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人に食あり 食に人あり

(3)原子力最中 刻まれた苦楽

写真:原子力最中。震災前、JR大野駅で「ふるさと産品」を紹介するショーケースに飾られていた。今は町内の民俗伝承館に保管されている=大熊町 拡大原子力最中。震災前、JR大野駅で「ふるさと産品」を紹介するショーケースに飾られていた。今は町内の民俗伝承館に保管されている=大熊町

写真:写真の中の「佐藤菓子店」 拡大写真の中の「佐藤菓子店」

写真:佐藤菓子店の店内。泥棒や動物に荒らされ、棚の商品などが散乱していた=2018年12月12日、大熊町 拡大佐藤菓子店の店内。泥棒や動物に荒らされ、棚の商品などが散乱していた=2018年12月12日、大熊町

 ●大熊の店 かつての稼ぎ頭

 東京電力福島第一原発が立地する大熊町に、「原子力最中」という菓子があった。原発事故の前まで売られていたが、今はない。

 最初に聞いたとき、強いインパクトがあった。食品に「原子力」の名があることへの違和感。いったい、どんな菓子だったのか。

 最中を作っていた「佐藤菓子店」の夫婦を訪ねた。

 店主の佐藤卓さん(83)と妻のノリ子さん(79)。原発事故の後、大熊町を離れ、田村市や会津方面を避難した後、今はいわき市で暮らしている。

 最中の始まりは、第一原発1号機が営業運転を始めた1971年ごろのことだった。

 「当時の所長さんが店に来たとき、何か原発のおみやげになりそうなお菓子がないかいって言われて」

 ちょうど新商品を出したいと思案していた矢先のこと。最初は町でよく見かけるキツネやタヌキの最中をつくる予定だったが、原発所長の一言で原子力最中が誕生したという。

 「主人とふたりで売れるものつくりたいねと。じゃあ、原子力最中ってつけっかって」とノリ子さん。原発のおみやげなのだから、原子力最中。名前はすぐ決まった。

 最中の表裏には、原子炉建屋をデザイン。最中を包む透明のラッピングには、鉄塔と、原子が飛び交う様子をイメージした花のような図を印刷した。あんこは北海道産で「粒」と「こし」を混ぜ合わせた。たっぷりの砂糖と水飴、蜂蜜を入れ、「どんな最中よりも甘くした」。隠し味でちょっぴり塩も。

 販売を始めるとよく売れた。客の多くは原発を視察に来る県外の人たち。「つくるのが間に合わねえぐらいだった」

     ○

 卓さんは7人きょうだいの3番目で農家の生まれ。

 東京や南相馬で修業した後、26歳で店を開いた。結婚はその翌年。菓子作りは卓さん、接客や配達はノリ子さんの仕事だった。

 店を始めて5〜6年たった1960年代後半、原発の建設工事が始まった。

 農繁期が終わると多くの人が東京へ出稼ぎに出て、町職員の給与の支払いも滞るような町。原発の建設が始まると、駅には急行や特急が止まるようになった。

 「大熊は原発があってひらけたんだ。東電さんには世話になったな」

 道路や公共施設が立派になり、出稼ぎしなくてもよくなった。佐藤菓子店では原子力最中が「稼ぎ頭」になった。

 その店も、今は帰還困難区域にあり、泥棒や動物に荒らされてしまった。原発事故後、夫婦は月に1度は店を見に行っていたが、ノリ子さんはそのたびに涙が出たという。体調が優れず、ここ3年ほどは行っていない。

 避難暮らしの中で陰口を耳にしたこともある。「大熊は原発で40年いい思いをした」「汚染土のバッグをあそこに早く運び入れればいい」

 大熊町民であることを周囲に積極的には語れなかったと、胸の内の切なさを明かした。

 「でも東京電力を憎いとか恨むとか、そんな感情はない。恩恵を受けたから」

 ノリ子さんは淡々と語り、卓さんもうなずいた。

     ○

 実直そのものといった雰囲気の卓さんと笑顔が優しいノリ子さん。写真撮影をお願いしたが、写りたくないと言う。代わりに、職人の手を見せてもらった。

 分厚い。触れると柔らかく、温かい。手のひら全体に刻まれた深いしわ。原発事故の後は一度も菓子をつくっていない。もう、つくることはないという。

 夫婦に会った後、私は現在の店を見るため、町の許可を得て町内の帰還困難区域に入った。

 同行の町職員はまず、民俗伝承館という施設に案内してくれた。原子力最中の現物があるという。

 震災前、町の「ふるさと産品」に認められ、「大熊銘菓」としてJR大野駅のショーケースに飾られていた。それが他の文化財と一緒に一時保管されているというのだ。

 レプリカではなく本物で、真綿入りの高級和紙に包まれていた。「地域の歴史を物語る貴重な資料」として、いずれ町内の施設で展示する予定だと、職員は教えてくれた。

 大きさは約9センチ四方。「他の店にない変わったことやってみっぺ」(卓さん)と、このサイズにした最中は、見たこともない大きさだ。皮が少し崩れているが、カビは見えない。あんこでずっしり重かったという最中は、今は軽かった。

 店は町中心部にあった。

 ガラス戸は割れ、店内にはビニール、空き缶、段ボールなどが散乱している。泥まみれの床に顔を近づけると、獣のような異臭もする。陳列棚の中は、ネズミにでも荒らされたのか、菓子の包み紙の残骸ばかりが散らばっていた。

 荒廃ぶりに言葉をなくし、店の横に回って庭をのぞくと、夫婦が育てていたというキウイやキンカンが木に実り、風に揺れていた。

     ◇     ◇

 ●名前への違和感消えた

 佐藤さんご夫妻にお会いして、「原子力最中」という名前への違和感がなくなった。原子力発電所とともに生き、なりわいの糧としていたお二人。あの名は暮らしの中での自然な選択だったのだと思えた。私は学生時代を含め約7年間を東京で暮らしたが、その時の電気は大熊町で作られたものだったはず。人ごとではない。この町で起きたことを知り、人々の苦楽を記憶に刻むこと。私の務めだとも思った。(杉村和将)

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