東京の台所

<35>昭和の匂い満載の3人同居生活

  • 文・写真 大平一枝
  • 2013年10月2日
  

〈住人プロフィール〉
 会社員(女性)・41歳
 戸建て・3LDK・都営三田線 本蓮沼駅(板橋区)
 入居5年・築29年
 夫(43歳・会社員)、義母(71歳)の3人暮らし

    ◇

 ひとり暮らし17年を経て結婚した。広い庭とシャンデリアがある都内の2世帯住宅。隣には、夫の叔父夫婦が住んでいる。

「初めて訪ねたとき、ダイニングルームにお客様用のポットやグラスがいっぱいつまった食器棚があって、昭和の感じのするシャンデリアがぶらさがっていて。あ、実家みたいだ!ってすぐ思いました。台所にも棚いっぱいにお皿があるんです。何人家族なんだ?って思うほど。そういうのもまた実家っぽくてどこかほっとする感じで、初めて来たのに懐かしい気分になりました」

 新婚でふたり暮らしをする選択もあったかもしれないが、彼女はためらいなく義母と同居という生活を選んだ。

 実際、暮らしてみると、なにしろ来客が多い。ここに生まれ育った義母の友だちが次々と訪ねてくるためだ。

「いただきものも多くて、ダイニングのカゴにはいつも羊羹(ようかん)とか、なにかしらお茶菓子が盛ってあります。そうそう、昔はお正月になると部下の方が挨拶に来たそうで、お盆も多いんですよ。本当に何枚もある。そういうのも夫婦だけの生活にはない光景ですよね」

 共働きなので、平日は義母とは食事時間が合わないが、土日はできるだけ一緒に食べるようにしている。もともと料理が好きなので、忙しいときは手抜きもするが、3人分作るのは苦ではない。

 植物を買ったときのフラワーベースを収納に使ったり、古紙をかごに常備して台所の油拭きに使ったり、小さな工夫をするのが上手だ。味噌や梅干しを漬け、時間があればお菓子も作る。自分の好きなガラス食器のコーナーも、食器棚の端にちゃんとある。もともと義母が使っていた台所の流儀を尊重しながら、もっと暮らしやすくなるアイデアや、自分名義の道具をつけ足すしつらいが決してでしゃばっておらず、思慮深いなあと思った。

 取材が一段落すると、「お義母さんも呼びましょうか」とさりげなく呼びに行き、楽しい語らいの仲間に誘い込む。無理をせず、肩に力が入っていない接し方も自然で印象に残った。

 女は、台所の使い方にもそれぞれ流儀があり、同居生活だとひとつの台所は難しい。小さくともふたつ作るのがベターなどといわれるが、彼女はひとり暮らし生活を堪能し、やりきったんだろうなあと思う。だから、次の人生のステージで、だれかと台所を共有する生活も新しいチャレンジとして楽しめるのではないか。

 奥さんの奮闘ぶりはいかがですかと、夫に尋ねた。

「なにしろ手早くて、料理も好きだから、彼女が来てから、夕食の品数が2品は増えました。これには感謝してますね」

 と、照れくさそうに彼は言った。

 ふたりとも下戸で、食後はアイスでくつろぐ甘いもの好き。似たもの同士の、大人のカップルのダイニングには、やっぱりお菓子の鉢がいくつもあって、「ひとついかがですか」と勧めてくる。そんな実家のような丸い空気に私まで優しく包まれるようで、ただただ懐かしい気分に浸るばかりだった。

つづきはこちら

東京の台所 取材協力者募集

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

おすすめ

ビール、ワイン、日本酒、カクテル…暑い日におすすめのお酒をジャンル別でご紹介

よく見る「8?12畳用」の記載。本当の意味を知っていますか?

履きやすさとデザイン性を兼ね備えた、暑い日にぴったりのスリッポンが大集合

使い込む程に深みを増してゆく、レトロデザインのデジカメと相性抜群の本革製ネックストラップ

机の乱れは頭の乱れ。作業がはかどる環境作りの秘訣を伝授します

プレゼントされた相手は幸せになるとの言い伝えもある、北欧の伝統的な木製マグカップ「ククサ」


Shopping

  • ダイバーシティープロジェクト