活をしたい」というご夫婦の思いが浮かび上がってきました。

 当時、お子さんは2歳。辻さんは、子育てには「生活リズムが大事」と考えていらっしゃいました。朝はちゃんと起きて、決まった時間にご飯を食べ、夜は寝る。そんな生活リズムを生み出す家を作れないか。そう考えていった中で、昔の長屋を思い出されたのです。

 昔の長屋は、玄関をあけたら土間があり、その奥に一間ある造り。お客さんとは玄関口で立ち話をして、一間の空間で寝食すべてを行っていました。朝起きたら布団を上げて、ちゃぶ台をだして、食べ終わったら片付ける。家族の中で1人だけ「おれ、眠いから」といって寝続けたり、「腹減った」といって夜中にご飯を食べることはできません。ひとつの場が時間軸によって使い分けられているので、生活リズムが規則正しく進んでいきます。そんなことを考えた末に、畳を中心とする家を造ることになりました。

 まず大きな特徴は、玄関をあけると部屋の半分まで土間があること。半分から奥は一段あがってフローリング、そして小上がりの畳があります。土間は外で、フローリングから内という感覚です。土間には、トイレやお風呂、キッチン、クローゼット、ワークスペースがあります。昔の家では外に厠(かわら)や蔵、納戸があったように、離れが点在しているイメージです。クローゼットは面白い作りで、スペースの一部に子どもしか入れない小さなロフトがあります。秘密基地のような遊び部屋です。

 畳の部屋が寝食をする空間なので、ベッドルームはありません。クローゼットの畳側が布団収納になっています。「畳が中心の暮らし」ではありますが、カウンターキッチンやソファでくつろげるリビングなど、今の生活に沿ったスペースは確保しました。

 戦後、日本の住宅は「寝食は別の部屋でしたい」「個室をつくってプライバシーを確保したい」といった風潮に従い、団地やマンションの基本形が“LDK”になりました。一般には、マンションでも建て売りでも、個室の数が大きなファクターになっています。

 ただ、ここ10年くらいで変化も見られるようになってきました。首都圏では、個室よりも共用のリビングやみんなで食事をするスペースにプライオリティを置く人が増えています。シェアハウスが伸びてきているのも、その一つでしょう。戦前の考え方に戻っているわけではないのでしょうが、他人とのつながりを大切にしようとする意識が住宅の変化の中にも見られます。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)


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