太陽のまちから

「自己肯定感」なき人生に「成長」は?

  • 文 保坂展人
  • 2014年2月25日

 誰もが昔は、子どもでした。

 ただ、子ども時代を彩る記憶は人それぞれです。私の場合、数多くの失敗や苦い思い出をおしのけて、すぐに思い出すことができるのは誇らしげな記憶です。小学校5年、6年のころに、級友たちや先生から評価されたシーンがまるで記念写真のようによみがえることがあります。

 私が、教室で授業を受けていたのは中学2年まで、と大変に短い期間です。小学校の6年に2年を足した計8年ということになります。中学2年から3年にかけて、ベトナム戦争に反対する市民団体の集会やデモに参加するようになりました。

 そして、そのことを「内申書」に記載されたのが15歳の春でした。全日制高校を5校受けたものの不合格になり、新宿高校定時制の2次募集に滑りこみましたが、17歳で中退しました。したがって、学歴は「定時制高校中退」です。

 私が衆議院議員をしているころに、国会議員の選挙時の「学歴詐称問題」が話題となったことがあります。朝日新聞から、こんな取材が私のところに舞い込みました。

「保坂さんが新宿高校定時制を中退したと証明できる証拠はありますか?」

 そう聞いて、どんな意図の質問なのか理解に苦しみました。卒業を証明する「卒業証書」は発行されますが、「中退証明書」はありません。どうやら、「低学歴詐称」を疑われているということが、やりとりの中でわかったのです。

 定時制高校を中退した私は、大学入学資格検定を取ることや海外に留学することも意志さえあれば可能な環境でした。しかし、身体と言語表現だけでどこまで社会に出ていけるのか実験してやりたいという野心があり、意識的に資格社会の扉を叩くことはしませんでした。

 あのころは、自分は意志が強く、叩かれ強い人間だ、とうぬぼれていました。

 1980年代に入って、教育問題が大きくクローズアップされた時、私は教育ジャーナリストとして発言の場に恵まれました。縁あって『明星』『セブンティーン』という芸能誌に学校での事件や子どもたちの声を伝える連載を持ち、次々と単行本化されていきました。教育問題をテーマにテレビのレポーターやコメンテーターもずいぶんとやりました。20代後半には都心にマンションをかりて「若者の居場所」として開放し、数人のスタッフを雇って、事務所を運営してもいました。それは自分の力だと考えていたのです。

 80年代後半、私が集中的に取材したのは「いじめ」の問題でした。今も保存していますが、いじめに悩み苦しむ子どもや若者から寄せられた手紙は数千通にのぼりました。90年代に入って『いじめの光景』(集英社文庫)という本を書き下ろしでまとめたころ、ふと気がついたことがありました。

 客観的には孤立無援・暗中模索の日々であっても、私が無力感に沈んで落ち込んだり、敗北感にうちひしがれることがなかったのは、子ども時代の「評価」「承認」があったことで感情の土台が築かれていたからではないかと感じたのです。

 もうひとつは、小学校5年の時に父が思わぬ病気をして入院したことも影響しています。目の前にあった大黒柱が折れそうになり、家族の屋台骨を自分が支えなければ大変なことになる、と自覚したことを覚えています。その時、急激に大人びた少年となりました。結果としては、父は数カ月後に退院して元通りの生活が始まったのですが、破局や崩壊を目前にした経験はその後の思春期にも宿り続けてました。

 私は小学校高学年から中学生にかけて、図書館にある本を片っ端から読みました。乱読に近かったと思います。父の書棚から岩波文庫の旧カナ遣いの本をひっぱり出しては、まるで3度の食事をするように、毎日1冊は読み終えていました。読書を通して物事を客観的に眺める習慣ができ、ドラマチックな人生に憧れるようになりました。この世に生を受けたからには何事かに挑み続け、失敗をおそれず、やり遂げることが美しい、という「自己暗示」だったのでしょうか。

 このところ、教育・子育てをテーマとするなかで「自己肯定感」について語る機会が増えています。それまで、あまり自分のことを意識して来ませんでしたが、振り返ってみれば、私がこうした歩みを続けてこられたのも、幼少期に「自己肯定感」を得られたからだと思います。それがあるからこそ、自分を自分で承認する、失敗も含めて受容し、また休息の後に挑み続けるということができたのではないか、と感じています。

「教育委員会の改革」や「道徳の教科化」など、教育をめぐる政治の動きが目立ってきています。けれども、人の内面の成長に不可欠な「自己肯定感」を紡ぐための議論はまだ乏しいように感じます。

 日本の教育は、「滅私奉公」という言葉に象徴されるように、間断なき自己否定の蓄積によって社会や企業の歯車のひとつとして正確に稼働する人材をつくってきました。ただ、これからは経済成長一辺倒ではなく、成熟を志向する時代がやってきます。21世紀を生きる子どもたち求められている「自己肯定感」はどのように育まれるのか。しばらくこのテーマを掘り下げてみたいと考えています。

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

保坂展人(ほさか・のぶと)

1955年、宮城県仙台市生まれ。世田谷区長。高校進学時の内申書をめぐり、16年間の「内申書裁判」をたたかう。教育ジャーナリストを経て、1996年より2009年まで衆議院議員を3期11年(03〜05年除く)務める。2011年4月より現職。『闘う区長』(集英社新書)ほか著書多数。

おすすめ

脱原発を訴えて世田谷区長に当選した著者。本書は自治体が発信力を高め、連携して日本を変えようという提言である

最短撮影距離はなんと20mm、手のひらサイズで超広角の世界が楽しめる新感覚のデジタルカメラ

ボブ・ディランの30周年を祝う、伝説のトリビュート・コンサートがついにDVD/BD/CD化。

脚の角度は自由に設定可能、カメラ本体に装着したまま持ち運べる薄型三脚が大人気

スマホ用ポケットやカードホルダー、ペン差しなどを搭載したカバン専用インナーが便利と話題に!

アジアからアメリカ、ヨーロッパまで利用者の満足度が高いホテルを厳選してご紹介


Shopping

  • ダイバーシティープロジェクト