東京の台所

<36>3人の子どもに、日替わり手作りおやつ

  • 文・写真 大平一枝
  • 2013年10月16日
  

〈住人プロフィール〉

 主婦(女性)・46歳
 戸建て・4LDK・京王井の頭線 下北沢駅(世田谷区)
 入居6年・築6年
 夫(44歳・会社役員)、長男(15歳)、次男(14歳)、長女(10歳)の5人暮らし

    ◇

 高校生と中学生、育ち盛りの男子がふたりいる。末っ子は女の子だが、「いちいちおやつを買っていたらきりがないし、いくらお金があっても足りません」と住人は笑う。だから、ほぼ毎日、おやつを手作りしている。

「チョコレートケーキ、豆乳プリン、マフィン、ゼリー。似たようなもののローテーションですが、チョコをバナナに変えたり、手作りはいくらでもアレンジがききますから。プリンなんて買ったらひとつ200円近いでしょ? うちは3個買わなくちゃいけない。でも、すぐ食べ終わっちゃう。手作りなら、牛乳1リットルで何個もプリンができちゃいます。作ったほうが経済的なのでやむにやまれずやっているようなものです」

 お菓子を焼くのが趣味の優雅なママではなく、子どもが3人いて、必要に迫られて作っていくうちにハマってしまった、というほうが正しいらしい。

 この日も、きなこ飴(あめ)とチョコレートケーキができあがっていた。冷蔵庫には、昨日の残りのパンプキンプリンもある。食い意地の張った私は勧められるまますべてご相伴にあずかったが、嫌な甘さがなくて、素朴で、卵やカボチャなど、素材の味がしっかりと舌にしみる。お母さんのおやつってこうだよな、と懐かしい気持ちに包まれた。

 凝ったお菓子は誕生日やクリスマスなど特別な日だけ。あとは、シンプルで気負いのないお菓子をささっと作る。

 牛乳は毎週、生協から6本届くが、後半に足りなくなって買い足す。挽肉は1度の買い物で1キロ。かたまり肉は800グラムを2個買う。買い物の量も豪快である。

「お寿司やさんに行ったら、大変な金額になっちゃうけど、家で寿司桶を出してちらし寿司や手巻き寿司をやったらおいしいし、楽しいし、安上がりですものね」

 おやつも料理も節約のためで、決して凝ってもいないし料理上手でもないと謙遜するが、台所の引き出しには、きりとられた新聞記事が沢山入っていた。すべて料理とおやつの記事である。ところどころ、レシピの材料欄に、5人家族や味の好みに合う分量をペンで上書きしてある。これは?と彼女に尋ねた。

「わたし、ネットのレシピって苦手なんですよね。なんだか覚えられないの。料理のネタ元はほとんど、新聞の料理記事です。だって、新聞の料理って誰でも作れるようにわかりやすく書かれているし、簡単だし、変わった食材も出てこない。どんな世代の人も作れるようなものを厳選しているからでしょうね」

 アナログだし、こんな昔の記事をスクラップもせずにただ切りとってるだけなんてずぼらですよねと、恥ずかしそうに引き出しを閉めようとする。

 いちばん上にのっていたのは2009年12月19日の記事。料理はキッシュだ。何度もとりだしているのだろう。油じみがある。

「このキッシュは、フードプロセッサーでガーッとやるだけなのにホントにおいしいの!うちの子たちはみんな大好きなんです」

 手垢の付いた古い記事の山から伝わってきたのは、毎日おいしいものを家族に食べさせたい、5人でわいわい言いながら手料理を囲む時間をなにより大切にしたいと思っているお母さんの愛情だ。

 料理は節約のためだけじゃないですよねと言っても、きっとまた謙遜するだろうから、私は黙って記事をしまった。おいしい知恵と愛が詰まった彼女の台所の引き出しに。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

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