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文化

松本俊夫著作集成刊行に寄せて―越後谷卓

写真:「松本俊夫著作集成(1)」 拡大「松本俊夫著作集成(1)」

●時代読み解く柔軟な思考

 昨年11月から12月に、愛知芸術文化センターで「第20回アートフィルム・フェスティバル」を開催した。多彩なプログラム構成だったが、観客からの関心が高かったものの一つが、『松本俊夫著作集成(1)一九五三−一九六五』(森話社)の刊行を記念する「松本俊夫新発見&再発見」で、彼のカリスマ的人気の強さを改めて実感する出来事だった。

 松本俊夫は1932年名古屋市生まれの映画監督で、一般的にはピーター主演の劇映画『薔薇の葬列』(1969年)で知られている。その活動領域は幅広く、ドキュメンタリー、実験映画、ビデオアート、映像インスタレーションまで、映像表現のほぼすべてのフィールドをカバーしている。さらに、実作に留まらず、執筆活動にも積極的で、評論家、映像理論家の側面もある。上映会から約半年の後に刊行されたこの書物は、全4巻構成が予告されているので、松本の著述活動のスタート地点を見渡すものといえる。

 デビュー作『潜函』(1957年)は、電力会社のトンネル工事を記録する企業PR映画だったが、その撮影時に、朝鮮人や農家の次男、三男など、容易に仕事に就くことが出来ない社会的弱者が過酷な工事におもむかねばならない現実を目の当たりにする。「『マンモス潜函』を完成して」は、企業PRという枠組みのため、それを十分に映画に反映できなかった無念がつづられているのだが、この「著作集成」で改めて読み直してみると、50年以上たった今日の社会もほぼ状況が変わらないことに気づき驚く。

 初期の松本は、アバンギャルドとドキュメンタリーという、相反する概念の統合を主張して注目されたが、それが純粋な美学的見地によるのではなく、現実社会の矛盾に引き裂かれながら導き出されていたことが分かる。

 映画に留まらず美術や文学などへの言及も多く、ジャンルを横断した柔軟な思考は、専門領域の細分化が著しい現在の状況を解きほぐす意味でも、我々に新鮮な刺激を与えてくれるだろう。(愛知県美術館主任学芸員)

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