メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

08月22日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

記者報告

尾瀬国立公園 独立10年

写真:横山隆一氏=東京都中央区の日本自然保護協会 拡大横山隆一氏=東京都中央区の日本自然保護協会

写真:岩浅有記氏=さいたま市の関東地方環境事務所 拡大岩浅有記氏=さいたま市の関東地方環境事務所

 群馬、福島、新潟3県などにまたがる尾瀬が、日光から分離し、独立した国立公園になって10年になる。20年前は60万人を超えていた入山者数も、今では半分。ニホンジカによる食害や温暖化に伴う環境変化にもさらされている。尾瀬をこれからどうしていくのか。日本自然保護協会の専門家と環境省に聞いた。(聞き手・井上実于)

 ■尾瀬国立公園の独立 1934年に日光地域などとともに国立公園に指定されたが、2007年8月30日に分離独立。その際に会津駒ケ岳周辺なども新たに編入された。

 ■尾瀬国立公園協議会 分離独立の際、尾瀬地域の保護と利用の基本方針や課題をまとめた「尾瀬ビジョン」の進行管理と実現を目指すため発足。環境省や関係自治体、東京電力など土地所有者、自然保護団体、山小屋組合など官民による「参加型管理運営体制」を掲げた。

 ■至仏山の登山道付け替え問題 植生の荒廃や裸地化が進む至仏山の自然を守るため詳細な調査が実施され、3区間で金属を使った新工法などによる登山ルート付け替えが妥当とする報告書が15年3月に出された。

 ■三陸復興国立公園 1955年に指定された陸中海岸国立公園を、東日本大震災からの復興に貢献しようと、2013年に範囲の拡大とともに名称変更した。復興エコツーリズムや自然環境のモニタリングなど、具体的なプロジェクトがビジョンに盛り込まれている。

 ■尾瀬沼 日本海側に流れる尾瀬沼の水を沼の出口でせき止めて水位を上げ、発電用に導水路から利根川水系に流すルートが1949年に造られた。湖畔の白い砂浜の消失や植物の枯死などの影響が出たと言われる。

□変化に管理追いつかず

 ――独立した国立公園になって何か変わりましたか

 「昔からの登山者にとって、尾瀬は今もサンクチュアリ(聖域)だが、自然の変化は大きい。全体がゆっくり、確実に変わる状況に管理がついていけず、停滞した10年だったと思います」

 ――「停滞」の例は

 「至仏山の登山道付け替え問題。迂回(う・かい)ルートまで決まったのに、だれがやるかを決めることができず、ストップしたままです」

 ――「尾瀬ビジョン」で先駆的な管理をめざしたのではなかったのか

 「国民と行政機関による協働管理ときれいな言葉で書いたが、三陸復興国立公園のようなビジョンに注目が移ってしまった。尾瀬は願望や最終目標の羅列だけで、どう実現するかなどが書かれていない。現実的にできることと、評価手法を備えた目標管理型のメニューにして、できないことは『あきらめる』『わからない』と理由をはっきり言った方がいい。いわばマニフェストです」

 ――あきらめるとは

 「至仏山で言えば、東面道の多くは泥炭層が流失して基盤岩が露出し、緑化はできても復元は無理。『花の山の復元』などとごまかすのはやめて、『緑化はするが、元通りに戻せなくしてしまったこの場所から学ぼう』と言う。そうした教育効果の方が大事です」

 ――協働管理方式が責任の所在をあいまいにしたのではないですか

 「国立公園指定の責任は国にあるが、管理運営は安上がりに済ませたいので、地元や業者にやってほしいというのが今の制度と国の考えの基本。しかも予算配分段階でも尾瀬は小笠原などに押されてしまう」

 ――押されるのはなぜ

 「放置しても見かけ上は大丈夫な国立公園だから。シカ対策は基本は自治体の仕事で、国はルーティン管理費だけで回せる。外来種に侵されている小笠原のように国が結果まで責任を持つべき課題はなく、『みんなの尾瀬をみんなで守ろう』とある種、のんきな標語でやり過ごせてしまう」

 ――鳩待峠からの入山者の分散も大きな課題です

 「会津側に範囲を広げたのに、鳩待峠から尾瀬ケ原をちょっとだけ見て日帰りする人の割合がますます増えた。大清水から先への営業車乗り入れも認めたが、群馬側から尾瀬沼に行く動機付けもない。発電を理由に沼の水位を人工的に上げた段階で、原生の自然性を欠いた『ため池』のようになった。まずは東京電力の水利権をなくしてほしい」

 ――第4次の総合学術調査が進んでいます

 「寒冷気候の時にできた自然は、温暖化で最も早くダメージを受ける環境の一つです。たとえば空中写真で尾瀬の生物群集としての変化を読み取り、外来種の広がりや池溏(ち・とう)の変化など原生度の健康診断が必要です。大昔の調査のように生物のリスト作りをやっている時じゃありません」

□協働管理の枠組み機能

 ――独立した国立公園になって10年の評価は

 「日光は東照宮などを中心に文化・歴史のイメージが強い。尾瀬は原生的な自然と自然保護の歴史があります。分離独立してそのコンセプトが明確になり、(国民と行政による)協働管理の枠組みもできた」

 ――協働管理はうまく機能してきましたか

 「総論としてはうまくきていると思う。戦後の開発の時代の中で保護が叫ばれたが、今は開発も落ち着き、新しい時代の尾瀬の役割が求められています」

 ――新時代の役割とは

 「尾瀬は、開発と保護の対立以前は地域の人が山菜採りや木工など自然の恵みをいかして生活してきました。現状凍結のため立ち入り制限された南硫黄島とは違い、尾瀬はもともと保護と利用。地域の人たち自身が協働の枠組みの国立公園協議会で選択肢を議論していけばいいと思います」

 ――地元には国がもっと指導力をとの声があります

 「協働型は様々な意見が出て時間はかかるけど、地域が納得のうえで答えを探る仕組み。みんなで携わるからこそみんなで守り、広く発信もできる。国の押しつけはよくありません」

 ――至仏山の登山道付け替えが進まないのも、国がリードしないためだとの意見もあります

 「国に無尽蔵に予算があるわけではありません。クラウドファンディングなど外部資金を使うやり方もあり、そこは協議会の枠組みで仕掛けや仕組み作りを進めるテーマだと思います」

 ――尾瀬にかける国の予算は減っていますか

 「関東地方環境事務所では尾瀬を相当に重視しています。尾瀬と小笠原で全体の約3分の2。来年度予算では尾瀬に最も予算をつぎ込む方針で、意気込みは分かっていただけると思う」

 ――「尾瀬ビジョン」は願望の羅列で具体的な実行手順がないという批判も

 「そこは今の尾瀬ビジョンの弱いところ。目標から逆算し、どう進めるかを具体的な数字を盛り込みながら役割分担していかないと進みません。小委員会や協議会で、拙速でなく丁寧に議論していきたい」

 ――対策協議会のシカ管理方針にある「排除」という最終目標は無理では

 「そもそも論を含めて議論しなければと思う。アドバイザー会議で新しく打ち出したのは、捕獲は引き続き頑張るが、『優先して守るべきエリアはどこか』という考え方です」

 ――今でも入山者が多すぎるという見方もあります。外国人旅行者は増やす方針ですか

 「保護と利用のバランスの問題。人を増やせ、ありきではない。ただ、自然を守るにはお金もかかるので、1人当たりの単価を上げていく考え方が大事だ。魅力ある自然体験プログラムを提供して、もう少し泊まってみようと思わせるとか、ソフトで勝負できる部分はあると思う」

PR情報

ここから広告です

前橋総局から

群馬アサヒ・コムは県内の主なニュース、連載記事、イベントなど、身近な話題を提供します。メールでのご意見、ご感想をお待ちしております。
メールはこちらから

朝日新聞 前橋総局 公式ツイッター

関連サイト

別ウインドウで開きます

注目コンテンツ