上間常正 @モード

麻生太郎氏の“マフィア・スタイル”の勘違い

  • 文 上間常正
  • 2013年3月1日

写真:2月25日にソウルで行われた韓国新大統領の就任式にも同様のいでたちで出席。アフガニスタンのカリーム・ハリーリー副大統領と話す麻生太郎氏2月25日にソウルで行われた韓国新大統領の就任式にも同様のいでたちで出席。アフガニスタンのカリーム・ハリーリー副大統領と話す麻生太郎氏

写真:麻生氏と話す森喜朗氏(右)の服は、ビジネスエリートに特徴的なオーバーサイズ麻生氏と話す森喜朗氏(右)の服は、ビジネスエリートに特徴的なオーバーサイズ

写真:「ギャングスタイル」の英文字と、ハットを目深にかぶった麻生氏の姿をあしらったTシャツも登場「ギャングスタイル」の英文字と、ハットを目深にかぶった麻生氏の姿をあしらったTシャツも登場

 安倍新内閣に限るわけではないのだが、日本の政治家たちの海外出張の時の装いにはいつも違和感を覚えさせられる。先月中旬、モスクワで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に出発したときの麻生副総理・財務相のいでたちは、違和感を超えたインパクトがあって結構な話題になった。その理由は、気合はたっぷりなのに「意図不明」だったからだ。アベノミクスによる円安誘導、との各国からの批判を少しでもかわすため? というわけではなかっただろうし。

 問題の装いは、ファーの襟付きの黒のロングコートに淡いブルーのマフラー、斜めにかぶった黒のボルサリーノ。この組み合わせはファッション的には粋なクラシックスタイルなのだが、彼の人相の特徴ともあいまって、たいていの人はイタリアのマフィアを連想してしまっただろう。アメリカのウォール・ストリート・ジャーナル紙も「粋なデビュー」としつつも、それを「ギャングスター・スタイル」と評した。

 政治家の中ではとの限定付きで言えば、麻生氏のファッション感度は自他共に認めるトップクラスの一人だ。たとえば夏の「クール・ビズ」の装いでも、多くの政治家たちがスーツのネクタイをただ外しただけだったりほとんどゴルフ場スタイルみたいだったりする中で、麻生氏はシャツの素材とボタンの外し方、カラーコーディネートなどでいつも抜群のセンスを発揮している。もうだいぶ以前に、ベストドレッサー賞も受賞した。今回の“マフィア・スタイル”でも、素材はもちろん十分に上質だしワイシャツのサイズやネクタイの締め具合にも隙がない。

 日本の政治家や官僚、そしてビジネスエリートたちのファッションで共通して見られる欠点の一つは、まずサイズが身丈ときちんと合っていなくて、たいていは大き過ぎること。そのためどこか不活発に見える。

 もう一つが、ネクタイの色がスーツの色と形に全く合っていないこと。ネクタイの色と柄が派手過ぎるのが原因だ。それは多分、自分で選ばずに人から贈られたり夫人(ないしは特定の女性)が買ってきたりしたものを使っているからだろう。

 麻生氏はもちろんそんな欠点に陥ってはいない。彼が長く通っているというテーラーによると、スーツはすべて仕立て。基本は英国調のクラシックスタイルだという。コートはチェスターフィールドタイプ。それからすれば、そのスタイルは英国発のダンディズムが理想の形ということになる。今回のスタイルでも、氏はおそらく世界のVIPたちにも伍したダンディーなのだと気合を入れて気取ってみたに違いない。

 だが、ダンディズムということで言えば、麻生氏の今回のスタイルは大きな過ちを犯している。ダンディズムの衣装哲学の最も大切なルールは、「決して目立たないこと」だからだ。ダンディーがおしゃれに凝るポイントは、一見それとは分からないようなディテールに誰にも真似できないような工夫を重ねることなのだ。それによって初めて、ダークトーンのシンプルな装いが「黒の華」とでも言えるような光を放つ。

 この基本ルールとは逆に、麻生氏は目立つことに重点を置いてしまったようだ。特に、襟にファーをあしらったり、帽子を斜めにかぶったりしたのは決定的な誤りだったというほかない。それに今回のG20では、日本の円安傾向をなるべく目立たないようにして各国からの批判をやり過ごすことが求められていたはずだ。それなのに、このような「これ見よがし」の装い方は、国策(それが見当外れなものであるかもしれないとしても)にも反するものではないか? 今回はアメリカに助けてもらった形となったが、その分は利子をつけて返すことになりかねないだろう。

 ダンディズムといえば、以前にVANの故・石津謙介氏から「君ね、服は誰の意見も聞かずに自分で選んで、長く着るもんだよ」と言われたことを思い出す。彼が愛用していた服は、どれもが一見全く目立たないが、とても上質でよく手入れが行き届いていた。もう50年近く着ているというのに、その装いはいつもどこか新しさと、何よりも彼独特の個性が感じ取れた。もちろん、注意してよく見れば、なのだったけれど。

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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

1972年、東京大学文学部社会学科卒後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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