乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がん、皮膚がんなどの治療後に起こる後遺症の一つとして、リンパ浮腫があります。がんの外科手術でリンパ節を切除してしまったり、放射線治療でリンパ液の流れが悪くなったりして起こります。脚や腕にリンパ液がたまって、むくんでしまう状態で、悩まれている患者さんは少なくありません。リンパ浮腫のケアのポイントから医療機関以外の民間施設などで行われる「リンパマッサージ」とリンパ浮腫の患者のケアとの違いまで、日本リンパ浮腫学会理事長の廣田彰男医師(医療法人社団広田内科クリニック理事長)に聞きました。(スライドは、廣田彰男さん提供)

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■がん患者のリンパ浮腫とは

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 リンパ浮腫は、体の中を巡っているリンパ管を流れるリンパ液が何らかの障害によって流れが悪くなって起こる腕や脚のむくみのことです。乳がんや子宮がんの患者に多く起こり、これを二次性リンパ浮腫といいます。今回は、この二次性リンパ浮腫について説明していきたいと思います。
 リンパ浮腫は、腕や脚が白っぽくむくむことが多いのが特徴です。どうしてこういう浮腫が起こるのかというと、手術で腕の付け根であるわきや脚の付け根のそけい部のリンパ節をがんの外科手術で切除してしまうなどが原因で、リンパ液の流れが悪くなるからです。

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 リンパ管やリンパ節はあまりなじみがないと思いますので、最初に簡単に説明します。例えば、脚では動脈を通じて血液が足のつま先に向かって流れ、枝分かれして毛細血管に流れていき脚に栄養を与えた後、静脈やリンパ管を通じて、体の中心(心臓)に向かって戻っていきます。この時、毛細血管領域では、ほとんどの水分は静脈に入り、タンパクに代表される物質はリンパ管に入ります。リンパ液の流れを障害されると、タンパクが腕や脚に残り、それが水分を吸い付けていくことでむくんでいくと言えます。一般的なむくみは水ですが、リンパ浮腫の場合は、タンパク濃度の濃いむくみであり、ねっとりした水分であると考えるとイメージし易いと思います。(以下は、リンパ浮腫の原因のリンパ液を「むくみの液」と言い換えて説明します)

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 脚という袋の中にねっとりしたむくみの液が入っていて、一方でリンパの流れは悪いので袋の出口は狭いと考えてみてください。この液を何とかして抜きたいというのが治療の考え方になります。

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 袋からむくみの液を出す一番簡単な方法は、袋を横にして出口を下の方に向ければいいわけです。つまり、脚を上げて寝ていると、だんだんむくみの液は脚から出ていくというのが、基本的な考え方です。
 しかし、朝起きて立ち上がると、またすぐに脚という袋の方に落ちてきてむくんでしまいます。では、日中、むくみの液が脚に落ちてこないようにするのはどうすれば良いかというと圧を加えて押さえると良いわけです。すなわち、日中活動時は、脚なら弾性ストッキング、腕なら弾性スリーブを装着したり、弾性包帯を巻いたりすることになります。そして、また、寝るときには、しっかり脚や腕を上げて寝ると良いことになります。上げて寝ているか、立っている時は押さえるということで、常時、患肢に"圧"をかけているわけです。リンパ浮腫の治療の中心は、この"圧"をかけることです。
 では、寝ている時と起きている時のどちらの圧が大事かというと、起きている時の圧の方が圧倒的に大切になります。起きている時はむくみの液はどんどん腕や脚の方に落ちてきて不利な状況ですし、一般的には寝ている時間より圧倒的に長いからです。したがって、いったんむくんだ場合には、弾性ストッキングや弾性スリーブを着用するというケアが最も大切となります。
 このような意味で、リンパ浮腫の治療の基本は弾性スリーブ・ストッキングなどの圧迫ですが、さらにもう少し早くむくみの液を抜きたい場合には少し手で擦って液を出口に誘導すると良いわけで、これをリンパドレナージと言います。また、弾性スリーブ・ストッキングは装着している時に圧によってむくみを押さえると同時に、布地が伸び縮みしてマッサージ効果も期待できますので、装着した上で少し運動するのもいいでしょう。慣れてきたら危なくない範囲で夜も軽く圧を加えると、より効果が期待できることもあります。

【1】リンパ浮腫とは

■複合的治療とは

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 ここまで話してきたことを日本では「複合的治療」と言います。
 患肢である脚や腕を上げる、つまり横になって脚や腕を高くしていること、そして、日常生活で起きている時は、弾性ストッキングや弾性スリーブを装着して押さえることが大切で、そこに、患肢を軽く動かしたり、リンパドレナージを加えたりする、ということになります。これが基本的な考え方になります。そのほかに、リンパ浮腫ではリンパの流れが悪いために免疫力が低下しているので、炎症の一つ「蜂窩織炎」(ほうかしきえん)を起こしやすくなることから、スキンケアも大切になり、これを加えたものを「複合的治療」と言います。
 患肢を上げる以外の4つ(図参照)の項目は、「複合的理学療法」として国際的に知られています。日本では、2016年の診療報酬改定で、「複合的治療」に対する公的医療保険の適用が認められました。

■弾性ストッキング、弾性スリーブの使い方は

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 朝起きたらすぐに弾性ストッキングや弾性スリーブを着用すること、寝る寸前までつけておくことがポイントです。
 朝起きて1~2時間してから装着するとだいたい失敗してしまいます。お風呂から出た後、しばらく家の中で動いている場合も同様です。
 次に、弾性ストッキングや弾性スリーブを装着する際の注意点を説明します。
 むくんだ脚を風船と考えた場合、出口が閉まっていると風船の中の空気は出ません。弾性ストッキングや弾性スリーブの場合も脚や腕の付け根で食い込んで締め付けがきついと、むくみの液が外に出ないので、どんなに脚や腕に強い圧を加えて押さえても良くなりません。したがって、履き方で最も大事なポイントは、脚や腕の付け根で食い込まないことです。

■日中の装着にためらう人がいますが

 弾性ストッキングと弾性スリーブではちょっと状況が違います。
 弾性ストッキングは、ズボンや丈が長いスカートをはけば見えなくなります。一応、隠すことが可能です。足首さえ、むくみがとれて細ければ、外見上はあまり目立たないですみます。若い女性の場合、普通のストッキングと色が違ったり、生地が厚くて違和感があったりすることもありますが、むくみによる太さは何とか隠すことができると思います。
 弾性スリーブは、脚と同じように考えると理屈上は本当は指先まで覆わないといけないことになります。しかし、日常生活では手を使うため、多くの場合、腕の弾性スリーブは、手首までのものを使います。そのため、下手に弾性スリーブで圧をかけ過ぎると手の甲がむくんでしまうことがあります。したがって、手首までの弾性スリーブを使う場合は、少し圧が弱いものにするといいでしょう。
 そのほかに、手の甲まで覆うミトン(手袋)付きの弾性スリーブや弾性グローブもあります。手首までの弾性スリーブと弾性グローブを組み合わせて使うと手首の部分が重なってその部分だけ圧が強くなるために、結果的に手の甲がむくんでしまうことが多いようです。また、グローブは生活上、不便なのでつい取り外してしまうためやはり失敗することが多くなります。日中、仕事している時に外しているとほとんど治療になりません。

■むくみの少ない人の弾性スリーブの使い方は

 腕のむくみが少ない人が、手首までの弾性スリーブを着けると、手のひらがむくむことがよくあります。これは、むくんでいる場合は、むくみがクッションの働きをしているので弾性スリーブで圧迫することが可能ですが、むくみが少ないと腕の中の組織を直接圧迫してしまうためです。したがって、むくみがあまりないときは強く押さえてはいけません。では、ミトン付き弾性スリーブなら良いのではないかと言うことになりますが、初期の人やむくみが軽い人は、手の甲にミトン部分が見えると周囲に目立ってしまうため、ほとんどの方は敬遠します。
 このように腕の場合は脚と違って強く圧を加えられないのが特徴です。ではどうすれば良いかと言うと、弾性スリーブなどで圧迫する"圧"を加えられないのなら、上げておくという"圧"を加えると良いことになります。特に、手の甲や前腕部は高くすると効果があります。極端な言い方をすると、弾性スリーブや弾性グローブをしなくても、患肢をずっと高くしていればむくみはとれることになります。例えば、別の病気で入院生活をすることになるとそれだけで良くなってしまいます。
 日常生活上で腕を高くしておくことは難しいでしょうが、自分の姿勢を低くするように工夫するといいでしょう。例えば、椅子の高さを少し低くしたり、机の上に台を置いてキーボードを少し高い位置にしたりすることで腕は高めになってくるかと思います。
 また、日常生活で坐業の多い人は腕がテーブルなどの上に載り「くの字」になっている時間の方が多いためひじが一番低い位置になるので、ひじに近い前腕部にむくみ液がたまります。

【2】弾性ストッキング、スリーブの使い方、日常生活での工夫とは

■実演1:弾性ストッキングや弾性スリーブとは

 次に弾性ストッキングの種類の説明をします。弾性ストッキングは脚の付け根で食い込んではいけないので、パンティストッキング型が基本になります。「うっとうしい」と感じて、片脚ストッキング型を利用したり、片脚ストッキング型でも腰ベルトが付いているものを利用したりする人もいます。
 弾性スリーブは、一般的なものは腕全体を覆い、手首から先はカバーされていません。このほか、腕に加えて弾性ミトンが付いて手の甲までカバーできるもの、ずり落ちないように肩に引っかけるベルトが付いたものがあります。また、弾性ミトンだけのものや指もカバーする弾性グローブもあります。弾性グローブを使う場合、手首の締め付けが緩いものを使うといいでしょう。【動画参照】

■実演2:弾性ストッキングのはきかたとは

 ストッキングは非常に圧が強くてはくのが大変です。そのため、両手でストッキングを束ねて足を入れようとしてもなかなか広がりません。弾性ストッキングに同封されているスリッパーという布地を足先にかぶせて、ゴム手袋を使って少しずつつまんで引き上げていくと滑らずにいいでしょう。そのほか、弾性ストッキングをはくことを補助する器具もいろいろあります。【動画参照】

弾性ストッキング、スリーブの装着法

■リンパ浮腫の予防とは

 1日の生活を考えると、普通の人でも、日常生活をしていると朝起きてからだんだんむくんできて夕方から夜には一番むくみます。ですが寝ると重力の影響はなくなりむくみは消えていくので翌朝は気になりません。術後リンパ節を切除しリンパの流れが悪くなっていると普通の人よりもう少しむくみが強くなりますが翌朝消えれば気になりません。ですが、もう少し悪くなると、もっとむくみが強くなり、寝ても翌朝までにむくみが完全にとれず、むくんだ状態になってしまいます。これが続くと、徐々にむくみは蓄積されてきて、脚や腕が太くなることになります。これがリンパ浮腫の状態と考えると良いと思います。

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 リンパ浮腫によるむくみの液は皮下にたまり、中に含まれているタンパクは皮下の線維を壊して皮下組織が変性してしまいます。いったん変性すると戻りませんので、予防を考えるとそうなる前にむくみを取ってしまえばいいということになります。1日のスパンで一旦むくみを取ってしまい、翌朝に残さないことが予防の考え方になります。
 リンパ浮腫は術後のがん患者すべてに出るわけではありません。出る人もいれば、放っておいても出ない人もいますので、一般的には予防として弾性ストッキングや弾性スリーブをしなくてはならないということはありません。標準的な考え方は、厚生労働省の委託事業として専門家による「リンパ浮腫委員会」というものがあります。ここの合意事項としてもそのように記載されています。ただ、脚の場合には軽く圧迫してむくみを押さえる一方でマッサージ効果も期待できますので、健康な人が弾性ストッキングを使用するのと同じような意味で使用することもあります。
 腕の場合は異なります。初期、軽度のむくみの人は、手の甲に治療用の弾性着衣が見えると目立つので、弾性ミトンや弾性グローブはどうしても敬遠しがちになります。つけるとすると手首までの弾性スリーブにしてしまうでしょうが、下手に圧をかけると手の甲がむくんでしまいます。したがって、予防やむくみが軽いときには弾性スリーブはよほど注意が必要です。少なくとも予防では弾性スリーブはしない方が無難です。
 腕の予防でできるのは、出来るだけ腕を高くしておく生活を心がけることと、軽く動かしてマッサージ効果を期待することです。そこに可能ならリンパドレナージを加えてもいいかもしれないという程度です。こうした積み重ねによって、朝起きて腕がむくんできてもひどくならず、寝れば翌朝むくみがとれている状態を維持できればいいと思います。これが、腕の予防や初期治療の考え方です。

【3】予防とは

■リンパ浮腫が悪化する誘因とは

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 ではむくみがたまってしまう原因は何かと言うと、経験的にこのようなこと(上の図参照)があります。孫の「世話」や家族の「介護」などはかなり負担となることが多いようです。「葬儀の参列」や「引っ越し」などもそうですが、少々精神的に負担で、他人に合わせて動かなくてはならないものと言えます。逆に、結婚式や海外旅行など、楽しいことは意外と悪い要因にはなりません。「草むしり」などの土が絡むと炎症(蜂窩織炎)の原因となることが多いようです。
 腕のリンパ浮腫の場合、長時間「パソコン」で作業をしたり、「編み物」などをしたりしていると悪化させることがあります。脚の場合「長時間立ちつくす」などでむくみます。同じ動きを繰り返したり、じっと動かないでいたりすると、筋肉があまり有効にマッサージ効果を生み出さないようです。
 また、「肥満」はたいへん好ましくなく、太っている限り治療効果はほとんど期待できません。体重が少し増えるだけでもむくみは増加します。リンパ浮腫の予防や治療には、減量はとても重要なポイントです。太ると、皮下脂肪がリンパの流れを阻害してしまうので結果的にむくみを除去しにくくなってしまいます。太っていると治療はストップと考えてもいいぐらいです。

【4】悪化の誘因と蜂窩織炎とは

■蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは

 リンパ浮腫というのは、リンパ液の循環が悪くなったために、タンパクや水分が脚や腕にたまってしまうことを指します。その浮腫した脚や腕に何らかの理由で菌が入ってしまうと、菌がむくみの中で繁殖して炎症を起こしてしまうことを蜂窩織炎といいます。

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 人間の皮膚の色は、動脈と静脈の色を私たちは見ていると考えていいでしょう。健康な場合は、皮膚が肌色に見えます。リンパ浮腫の場合、むくみによって血管が見えにくくなり、白く見えます。蜂窩織炎を起こすと、白いはずが少し赤かったり、真っ赤になったりしてしまいます。
 これは動脈から血液が流れていく毛細血管の動脈側が太くなっているからです。元々、小さな血管の小さなすき間から水分が体内に出ていたのに、炎症が起きて血管が太くなると、血管壁の透過性が亢進(こうしん)してしまって、血管から急に水が外に出て行く形になります。そのため、急にむくみが増えます。典型的な蜂窩織炎は、急に真っ赤になって熱が出るものとされていますが、少し赤くてもその分だけ血管は太くなって血管壁透過性が亢進し、水が出ていると考えるといいでしょう。
 最初に、リンパ浮腫はたまったむくみ液をリンパ管から排水できないと言いましたが、蜂窩織炎では動脈側からどんどん水が出てきます。洗面台に例えると、リンパ浮腫のためにただでさえ水はけが悪いのに、蜂窩織炎では水道の蛇口をまちがえて開けてしまったようなものです。蜂窩織炎を起こすと一気にリンパ浮腫が悪化しますので、赤くなったら炎症を起こしていることを疑って医療機関を受診した方がいいでしょう。

■リンパドレナージとは

 リンパドレナージについて説明します。腕や脚の中にたまったむくみの液をリンパドレナージという手技で腕や脚の中を走っているリンパ管に流し込み、腋(わき)や鼡径部(そけいぶ)のリンパ節を経て深部リンパ系に入り、頚部の静脈に合流します。わかりやすくするために、腕や脚の中を走るリンパ管を国道、深部リンパ管を高速道路に例えて考えてみます。
 左脚のリンパ浮腫のリンパドレナージを考えてみます(下の図)。脚のむくみの液(自動車)はリンパ管(国道)に入り、リンパ節(高速道路の入り口)から深部のリンパ系(高速道路)に入り、頚部の静脈(高速道路の出口)に合流して心臓に向かいます。そこで、高速道路の入り口からちょっと入った部分が、交通事故で通行止め(手術でリンパ節を切除)になっていると考えてください。そうすると、車はインターチェンジから高速道路に入れないので、山道や市街地の道路(側副路)を通って、他のインターチェンジ、つまりわきの下など他のリンパ節にう回して流していくことになります。これが、リンパドレナージの考え方になります。
 腕で考えた場合は、腕の付け根にあるわきの下のリンパ節やそこから少し入った深部のリンパで交通事故が起こり、車が通れないと考えるといいでしょう。腕のリンパ管に集められたむくみ液は、わきの下のリンパ節から深部に流れていかないため、今度は、反対側のわきの下のリンパ節や同側の脚の付け根のリンパ節といった遠回りをさせて深部のリンパに流していくことになります。

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 次に重要なのは、流し方です。脚の場合で考えてみましょう。わきの下のリンパ節にう回して深部のリンパに流すとしても、深部のリンパ管が静脈に合流する部分、高速道路の先頭部分が渋滞していたら流れていきません。そのため、まず、首の付け根の方からリンパ液を流していきます。首の付け根のマッサージや肩回しです。次に深部のリンパですが、ここは手が届きませんので深呼吸して刺激します。深部のリンパ系には、おなかの部分に乳び槽(そう、リンパ管の本幹である胸管の始部にある拡大部)があります。そこを少し押して刺激を与えます。その次にリンパ節を刺激します。その後に、う回させて深部に流すむくみの液を患肢から遠い順に少しずつ流していきます。
 深部リンパ管以外は、皮下のリンパ管をマッサージで流していくことになります。皮膚と筋肉のすき間で、すねの場合だと5ミリ弱の非常に浅い位置にあります。おなかは個人差がありますが、皮下なのでそんなに深い位置にあるわけではありません。
 したがって、マッサージは浅い部分を動かしてあげればいいのですが、皮膚をさするのではありません。皮膚と筋肉の間、筋膜の上あたりに集合リンパ管があると考えると、毛細リンパ管は皮膚のすぐ下にあります。この部分を刺激してあげればいいわけです。リンパドレナージはこのリンパ管に刺激を加えることになりますので、手のひらで皮膚の表面をさするだけでは皮下のリンパ管に刺激が届きません。少し力を入れ、毛細リンパ管や集合リンパ管に刺激が届くようにドレナージをします。このように皮膚をずらすようにしてむくみ液を流してあげるのが、リンパドレナージです。
 

■実演3:リンパドレナージの部屋

 リンパドレナージはどんな場所で行うのか説明します。脚のリンパドレナージなどでは、必要に応じて足台などで足先を高くすることもあります。【動画参照】

【5】医療用リンパドレナージとは

■患者ができるセルフケアとは

 リンパドレナージを簡単にできるかというと、皮下の筋肉とのすき間の部分をうまく動かさないといけないため、意外と難しい手技と言えます。このような医療用のリンパドレナージは、セラピストが専門的な教育を受けて習得したものです。自分で行うセルフリンパドレナージという方法もありますが、資料を見ての独学では難しいので、する際は一度実際に施術を受けてみることをお勧めします。
 治療の基本は、脚や腕を高くすること、それと弾性ストッキングや弾性スリーブで押さえることで、これが治療の主体となります。もう少し早くむくみ液を抜きたい場合、リンパドレナージも助けにはなるでしょうし、立っているときは少し腕や脚を動かすことでマッサージ効果も期待できるでしょう。  ですがリンパドレナージは治療のメインではありません。適切な弾性ストッキングや弾性スリーブをつけて生活することがまず基本となります。リンパ浮腫の治療(複合的治療)のほとんどは、セルフケアです。リンパドレナージは一見、アクティブな治療に見えますが、簡単に覚えてできるものではありませんし、頻繁に病院に行って施術を受けることは物理的にも経済的にもできません。また、リンパドレナージのできる医療者がいる医療機関は少ないですし、あっても受け入れ体制は十分とは言えません。
 私のクリニックでも、リンパドレナージのための通院はあえてお勧めしておりません。患者さんご自身が初めにリンパドレナージの指導を受け、ご希望される方がお受けになっているのが実情です。繰り返しになりますが、患肢を高くしたり、弾性ストッキングや弾性スリーブを日中装着したりするというセルフケアがもっとも大事です。
 自分で行うリンパドレナージを「セルフリンパドレナージ」とか「シンプルリンパドレナージ」と言います。勉強して技術を習得した人が行うのではなく、患者が行うドレナージを指しますが、エビデンス(科学的裏付け)はありませんので、強く勧められているわけではありません。患者はつい自分で何とかしたい、という気持ちになります。ですが、治療の主体は日常生活上のセルフケアであって、けしてセルフリンパドレナージをしなければ良くならないとは考えない方がいいでしょう。
 

■どういった時に医療機関にドレナージに行けばいいのか

 セルフリンパドレナージは決して強く勧められているものではありませんが、ついむくんでいる患肢には手がいってしまいます。自分で触れるように習慣づけると患肢の変化も敏感に分かるとも思いますので悪いことではありません。この時に、どのように皮膚に触ればよいのかなどを、治療を始める頃に一度指導を受けると良いでしょう。2008年の公的医療保険の診療報酬改定で、患者に指導することが認められています。この説明を受け、むくみの液をどちらに流せばいいのかといったことなどを理解します。また、どうしてもリンパ浮腫の状態が良くない場合や、患肢のケアが自分ではうまくいかない場合などには、実際にリンパドレナージを受けることで助けになるでしょう。がんの終末期の緩和ケアが中心となっている時期にも症状を和らげる目的で施行されることもあります。
 

■医療機関以外の民間のリンパマッサージは有効なのか

 医療機関で行われる、リンパ浮腫に対する医療用リンパドレナージの技術を習得したセラピストでない、いわゆる市井にある「リンパマッサージ」は、事故があって流れない高速道路、つまり切除してしまった深部のリンパにむくみ液を押し込もうしてしまうことになりますので、結果的に脚や腕の付け根にむくみ液がたまってしまうことがあります。したがって治療としてはかえって悪化してしまうことがあるので、お勧めできません。

【6】セルフケアとは

■2008年に認められた公的医療保険の適用範囲は

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 最後に保険適用についてお話しします。リンパ浮腫に関する公的保険の適用は2008年に認められました。ポイントは2つ。一つはリンパ浮腫指導管理料です。リンパ浮腫はどういうもので、どうケアしていったらいいのかを患者に説明すれば、医療者側が診療報酬を得ることが認められました。もう一つは、弾性着衣(弾性スリーブや弾性ストッキング)を購入に対することに保険適用が認められました。

■2016年に認められた公的医療保険の範囲は

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 2016年には「複合的治療」について、公的医療保険の適用が認められました。ここでいう「重症」は、リンパ浮腫の状態が悪くなり、患肢が明らかに太いか、さらには変形してきているような場合です。「それ以外」は、そこまでいかない場合です。
 医療機関での外来診療では弾性スリーブ・ストッキングの着用がうまくいっているかなどの経過を診てもらったり、蜂窩織炎などの合併症が発症した場合はその対応、また、必要に応じてリンパドレナージをしてもらったりすることもあります。ですが、リンパ浮腫の治療の主体はセルフケアですので、医療機関でやってもらうことはあまりなく、経過を診てもらうことが主と考えた方がいいでしょう。

■リンパ浮腫を治療できる医療機関の探し方

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 2016年の公的医療保険の適用以来、リンパ浮腫を扱う医療機関が増えています。ただし、その医療機関で手術をした患者への対応が精いっぱいで、あまり外部の患者を受け入れることが出来ないのが実情と思います。
 一方、医療機関以外の民間のいわゆる「リンパマッサージ」や「リンパドレナージ」をする施設もありますが、これまで説明してきたように医療用のリンパドレナージとは違います。がん患者でリンパ浮腫に悩んでいる人は、そのような施設や治療院に行かない方がいいと思います。

【7】公的医療保険の適用と医療機関の探し方

▼研修修了者が対応するリンパ浮腫外来がある医療機関を探す

 国立がん研究センターがん対策情報センターのサイト「がん情報サービス」のサイトです。

▼動画の再生リスト(すべての動画を自動再生)は下記のURLから

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○第1回リンパ浮腫学会学術総会「市民公開講座 リンパ浮腫のセルフケアとこれからの治療のあり方」

  • 日時 2017年3月18日 午後1時から午後2時30分
  • 場所 ヒューリックカンファレンス Room1 (東京都台東区浅草橋1-22-16 ヒューリック浅草橋ビル3階)
  • 講師 宇津木久仁子さん(がん研有明病院婦人科副部長)
  • 参加費 無料
  • 申し込み 当日先着順
  • サイト http://www.lymphedema2016.com/public-seminar.html
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    岩崎賢一

    岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

    1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターを経て、2014年12月からアピタル編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)