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人に食あり 食に人あり

(12)秋田の酒 餃子店の信念

写真:客と話す「丸福」店主の高橋敏盛さん=福島市陣場町 拡大客と話す「丸福」店主の高橋敏盛さん=福島市陣場町

 ●「自分の口に合う」貫き50年

 JR福島駅から歩いて約10分、円盤餃子が有名な福島市でオレンジ色の看板が目印の「福島餃子丸福」にぶらりと入った。1階は4人掛けのテーブルと、六つのカウンター席。客は秋田の地酒「高清水」を片手に、円状ではなく、一列に並んだ焼き餃子をほおばっていた。

 福島県の酒蔵は全国新酒鑑評会で金賞が6年連続日本一になり、官民挙げて酒どころをアピールする。福島の酒を好む客もいるが、丸福の酒は高清水だ。

 軽く酔いが回ってきた頃、「なんで福島なのに秋田の酒なんですか」と聞いてみた。店主の高橋敏盛さん(72)は何度も聞かれたであろう質問に人なつっこい笑顔を浮かべ答えた。

 「店がお酒を置くのに三つのパターンがあるんですよ。一つは頼まれてマージンをもらう場合。二つめは地元の酒。三つめは自分がこれだと思った酒を置く。私は3番目です」

 1961年、高橋さんは中学を卒業し、丸福で働き始めた。4人兄弟の次男坊。中1の頃、父が脳出血で亡くなった。飲食店で働けば食事に困らないだろうと思い、浪江町から来た。戦後間もなく、福島市中心部の福島稲荷神社の周辺にはバラックの闇市が生まれ、その一角に丸福はあった。満州から引き揚げた先代の東重春さんが切り盛りしていた。

 「先代は仕事に厳しいけど面倒見が良い人でねえ。『お前は仕事ができないのに飯ばっかり食うんだから大きな声でいらっしゃいだけは言えよ』って。いまもそれは変わらないなあ」

 まき割りから始まり、蒸し釜で米をたき、練炭で火をおこしてスープを作る。午前10時から午前1時まで働いた。18歳の時に先代が急逝し、それから店を守り続ける。

 高清水との出会いは20歳の頃だった。当時は添加物が入った合成清酒が主流で、1升380円ぐらいと安い。深酒すると頭が痛くなることもあったが、高清水は違った。「昔の酒ってのはもっと臭かったんだよね。おかんにするとぷーんときた。でも高清水はそんなことはなかった」。

 餃子は自力だけど、酒は他力―。他人の商品を売るからこそ、店では自分の口に合う酒を出した。

 半世紀以上がたち、福島市の街並みは大きく変わった。店の近くには路面電車のターミナルがあったが、1971年に廃止。人の流れが変わり、同年、福島駅近くに店を移した。

 1970年には国道13号信夫山トンネル、82年は東北新幹線が開通し、全国から工事関係者が福島市に集まった。丸福は餃子と酒を楽しむ労働者でにぎわい、先代の時は数十あったメニューも、自信があるものだけを提供したいと、餃子のほか、チャーシューサラダやホルモン焼きなど10ほどに絞った。

 バブル景気、平成不況、そして平成が終わろうとしている。変わりゆく時代の中、高橋さんは自分流を貫いてきた。その象徴が高清水だ。「思ったことをやって生き延びればどんなに辛くたって幸せ。仮にお客が減ってもね」

 丸福ののれんをくぐると、今夜も高橋さんが「いらっしゃい!」の大声が聞こえてくる。

     ◇     ◇

 「言うこと聞いて働く人生なんて不愉快だべ」。そう言い切れる人がどれだけいるだろうか。戦後間もない頃、短刀を持った男が店に来て、嫌がらせを受けたこともあったという。混乱期、頼る人がいない街を自力で生き抜いた高橋さんだから言える言葉だろう。

 店は信念を通しながら50年以上支持されてきた。ふっくらとした餃子には努力を惜しまない高橋さんの自負が感じられた。(小泉浩樹)

 ◆連載は終わりますが、今後も随時掲載します。

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