在宅ホスピスケア(1) 切り替えのタイミング

末期がんなど、現代の医療では「もはや治療ができない」状態になった際でも、まだ提供される医療があります。

それが「ホスピスケア」。単に痛みや苦しみを取るだけでなく、「最後の時間を家族と共に過ごしたい」という患者の希望を実現するため栄養補給を行うなど、様々な形があります。

それに加え、さらに「最期の時は、住み慣れた自宅で過ごしたい」という希望の実現をも目指すのが「在宅ホスピスケア」です。

第1回は、「在宅ホスピスケア」を実現するためにはどのようなことを考える必要があるのか、最適なタイミングはいつなのかといった基本的な事柄を、医療法人社団パリアン理事長の川越厚医師の解説とともに学んでいきます。

(聞き手:アピタル編集部・岩崎賢一記者)
 

【Q1.在宅ホスピスケアとは?】

「在宅ホスピスケア」は「在宅ケア」と「ホスピスケア」という2つの言葉から成り立っている。 「在宅ケア」は患者さんの自宅で医療やケアを提供すること。「ホスピスケア」は、死を前にして、医療がまったく無力になったときでも、まだ「苦しみを取る」というかたちで提供できるケアのこと。
 

【Q2.ターニングポイントとなる医師の言葉は?】

ホスピスケアには

  • これまで頼りにしていた病院に見捨てられた
  • もうどうしていいかわからない

といって相談に来られる方がほとんど。

病院からは「現代の医療では『お迎えに来る』ことはもう変えられない。ただ、そこまでの時間をどういうふうに過ごすか、ということについては、選択肢が残されている」というような説明を受けている。

しかし、ここにはいちばん大事なことが欠けている。

それは「患者さんに残された時間がきわめて短い」ということ。その情報がないことが、混乱を生んでいる。
 

【Q3.在宅のホスピスケアでも時間的余裕が必要ですね】

患者さんに時間がどのくらい残されているかは、実はがんの種類によっても違う。また、今まで治療をしていた先生が「治らない」と言ったとしても、別の道がある場合がある。

気をつけてほしいのは、「別の道」には科学的なものとそうでないものがあるという点だ。きちんとした科学的な根拠に基づいて示される別の治療法などの選択肢もあれば、高い治療費を要求するような「悪魔のささやき」もあるので、注意してほしい。
 

【Q4.どんな相談が多いですか】

もう自分にはやることはないと言われた。だから「在宅」を選んで、残された時を家族と一緒に楽しく過ごしたい――そういった選択をした上で来られる人は、実は10人に1人いるかいないか。ほとんどの人は、混乱の中でもがいている、というのが実態だ。

この状況を整理するのが「相談外来」の役割だと思う。
 

【Q5.どうやって整理していくのか】

相談に来られた方が、どういうことで迷っているのか、そこをしっかり把握することが第一歩。

  • 自分はもう、十分にがんと闘ったし、もう治療はやりたくない。けれども、遠くにいる家族が「まだ他の治療法もある。あきらめちゃダメだ」と言っていて困っている。
  • 治療費にかなりのお金を使ってしまったが、これから先大丈夫だろうか
  • 家に帰りたいが、自宅が狭いので心配だ
  • 自宅ではどんな医療を受けられるのだろうか、点滴はやってもらえるんだろうか、見捨てられるのではないだろうか

など、悩みは千差万別。

いちばん大切なのは「お迎え」が来るまでの時間はとても短いということ。だから私は「そのことを念頭に置いて、これからの生活設計を立てるべきじゃないか」と言うようにしている。
 

【Q6.在宅医なら在宅ホスピスケアができるのか?】

モルヒネは使い方が難しい。

例えば肺がん。呼吸苦で使うモルヒネがいちばん難しいが、最後にワッと量が増えてしまうことに対してどういうふうに対応するか。呼吸苦は貼り薬はまったく無効なので飲み薬でいくわけだが、最後に飲めなくなったときはどうするのかという問題もある。

そうなったら入院させればよいという考え方も確かにあるが、せっかくここまで自宅で過ごしてきたわけだから、残された時間が短いのであれば、このまま自宅で過ごしたいという方もいる。

そういう方を最後まで支えるとなると、かなり専門的な力、そして医者以外のスタッフも含めたチーム力が必要になる。そうなってくると、やはり一般的な在宅医療だけでは間に合わない。
 

【Q7.在宅ホスピスケアができる医療機関を探す方法は】

日本在宅ホスピス協会のホームページ(http://www.homehospice.jp/別ウインドウで開きます)をあたることがいちばんいいのではないか。

  • IVH(中心静脈栄養)をやっているが在宅でもやってもらえるか
  • 本人は家に帰りたいが家族はまだまとまっていないが大丈夫か
  • 本人に告知をしていないが大丈夫か、ボランティアが入っているか

など、ホスピスケアの要件が網羅されていて、それに答えるかたちでかなり詳しい譲歩が載っている。

特に、それぞれの医療機関が年間何人に関わり、そして何人を最期までみたかというデータもあり、これが非常に重要。例えば年間100人みて、そのうち90人は最期までみたというのであれば、これはチームとしても非常にしっかりとした質の高い医療を提供していると理解していいと思う。
 

末期がんの方の在宅ケアデータベース

http://www.homehospice.jp/別ウインドウで開きます


  <アピタル:インタビュー・アピタルがんインタビュー>
http://www.asahi.com/apital/channel/interview/別ウインドウで開きます

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターを経て、2014年12月からアピタル編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)