東京の台所

<52>引き出し閉め忘れてもケンカしない

  • 文・写真 大平一枝
  • 2014年2月12日

〈住人プロフィール〉
 会社員(男性)46歳
 分譲マンション・1LDK+S・西武新宿線 武蔵関駅(練馬区)
 入居2年・築39年
 妻(会社員・47歳)と2人暮らし

 大型リノベーション物件である。築39年のマンションを買い、友人の建築家と一緒にフルスケルトンからリフォームした。夫もまた建築関連の仕事をしている。そんな彼がとくにこだわったのは、材料を増やさないことであった。

「コンクリートと木だけで構成し、木も多様な種類や塗料を使わないように気をつけました。80m²しかないところにいろんな素材や色を使ったら、すぐごちゃごちゃしちゃいますから」

 色を増やさないというルールは、インテリアや食器にも徹底されている。買い物好きで、雑貨好きの妻は、カトラリー1本を買う前にも「これ、どうかな?」と夫に相談するという。そう聞くと、緊張感のある夫婦関係を連想するが、そうでもない。夫のジャッジは押しつけではなく、ただただ居心地のいい空間にするためのもの。彼女はむしろ、尊重しているようだ。

「私はクローゼットの引き出しを開けたら、きちっと最後まで閉められない派。本棚も、彼は本のサイズをそろえたりするのですが、私は一切、無頓着。『引き出しをちゃんと閉めなよ』と言われたら? 『あー、そーだねー』って流して、また次も開けっ放しです(笑)」

 そんな妻に対して几帳面な夫は、

「いちいち注意するより、あとで僕が閉めて回るほうが早いですから」

 と、これまた意に介さない。いい塩梅にバランスのとれたカップルなのだ。

 妻がイギリスに留学していたとき、ホームステイ先の台所にばらばらのデザインのマグがあった。「あんなふうにひとつひとつ違うデザインの家族のマグが並んでいる風景も素敵だなあ」と憧れていた彼女は、今の家で、マグだけは自由に買い足していいことになっている。「私に唯一許された自由空間なんです」とおどける。

 リビングに面した台所は、オープンだが隅々まで明るいわけではない。夫は独身時代、とにかく明るい部屋を求めて社宅の1室を何もかも白に塗っていたらしい。

「蛍光灯も1番明るい色にして、自分で作った家具も白く塗ったりして、光が反射してすみずみまでまわるように腐心していました。けれど、今の家は台所だけでなくいろんなところに小さな暗がりがあるんです。夕方になると、日が沈み、家の中にも陰影ができる。それがものすごく落ち着くし、ほっとするんですよね。陰っていいもんだなあって、今はしみじみ思います。どこもかしこも明るくなくていいんだよなって」

 そうそう、その部屋、私も写真で1回見せてもらったことあるけど、絶対住めないわって思ったもん。隣で妻が茶々を入れる。

 きっと、彼は気づいている。本を読んだ順に棚に突っ込み、引き出しを閉め忘れ、旅先でマグを喜々として選び、家は隅々まで明るくなくてよしとする彼女との生活が、本当の居心地の良さを生みだしているということに。

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PROFILE

大平一枝(おおだいら・かずえ)

長野県生まれ。ライター。生活やライフスタイルををはじめ、人物ルポなども執筆。著書に『ジャンク・スタイル』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『日曜日のアイデア帖〜ちょっと昔の暮らしで楽しむ12か月』(ワニブックス)、『かみさま』(ポプラ社)、『スピリッツ・オブ・ジャンク・スタイル』『ジャンク・スタイル・キッチン』(風土社)ほか多数。共著に『母弁』(主婦と生活社)、『ジャンク・ウエア』(平凡社)など。 ホームぺージ「暮らしの柄」

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