【動画】がん患者の食事、注意するポイント(1分45秒)

 がん患者にとって治療中の食事は大きな悩みのひとつです。手術後の体調変化や治療によって起きる副作用などで、体のだるさや吐き気だけでなく、味覚がかわり、思うように食べられなくなることがあるからです。がんになったときの食事のポイントや注意点について、大阪国際がんセンター緩和ケアセンター長の飯島正平医師(栄養腫瘍科)に聞きました。

【ポイント】

▼味覚障害は「亜鉛」不足も影響

▼口当たりよく、飲み込みやすいものを

▼食欲不振時こそ「脂肪」が必要

▼「地中海式食事」参考に

▼アルコールは慎重に

▼「○○がんに効く」には注意

▼治療継続できる体力づくりを

Question抗がん剤や放射線治療などのがん治療を受けると、患者の味覚がかわるのはなぜでしょうか?

Answerがんの治療で味覚が変化する原因はいろいろ推測されているのですが、舌の表面で味を感じ取る「味蕾細胞」が抗がん剤や放射線による治療で影響を受けることもその一つです。

 それから口腔外科や耳鼻咽喉科領域のがん、食道がんなどで、味覚に関係する部位に放射線が照射されれば障害されますので、それなりに機能は低下します。ダメージが永久に残ってしまう場合もあります。

 一方、抗がん剤や放射線治療で粘膜の炎症がおきます。その場合には粘膜の構造や機能が障害されるわけです。当然正常なときには働いている機能を失いますので、味覚に関する部位では味覚障害の原因になります。

 ■味覚障害、「亜鉛」不足も影響

 そして、亜鉛は細胞分裂のときに働く補酵素で、細胞分裂が盛んな味蕾細胞にとっても必要な金属です。ただし、亜鉛は非常に短期で欠乏しやすいので、食欲不振では味覚障害の原因になります。

 治療自体は見た目上変わらなくても、体にとっては非常に負担をかけています。たとえば、体の組織に放射線があたると、その組織の細胞が死にます。その死んでしまった細胞を排除するために、いろんな細胞が集まってきて、そこを浄化し、修復すべき部位では再生がすすみます。治療経過中は見た目ではわかりませんが、体内では盛んにそういう活動が日常的に行われています。

 ■「風邪引いたら食欲おちる」と同じ

 治療時は体に炎症がおきたときと同じような反応がおきていると考えてもらったらいいです。そんな時には食欲は落ちることはよくあります。例えば風邪を引いたときがそうです。熱がちょっと出ただけでも、食欲がおちることがあります。「風邪をひいたら食欲おちる」というのはみなさん自身で経験されているでしょう。がんに対する治療で薬を投与したり、放射線治療をした場合も同じで、見た目からはわからないいろんな反応が体のなかではおきています。その影響として、風邪のときと似たように、体がだるかったり、食欲が低下したり、集中力がなくなったりするわけです。

 だから、薬の投与や放射線治療が終わって、その直接的な影響がなくなると、風邪がなおったときのように、(食欲も)戻ってきます。だからがん治療中は、ちょっと風邪とは違いますけど、風邪の時に体をいたわるようなつもりで考えたほうがいいですね。

Questionがんのステージや種類でも違うとは思いますが、一般にがんの治療中の患者さんにとっては、どんな食事のとりかたがいいのでしょう?

Answer例えば、がんの手術後では、切除手術をするとからだの構造がかわります。切除して、消化管をつなぎ替えたりしますが、その時には術後には食べ物が通る構造がかわります。ただヒトは動物として、その構造変化に対して、適応する能力をもっています。なので、かなりの部分は、時間がたてばその体の構造に適応してきます。極端な話ですが、視力を失った方は音やにおいに敏感になったりします。私たちは失った機能を他の機能で補充する能力をもっているからです。

 ■術後の食事は無理せずに

 ただ、どうしてもカバーできないものは残ります。例えば胃が小さくなると、多少は、のびますが、元の大きさに戻るわけではありません。胃が小さくなっているのに、昔のように一気食いをしたり、丸呑みをしたり、あるいは消化の悪いものを大量に一度に食べたりすると、厳しいでしょう。しかし、普段食べる量を、日常的な食べ方で食べる分については、そんなに問題になることはないんです。手術をしても食事を楽しむことはできます。注意すべきことは手術直後には無理をしないことです。その後はだんだん慣れてきますので、自分の生活リズムにあわせて食生活を元に戻していけば、大きく崩れることはないと思います。

Questionがんの治療後に食欲不振が続くときは、「あっさり、さっぱりした味付けを工夫しましょう」とよく言われますが、先生はどうアドバイスされていますか?

Answer基本は同じです。脂肪分を多く含んだ食事をとると、胃がもたれやすくなるからです。胃での停滞時間がながくなるので、ずっとおなかいっぱいのような気がしてきます。

 ■口当たりよく、飲み込みやすいものを

 味の点でも脂っこいものは、旨味でもあるのですが、食が進まないときには逆効果で、味覚に対しても影響が大きくなります。できるだけ口当たりがいいもの、飲み込みやすいものをすすめます。例えば、体調の悪いときに親子丼と卵うどんだったら、つるつるっと食べやすいうどんを選ばれることが多いと思います。少し食欲が出てくると、逆に丼の方を選択されるでしょう。ですが、その時たべたいものがあるなら、それを食べるのがよくて、必ずしもあっさりにこだわることはないと思います。

 ■食欲不振時にこそ「脂肪」が必要

 実はそういう食欲不振のときこそ、意外に脂肪分は必要なので、それは別の形で摂取されたらいいと思います。例えば大豆などの豆は脂肪とたんぱく質を適度に含んでいるので、煮物や和菓子のような、あっさり食べられるようにもできます。あと、栄養士さんがよく使われるのはミルクと卵ですね。比較的安くて、どこにでもあり、誰もが知っているなじみの食品だからです。動物性の脂肪も含んでいますし、たんぱく質も多いです。牛乳一本のむのは結構大変なので、口当たりを考えて、アイスクリームやヨーグルトに変えてとるといった工夫もできると思います。

Question新しくできる大阪国際がんセンターのレストランで、先生が監修したメニューがあると聞きました。

Answer必ずしも、がん患者さん向けというわけではなく、通院やご家族のお見舞いなどで病院に来られるときに、健康のことを少しは意識してもらいたいと考えて、監修したメニューです。

 ■「地中海式食事」参考にメニュー

 「○○を食べてはいけない」と制限するものではなくて、健康によいもので、少し(科学的に証明されている)エビデンスのあるようなものにしようことで、イタリアやスペインなど地中海沿岸地域で伝統的な食事を摂取していると心臓や血管の病の予防に効果があるという論文も出た「地中海式の食事」というものを参考にしました。

 オリーブオイルや新鮮な果物や野菜、豆、魚介類などを使った料理を中心に食べる地中海沿岸地域の方々を対象にしたハーバード大学の疫学調査があります。その結果は、心筋梗塞や脳卒中など心臓や血管の病気が少なかったり、がんの死亡率も少なかったりと、健康的な食事としてのデータが出ています。

 ■魚や野菜、果物を

 普段のこと以上に食生活を見直そうとするときに、「あれ食べてはダメ、これ食べてはダメ」というばかりでは、せっかくの食事の楽しみが生かされません。でも、地中海式の食事というのは比較的制限的な要素は少なく、なおかつ粗食というわけではないんです。それに、よくみると和食に近いんですね。例えば魚介類を食べます、野菜を食べます、それから米はどちらかというと、玄米とか精米されていない穀米です。あとは豆や殻付きのいわゆるナッツ、果物が多いです。お肉は食べますが、地中海沿岸地域の人たちは、普段はあまり肉を主菜としてはとりません。もちろん、ミネストローネスープにベーコンが入っているということはありますが、家畜系統のものをがっつり食べるということはあまりされないようです。ただしまったく食べないのではなく、お祝いやお祭りのときには肉は食べられています。ですから、日本でいうと、私たちがたまに焼き肉などを食べるのと変わりません。この点でも日本の和食の文化をいかした食生活と、地中海式食事との接点は多いでしょう。

 そういうコンセプトを病院に入るレストラン「ひなた」の担当者の方に要望して、決して食事は制限するものではなく、楽しむものだということを病院から発信したいということで、病院院長含めて賛同してくださったので、それで始めることになりました。

 ■アルコールは慎重に

 アルコールは必ずしも禁止にはしませんが、アルコールでの発がんが関与されるような食道がんや口腔がんの方はやめていただいたほうがいいと思います。それ以外の場合、アルコールは食事を楽しんだりするためや、お祝いの際には構わないと思います。

Questionこの食品を食べ続けたら、がんが直ったという誤った情報をインターネット上のサイトなどでよく見ます。

Answer何か特別にがんに効く食品なり、栄養素というのはまだ見つかっていないです。

 ■「○○がんに効く」には注意

今後みつかる可能性はあるかもしれないけど、当面そういう何か特別な食品でがんが治ってしまうと言うことは期待できないので、がんの治療がうまく継続できるような体力と免疫力を維持できるような食生活をするということが大事なのです。

 それといつも気をつけた方がいいとお話するのは、ほかの先生もよくお話になりますが、値段がべらぼうに高い健康食品はだめですね。

Questionアガリクスなどのことですね?

Answerそうです。そもそもが食品なので、マツタケのような高い値段になるはずがないんです。高価なものがよく効きそうなイメージがありますが、高級食材と同じような値段が設定されるというのはちょっとありえないですね。原料価格から考えればそういう高い価格設定をするというのは、企業としての誠実さに疑問が出てきます。

Questionがん治療中の患者さんへの食事では、どうアドバイスされていますか。

Answer患者さん向けには、しっかりたんぱく質をとってください、といっています。日本人の文化では病気の時にはおかゆを食べる傾向があって、おかずを食べないですね。そんなに大量の炭水化物は必要ではないので、たんぱく質もしっかりとりましょうと。取り方は植物性であろうが、動物性であろうが、構いません。いまは味付けも甘い物から辛いものまで、いろんな好みの変化をとれるようになってます。

 ■「脂質」も重要

 それから、もう一つは脂質ですね。コマーシャルベースでは、脂を悪者にいうことが多いのが気になります。確かに過剰栄養のひとにとっては(脂は)少量でたくさんのカロリーを摂取してしまうの、悪い影響を及ぼします。でも一般的に、食が不安定な方にとっては、脂をとるのはてっとり早く(エネルギーを)貯金するためのものでもあるので、あんまり悪くみる必要はないということをお話しています。あと、DHAとかEPAの名で知られている必須脂肪酸も必要です。必須脂肪酸とは、ヒトでは合成できない脂肪酸で、摂取しなければ短期間で欠乏症に陥ります。そして、DHAやEPAは炎症を抑える作用があり、がんに対しても効果的に働くので、このような脂肪酸もとる必要があると思います。

 ■「栄養のこと」、早めに考えよう

 食事に関しては、がんの治療中にぎりぎりまでがまんしてから取り組むのではなくて、ちょっと食欲が落ちたときに、早めに栄養のことも考えていただいたらよいでしょう。

 抗がん剤が効きやすい(副作用が出にくい)体を維持することも大事なことで、そのためには少し抗がん剤で食欲おちたときに、どうしのいでいくかというのが非常に重要です。そのためには、医療者側も今後は「食べ物はなんでもいい」ではなくて。具体的な提案していかないといけないし、より知識を持ちたい方にはそういう場を提供しないといけないかなと思います。

Question最後に改めて、がんになった人が普段の食事でどういう点に注意すればいいでしょうか?

Answer何か特別にがんにきく食品なり、栄養素というのはまだ見つかってないです。今後は可能性はあるかもしれないけど、当面そういう何か特別な食品でがんが治ってしまうことは期待できないので、がんの治療がうまく継続できるような体を維持するための食生活をするということが非常に大切なことです。ごはんは食べ過ぎず、やはりおかずを中心にたんぱく質や脂質をとって、ビタミンや不足しやすいいろんな微量元素、(例えば)亜鉛とかありますので、こういったものをバランスよく摂取されて、がんに対しての防御力を発揮しやすいような、治療を受けていくときにその効果を発揮しやすいような身体作りの食生活を、適度な運動とともにされることをおすすめします。

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