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もっとトイレに光を 伊奈輝三(1)

:自宅の門前にたたずむ父長三郎氏の像と=常滑市拡大自宅の門前にたたずむ父長三郎氏の像と=常滑市

:世界中の便器や洗面台を集めたショールーム「XSITE」=東京都、LIXIL提供拡大世界中の便器や洗面台を集めたショールーム「XSITE」=東京都、LIXIL提供

:裸像をあしらった便器も展示された=東京都、LIXIL提供拡大裸像をあしらった便器も展示された=東京都、LIXIL提供

【愛知(ここ)に人あり】会社は社員の生活舞台 伊奈輝三(1)

 「まさか、便器を並べるわけじゃないですよね?」

 バブル経済まっただ中の1986年。後に社長となる森ビルの森稔専務の問いに、INAX社長(当時)の伊奈輝三(てるぞう)(75)は、こう答えた。

 「実はそうなんです。でも、あなたが思っているものとは全然、違いますよ」

 森ビルが同年にオープンした赤坂アークヒルズ(東京都港区)。今なら、さしずめ六本木ヒルズにあたる都心の顔だ。最後に残った最上階の37階には会員制クラブが計画されていたが、伊奈は「うちに貸してほしい」と森に頼み込んだ。

 できたのは、世界の便器や洗面台約800点を展示するショールーム「XSITE」。裸像をあしらった便器など、10カ国30社からかき集めた。

 極め付きは、便器を見ながら楽しむカフェ。「便器の近くでお茶を飲むなんて」と顔をしかめる人もいたが、1日400〜500人が訪れ、「はとバス」の観光コースになった。和菓子の組合がつくった菓子を便器の上に並べ、展覧会を開いたこともある。

 赤字だった。「現場では1円単位でコスト削減をしている。なのに、社長が訳の分からん無駄遣いをした、と批判もありました」。伊奈はこう振り返る。便器のショールームは95年春、役目を終え、姿を消した。

    ◇

 「もっとトイレに光を」。伊奈が、おしゃれなインテリアとして便器を集めたのは、汚いというイメージを変えたかったからだ。

 翌87年。東京・銀座の老舗デパート松屋は、来店してもらうのに必要な何かを探していた。「銀座でトイレに行きたくなったら、デパートに行く」という調査結果に注目。全面改装をINAXが請け負い、「トイレなら松屋へ」と打ち出した。

 女性用の化粧台を豪華にし、間隔を広げてゆったりと身だしなみを整えられるようにした。当時の伊奈の口癖は、「トイレで1日15分過ごせば、一生で8カ月もいる計算になる」。著名なデザイナーの手による便器を次々と発表した。ホテルや駅などのトイレが、用を足すだけではない空間としてリニューアルされる流れができた。

    ◇

 次々と新たな手を繰り出す伊奈。胸中には、同じ森村グループという身内であり、ライバルでもあるTOTOの存在があった。

 「TOTOまたは同等製品であること」

 当時、中央官庁の入札書類には、こんな文句があった。INAXの便器は官庁や高級ホテルに食い込めない、と社員は嘆いた。タイルのシェアで国内首位だが、便器はTOTOの7割に対し、2割弱。社内では、タイルの営業職は肩で風を切り、トイレの担当は下を向いて歩いていた。

 伊奈は、TOTOの強みは製品そのものより、設置業者とつながる圧倒的な販路だとみていた。奇抜なショールームや、トイレを過ごしやすい空間に変える取り組みは、ブランドを訴えて消費者に振り向いてもらうためだった。

 会社の知名度を示す大学生の就職人気ランキングは、ショールームができた翌年の87年に97位となり、100位以内に顔を出した。いま、便器のシェアは4割近い。

 創業者の跡を継ぎ、会社を育てあげた伊奈。実は剛腕というより、お坊ちゃんだった。(敬称略)(奈良部健)

●常滑の歴史と風土を受け継ぎ、人生歩む

 焼き物でつくった土管を積み上げた塀やタイル張りの民家、れんが造りの工場にそびえる窯の煙突、巨大な招き猫――。知多半島の中ほどに位置する常滑市では、焼き物が日常に溶け込んでいる。

 常滑は瀬戸、信楽、越前、丹波、備前と並ぶ「日本六古窯」の一つ。平安後期には、知多半島の丘陵地に3千基にのぼる穴窯があり、つぼや鉢がつくられた。「丘陵の傾斜を生かして窯をつくり、原料の土やマツも豊富にあった。海に囲まれているので全国に運べたんでしょう」。焼き物に適した風土について、伊奈輝三はそう指摘する。

 常滑焼を産業として確立したのが、江戸中期から続く窯元の伊奈家だ。輝三は「7代目」にあたる。

 明治維新で灌漑(かんがい)や下水道用の需要が急激に高まった土管の大量生産に、輝三の祖父の初之烝(はつのじょう)が成功。大正や昭和初期には、帝国ホテル旧本館のれんがをはじめ、「汚れにくく衛生的だ」として大阪の遊郭を皮切りに、家庭にも広がったタイルを手がけた。父の長三郎が1924年に設立したINAXの前身の伊奈製陶は、すぐに経営危機に見舞われたが、財界人からの支援と関東大震災後の復興需要もあって事業を軌道に乗せた。

 伊奈製陶は戦時中、軍需工場に指定された。陶器は爆弾の部品になり、ロケット兵器の燃料を貯蔵するための容器にも使われた。

 そして終戦。直後の45年には、こうした技術を生かしながら便器の生産を始めた。伊奈は、常滑の歴史と風土を受け継ぎ、焼き物と人生を歩んでいくことになる。=敬称略

《INAXとTOTO》

 伊奈輝三氏の父の長三郎氏が1924年、伊奈製陶を設立。日本陶器(現ノリタケカンパニーリミテド)などからなる森村グループの大倉和親氏も事業に共鳴し、伊奈製陶の初代会長に就いた。創業後まもなく経営危機に陥った際は、大倉氏が私財で助けた。大倉氏は17年に東洋陶器(現TOTO)をつくって初代社長に就任。伊奈製陶も後にグループ入りし、東洋陶器とは「兄弟会社」になる。

 輝三氏が社長だった85年、伊奈製陶はINAXに社名を変更。2001年には住宅建材大手トステムと経営統合し、INAXトステム・ホールディングスとなり森村グループを離れた。その後、住生活グループ、LIXIL(リクシル)グループのもとでINAXという会社名は残っていたが、11年になくなった。

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