リノベーション・スタイル

<40>三軒茶屋の「身の丈ハウス」には暗室も

  • 文 石井健
  • 2013年10月30日
[mimi](東京都世田谷区) Mさん一家(夫、妻 30代、長女1歳)/ 築38年 / 54.04m² / 780万円

  • [mimi](東京都世田谷区) Mさん一家(夫、妻 30代、長女1歳)/ 築38年 / 54.04m² / 780万円

  • 梁を生かして本棚に。寝室には右側の階段を上がって入る

  • 回遊性のあるキッチン。配管の関係でシンクが高くなっている

  • 奥様のコレクションが並ぶスペース。寝室の壁はモルタルを使い、外壁のような雰囲気に

  • マットを敷いて造作したこもり感のある寝室。本棚もつけた

  • スペースをいかすため、壁の角度などは細かく計算している

  • 見取り図

 リノベーションしたのは2008年。ちょうど「身の丈ハウス」という言葉が出てきた頃でした。「身の丈ハウス」とは、若い頃から慣れ親しんできた好きな街で、肩肘張らず背伸びせずに、こぢんまりとした中古マンションを買って、内装は自分たちの好きなようにして暮らそう、という考え方です。

 Mさん夫妻のリノベーションはまさにそのような感じでした。「新築のピカピカした感じは好きじゃない」ということで、おふたりが住み慣れていた三軒茶屋を中心に物件を探しました。新築一戸建てだとある程度は妥協しなくてはいけませんが、中古マンションのリノベーションは立地優先。自分が好きな街に住めます。

 奥様は古い家具などが好きで、中古品やアンティーク家具をたくさん集めていました。「家具をたくさん飾りたい」という要望があったので、玄関からの廊下の左側を一段あげてタイルにし、そこに飾れるようにしました。床の間のような空間で、下には水回りの配管を通しました。

 その“床の間”の壁の向こうは寝室です。かなりコンパクトなのですが、こもり感があって落ち着くんですよ。スペースを有効利用するため、ベッドは入れずにマットレスをはめて下を収納にしています。そのため、寝床はずいぶん高い位置にあり、リビングからは階段を2段上がって中へ入ります。

 寝室の壁には2カ所、小さなのぞき窓をつけました。壁も上部を開けているので、寝室にいても家族がお互いの気配を感じられます。枕元に本棚を造ったので、寝室兼書斎のような感じです。

 ちなみに寝室の壁は玄関とリビングをつなぐ廊下と同じ白セメントのモルタルを使いました。厚みがあり、外壁のような作り方をしているので、けっこうお金がかかっています。

 廊下の反対側には三角形の入り口の部屋が二つあります。一つは写真が趣味という旦那様がリクエストした暗室。もう一つはクローゼットです。暗室はかなり狭いので、開口も狭くしなければなりませんでした。部屋の入り口はどんなに狭くても55〜60cm。人間が通るときに一番幅をとるのは肩の部分なので、入り口を逆三角形にしました。本当は人間の形にしたかったのですが、それではさすがに不都合が多くて(笑)。

 暗室に合わせて、クローゼットの入り口も三角形にしました。ただ、同じ入り口が二つ並んでいても面白くないので対にしています。扉はなくし、ファブリックをかけてコストを抑えました。

 実は、玄関からキッチンまでの廊下の壁は、細かく調整して少し斜めになっています。キッチンへ向かって広くなるようにして解放感を出したかったのです。

 この物件は比較的手に入れやすい価格で、リフォーム済みでもあったため、水回りには手を入れず、既存のものを生かしています。そうすることで、コストを抑えつつも、「背伸びをせず」に、おふたりの世界観を反映した空間ができあがりました。

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PROFILE

石井健(いしい・たけし)

1969年、福岡県生まれ。「ブルースタジオ」執行役員。日本のリノベーション・シーンの創世期から500件以上を手がけてきた。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)で2012年度グッドデザイン賞受賞。 著書に『リノベーション物件に住もう』(共同編集/ブルースタジオ)

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