東京の台所

<41>自然感じる地上20階で朝のコーヒー

  • 文・写真 大平一枝
  • 2013年11月20日

〈住人プロフィール〉
 広告コンサルタント(女性)・48歳
 賃貸マンション・1LDK・都営大江戸線 勝どき駅(中央区)
 入居1年・築12年

    ◇

 高層タワーマンションというものをあなどっていた。晴海の20階を超える住人の部屋を見て痛感した。圧倒的に明るくて、ながめがいい。どの部屋からも東京湾が見える。台所から見えるのは空と水だけ。遮るものがないというのはこんなに気持ちがいいものかとしばらく見とれた。

 住人は三重出身で、海まで自転車で15分という環境に育った。

「だからなんとなく水辺が好きで、上京したときに勝どきの不動産屋さんに最初に行きました。飲んだときも、がんばれば銀座からも歩いて帰れますしね(笑)。この部屋は、たまたまショッピングに来ていたときにオープンルームをやっていので冷やかしで入ったんです。そしたらこの景色にやられちゃって。即決してしまいました」

 本当はもう少し地面に近いところに住みたかったらしいが、L字形の部屋の間取りにも魅了された。リビングと寝室。どちらからも、光が燦々(さんさん)と舞い込むのだ。

 L字のまんなか、90度の角の部分に位置する台所からは両方の部屋が見える。ここでする料理は気持ちいいのだが、自宅で仕事をしているので、食事は気分転換も兼ねて外に出ることが多いそう。

 ではなにが最高かというと、朝一番に煎(い)れるコーヒーがおいしいらしい。

「もとは夜型で、低血圧だから朝は起きられない体質と思い込んでいました。中学高校の時もなかなか起きずに、母を困らせていたので。ところがこの家に来たとたん、とんでもない早起きになったのです。日の出とともに、体がスッキリ目覚めてしまうんですね。夏は4時に、今なら6時前に自然に起きちゃうんです」

 引っ越したとたんに早起きになったので最初は戸惑っていたが、そのうちに「ちょっと仕事をやってしまおうか」と思うようになった。やってみると、電話も鳴らないし宅配便もこない。驚くほど、はかどった。

 「朝起きて、コーヒーを煎れるとさらに体もしゃきっとなります。そういうときに、不思議と仕事のいいアイデアが浮かぶんです。前より家賃も高くなって、借りるのは勇気もいったのですが、お日様に合わせた生活にしていたら体調が良くなり、仕事もはかどって、いいことだらけ。これはもうけもんだと思っています」

 朝9時までにひと仕事を終え、近所にまたコーヒーを飲みに行く。通勤客を横目で見ながら、ひと仕事終えた達成感をかみしめるのはまた格別だろう。

 水辺で、夜は屋形船、昼は学生がボートの練習をしている。春と秋では空気の澄み方、もやのかかり方が違うらしい。夕焼けや朝焼けのグラデーションも日々変わる。もうすぐ台風が来るなというのも、ずいぶん前に空気の流れでわかる。

 そう、やはり私はあなどっていた。埋め立て地の高層マンションなどという人工的に造られた箱の中では自然は感じられまいと思っていたが、もしかしたら私たちよりずっと自然が身近なのかもしれない。朝も夜もわからない地下の部屋に寝ている私なんかよりはずっと。

 料理はハマると同じものを作り続けて、ある日突然マイブームが終わるそう。お菓子はひとりで食べているときりがないので、買わないようにしている。この景色がごちそうですよねなんて、ありきたりのことを真顔で言いたくなる。それくらい迫力ある眺めであった。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

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