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記者報告

「全戸にスマホ」事業賛否

写真:モデル地区で初めて開かれたスマートフォン体験教室。大勢のお年寄りらでにぎわった=下仁田町青倉 拡大モデル地区で初めて開かれたスマートフォン体験教室。大勢のお年寄りらでにぎわった=下仁田町青倉

写真:金井康行町長 拡大金井康行町長

 下仁田町はTSUTAYAなどを展開する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」の関連企業と、スマートフォン(スマホ)をお年寄りらに無償で貸し出し、防災や健康管理などに役立ててもらう実証事業を来月にも始める。全国に先駆けたモデル事業だが、「携帯電話で十分」「企業の営利活動を町が後押しするのか」などの反対意見も多く、本格実施には曲折も予想される。

 「画面を触ったまま、すーっと横へ動かしてください。画面が動きまーす」

 実証事業のモデル地区に決まった同町青倉地区で15日、地元のお年寄りらを対象にしたスマホの体験教室が開かれた。

 事業では、独り暮らしのお年寄り81人や高齢者同士の夫婦世帯76世帯などに約2カ月間、スマホを貸与し、情報伝達手段としての効果などを検証する。

 体験教室は、まずはスマホに親しんでもらおうと町などが計画した。予想の倍以上の96人の申し込みがあり、1日1回の予定を2回に増やした。スマホを提供する「ふるさとスマホ」(東京)の担当者らから電話やインターネットの使い方などを学んだ。

 初回の参加者約45人のうち、携帯電話を持っている人は半数程度、スマホを持っていると答えたのは女性1人だけ。参加者の男性(83)は携帯電話もないが「家から離れていても電話が使えるし、便利になりそう」と期待する。携帯電話を持っているという女性(80)は「子どもに『スマホはお金がかかる』と反対された。自治体の財政難が問題になる中で、そんなに多くの住民に配ることができるのかしら」と不安を漏らした。

 2日目の23日は計48人が参加し、町の担当者は「お年寄りがスマホを使ってくれないと、実証事業にならない。興味をもってくれるお年寄りが予想以上に多くて良かった」と話す。

 事業は昨年11月、同町など全国約60の自治体で設立した「自治体スマホ連絡協議会」(事務局・富山県南砺市)を通じて、町とCCCの関連企業の「ふるさとスマホ」「Tポイント・ジャパン」の3者が協定を結び、検討を進めてきた。協議会はスマホを使って地域の課題解決をめざすのが目的で、下仁田町が協議会の70市区町村に先駆けて実証事業を始め、結果を協議会に情報提供することになっている。費用は企業側が全額負担する。

 人口8千人余りの同町は高齢化率が40%を超え、山間部の集落も多い。青倉地区は町中心部から数キロ離れ、山あいを通る県道沿いに集落が点在する。2014年2月の豪雪では県道が通行できず、住民が一時孤立したという。町はスマホが屋外の防災行政無線に代わる情報端末になることに期待する。

 実証事業は青倉地区のお年寄り、町内の民生委員、町議らに計285台を無償で貸与し、町広報や気象情報などをメールで知らせたり、スマホから町役場に「大丈夫です」「今すぐ助けて」などのメッセージを送信してもらう訓練などをしたりする。

 期間終了後にスマホをきちんと使えたか、操作で難しかった点は何かなどをアンケートで調べ、町が本格実施に踏み切るかどうかを決める。しかし、アプリの開発が遅れ、今月下旬としていた開始予定も約1カ月遅れる見通しという。

 ただ、町が進める計画を疑問視する声も多い。

 町は、スマホを防災以外にも、歩数などを記録してTポイントに換算し、町内の店舗などで使ってもらうことで、健康づくりや商店街の活性化にもつながると説明する。だが、町商業協同組合は加盟約40店で使える独自のポイントカード(スクラムカード)が事業の柱だ。商店主の男性は「負担金が大きいTポイントに加入できるのは地域の有力店だけ。常連客をとられる恐れもあり、地元商店には死活問題だ」と漏らす。

 青倉地区での体験教室に参加した岩崎正春町議(66)は「人口減や自治体の財政難が進む中、新しいツールをどう生かすかが問われている」とスマホ活用には賛成の立場だが、「町の予算で本格的に実施するなら業者は入札などで選ぶべきだ。通信料によっては、町民にもある程度の自己負担を求めることになるだろう」と話す。町議会で予算決算委員長を務める佐藤博町議(65)は「防災、福祉という行政の責務を営利目的の企業に任せていいのか。メール配信は携帯電話でもできる。入札もせずに協定を結び、町がCCC関連企業の広告塔になっている」と厳しく指摘する。

 実証事業の結果を経て、町は来年度には企業からスマホを買い上げて全世帯に1台ずつ無償で貸与し、端末代(約2万円)や通信費(月1千円)などは負担する考えだ。

 しかし、もともと携帯電話が通じない地域への対応はどうするのか。スマホにはどんな機能を持たせるのか。全戸に貸与して運用するには、どれほどの予算規模が必要なのか――など検討すべき課題はまだ多い。(金井信義)

 災害時の自助・協力めざす 金井康行町長に聞く

 本格実施するかについては賛否の声がある。今後の方向性などについて金井康行町長に聞いた。

 ――実証事業の目的は

 山林の多い下仁田町は、集中豪雨や大雪などで災害が起きる可能性が高い。そうした災害時に、最小限自分で身を守る、協力し合える地域を目指したい。スマホを生活の一部にしてもらえれば、様々な事態に対応できる。まずは新しいことに取り組む気持ちをもってほしい。

 ――業者選定に問題はないか

 事業は「自治体スマホ連絡協議会」の取り組みの一部。協議会は自治体が主体だが、そこに「ふるさとスマホ」などが参加していた。町が主導して決めたのではない。全町で実施する場合にこの町に見合った金額(事業費)になるのか、業者との協議が必要になる。どれくらいの費用が妥当かも、実証事業をしてみないと何ともいえない。

 ――協定締結の時点では、Tポイントの活用も強調していた

 現行のTポイントでは、町内で利用できる店舗は限られる。歩数計などで自分で健康管理ができてポイントにもなるなど、スクラムカードに足りないところを補える独自のシステムができるのではないか。町商工会や事業者と相談していきたい。

 ――今後の見通しは

 町内の地域で状況が違うので実証事業をもとに必要な機能を見直すなどしたうえで、2016年度中には全戸に貸与したい。防災や防犯、病院との連携などスマホの様々な機能を考えれば、今後は必要不可欠なものになっていく。住民が必要性を感じ、協力してくれる形にしていきたい。

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