メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

09月15日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加

人に食あり 食に人あり

(9)ぬくもりの味 最後まで

写真:最終営業日の朝、雪に包まれた藤金旅館=2018年12月28日=いずれも福島市 拡大最終営業日の朝、雪に包まれた藤金旅館=2018年12月28日=いずれも福島市

写真:泊まった際に出た夕食。福島名物「いかにんじん」やマグロのお刺し身、ほっと温まるキムチ鍋…。ついついご飯が進んだ 拡大泊まった際に出た夕食。福島名物「いかにんじん」やマグロのお刺し身、ほっと温まるキムチ鍋…。ついついご飯が進んだ

写真:創業者が使っていたてんびん棒を持つ、4代目の遠藤民一さん 拡大創業者が使っていたてんびん棒を持つ、4代目の遠藤民一さん

 ●老舗旅館 150年の歴史に幕

 12月中旬の夕方、仕事を早めに切り上げ、福島市の県庁近くの旅館に向かった。外観は喜多方のまちの蔵を彷彿(ほう・ふつ)とさせる白壁に、昔ながらの瓦ぶき屋根。正面玄関には堂々とした文字の旅館の木札がかかる。周囲のコンビニエンスストアやコインランドリーと比べ、旅館の一画だけ、時間の流れが遅いと感じた。

 裏手の駐車場に車を止めようとすると、おかみの遠藤美代子さん(69)がいた。「よく来てくれたね。お風呂にするかい? それともすぐご飯を食べる?」。フロントには4代目で美代子さんの夫・民一さん(71)。あいさつを交わすと、2階の客室に案内してくれた。

 明治元年(1868年)創業の老舗旅館「藤金」。客室約20の旅館は初代遠藤金治さんが始めた。増改築を繰り返しながら、当時の建物も一部残る。

 表玄関脇には昭和初期に譲り受けたドイツ製の古時計が振り子を揺らし、階段には常客だった画家の竹久夢二の人を模した抽象画が掛かる。明治天皇の東北巡幸に随行した木戸孝允や元首相の田中義一の書も保管され、約200点は文化財として価値があり、市に預けた。

 民一さんが「特別だぞ」と言って通してくれた2階の一室。初代の金治さんが歩き商いをしていた時に使っていた、家宝のてんびん棒も見せてくれた。

 戦後は高校生の合宿所としても使われた。1951年、福島商業は初めて夏の高校野球県大会で優勝した。当時、泊まっていたのが藤金だ。旅館には丸刈りの球児と幼い民一さんが一緒にいる写真も残る。

 午後6時半ごろ、夕食が始まった。案内された1階の食堂にはテーブルが20ほど並んでいた。献立はいかにんじん、キムチ鍋、カキフライ、マグロの刺し身。調理は美代子さんの担当だ。おひつに入っていた白米はおわんで3杯分もあったが、食べきった。

 食後、「部屋で飲んで」と美代子さんは500ミリリットルの缶チューハイ1本をくれた。アルコール度数9%。風呂上がりに部屋で1人、缶をあけた。シュワシュワした泡が心地よく口の中を刺激する。

 美代子さんは食堂で「昔は食堂で客は酒を飲んでいたが、最近は部屋で飲む人が多い」と言っていた。何げない気づかいを感じた。

 パートを含めても10人に満たない家族経営の小さな旅館。美代子さんは民一さんと結婚し、1973年から働き、朝夕の食事を1人で担当してきた。「毎日、必死だった。だから正直、思い出って言われてもあまりないのよね」と振り返った。

 昨年12月28日の朝、福島市では11センチを超える雪が降り、市内は白色に染まった。藤金はなじみの客で満室だった。約30年間、出張の際にいつも泊まっている仙台市の会社社長森隆一さん(58)は「ビジネスホテルにはない『おかえり』と迎えてくれる温かさがあった」と話した。

 朝食をつくり終え、美代子さんは「ほっとした」と話した。民一さんは「お客さんに『これからどこに泊まればいいんですか』と言われて。ちょっと寂しいね」。

 そして、最後の客を見送り、老舗旅館は静かに150年の歴史を閉じた。跡地にはアパートが建つ。

     ◇     ◇

 ●人の温かさ 教えられた

 客室を出る時、民一さんと美代子さんの顔が浮かんだ。部屋は汚れていないか、布団や浴衣は散らかっていないか。普段は気にしないことが気になった。

 部屋を整え、迎え入れ、ご飯を作ってくれる。当たり前で忘れがちな人の温かさを教えてもらった。旅館の窓からは高層マンションが見えた。変わりゆく時代の中で、大事なものを残し続けてくれた藤金旅館。お疲れ様でした。(飯沼優仁)

PR情報

ここから広告です

PR注目情報

福島総局から

「福島アサヒ・コム」は朝日新聞福島版の記事から、最新のニュースや身近な話題をお伝えします。
福島総局へのメールはこちらへ

朝日新聞 福島総局 公式ツイッター

注目コンテンツ

  • 写真

    【&w】カカドゥの不思議な野鳥たち

    ノーザンテリトリー〈PR〉

  • 写真

    【&TRAVEL】遊び心満載の豪華客船

    船上でサーフィン?〈PR〉

  • 写真

    【&M】廃虚の朽ち果てていく美しさ

    「変わる廃墟展 2019」

  • 写真

    【&w】劇場鑑賞券を3組6名様に

    「&w」読者プレゼント

  • 写真

    好書好日旅するように異国料理を作る

    宮崎あおいさん初の料理本

  • 写真

    WEBRONZAカーシェア急拡大

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジンこれぞ手軽な手土産の大本命

    手土産に縁起のよい「虎家喜」

  • 写真

    T JAPAN未来を変えるコスメ 第2回

    全米で話題の「CBDオイル」

  • 写真

    GLOBE+注目は年齢差だけではない

    マクロン大統領夫人の実像

  • 写真

    sippo絶滅の危機に瀕するトラ

    生態は猫とほぼ同じ

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ