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海を越える

愛情ゆえに いじられる群馬

写真: 拡大

 主人公はチバからグンマに転校してきた男子高校生。「起立、注目、礼」の独自ルールを知らず、「トチギのスパイ」と疑われ、上毛かるたに答えられず「グンマ人」と認められない――。独特の視点で群馬の県民性や地元愛を描いた漫画「お前はまだグンマを知らない」(新潮社)の作者で、高崎市在住の漫画家・井田ヒロトさんに群馬の魅力や特徴、今年の目標について聞きました。

 ――群馬をテーマに漫画を描き始めたきっかけは

 自分が中学1年で転校してきた時の体験がベースになっています。号令で「注目」と言われ、何に注目するのか分からず、あわててしまったこともあります。そういう体験を漫画にしたいと思って、出版社に売り込んだのが始まりです。

 ――近年、インターネット上では群馬が「秘境」などといじられています

 ちょうど群馬の漫画を企画していた頃でした。2000年代は埼玉が「ださいたま」といじられていたんですが、ネットでは「埼玉=おもしろいもの」というノリで、愛情も感じていました。それが今度は群馬の番なんだと思いました。

 ――描写が独特です

 群馬を「いいところだよ」と伝えたいわけじゃない。でも、調べれば調べるほど「すごいところだ」と思える部分がある。それを伝えたいと思っています。第1巻の単行本が出た時はネット上で批判されることもありました。でも、ひとごとと思えない時点で、その人の心には群馬への何かが芽吹いているはず。個人的にはうれしいです。

 ――都道府県別の魅力度ランキングで、群馬は下位に低迷しています

 草津温泉や水上温泉、尾瀬が群馬にあることを知らない人もいます。これといった特定のイメージがないから、都道府県別で見ると魅力度が下がってしまうんじゃないですかね。

 ――群馬は陸に囲まれていて、海がありません

 日本って、ほとんどの都道府県が海に接しているじゃないですか。だから、海がないと「俺たちには海がない」と、心のしこりになって、逆に海を求めるんじゃないかと思うんです。例えば、童謡「うみ」を作詞した林柳波と作曲した井上武士は2人とも群馬出身で、前橋市はマグロの消費量が全国の都道府県庁所在地と政令指定市の中でも上位です。海へのあこがれが強いと思うんですよね。

 ――海外で活躍する群馬人に共通点はありますか

 群馬人が海を越えるのは主に明治以降ですが、「世界をまたにかける」というよりも、「郷土を売り込む」という感じがします。日本で初めて生糸の直輸出を実現した新井領一郎や、米国から帰国後、キリスト教を伝えた新島襄ら、郷土を背負って旅立ち、何かを持ち帰ってきた人が多い。それが現在の群馬の土台になっていると思います。

 ――どんな部分が国際的な強みになるでしょうか

 群馬は街道や鉄道沿いに発展してきたから、よその人と関わることにあまり抵抗がなく、屈託なく溶け込める県民性があります。気候的にも群馬の夏の暑さ、冬の寒さに耐えられれば、世界中どこでも大丈夫な気もします。

 ――井田さん自身がそう感じた場面はありますか

 昨年9月に大泉町のカルナバル(カーニバル)に行ったのですが、ブラジル文化が違和感なく地元に溶け込んでいる印象を受けました。スーパーに入ると、店員の方が外国人にはポルトガル語、自分には日本語で対応してくれて多文化共生を感じました。

 ――群馬人が海を越える意味は何でしょうか

 本人が意識していなくても、外で何か大きなことを成し遂げると、絶対に地元に何かしらの影響を与えていると思うんです。若い人に何かを生み出して、それが未来への芽になる。そんな気がしています。

 ――群馬について知ってほしいことはありますか

 おじいちゃんやおばあちゃんのことでもいいので、自分につながる群馬を知ってほしい。自分は根無し草ではなく、受け継いでいるものがあると思えれば、何かに挑戦する時の励みになると思います。「群馬は何もないよ」と謙遜する人もいますが、それは「知らない」だけ。とにかくすごい群馬を知ってほしいです。

 ――今年の目標を

 お金を稼ぎたい……。ではなくて、締め切りを守る、ですかね。単行本が出る前後は、おまけページや書店用のイラストを描くので忙しいです。次に出るのは半年後なので最近は落ちついています。 (聞き手・藤田太郎)

     *

 いだ・ひろと 2002年に「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)の月例マンガ賞で奨励賞を受けてデビュー。「ドラゴンリバイブ」で初連載を飾る。08年、伊坂幸太郎原作の「グラスホッパー」(角川文庫)をコミック化した。13年から「お前はまだグンマを知らない」を漫画サイト「くらげバンチ」(新潮社)で連載中。単行本は15年11月に第5巻を発行、これまでの累計は約46万部(11月末)を数える。高校時代のアルバイト先はコンビニ「セーブオン」。好きな上毛かるたの句は「日本で最初の富岡製糸」。

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