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記者報告

傷つく「花の山」どうする

写真:小至仏山南面の裸地が広がる登山道=2016年7月 拡大小至仏山南面の裸地が広がる登山道=2016年7月

写真:エキスパンドメタルの登山道の床とスクリュー杭を前にした松田益義社長=東京都世田谷区のMTS雪氷研究所 拡大エキスパンドメタルの登山道の床とスクリュー杭を前にした松田益義社長=東京都世田谷区のMTS雪氷研究所

写真:ミズバショウが咲く尾瀬ケ原から望む残雪の至仏山=2013年5月 拡大ミズバショウが咲く尾瀬ケ原から望む残雪の至仏山=2013年5月

 尾瀬国立公園の西端に優美に横たわる至仏山(標高2228メートル)。オゼソウなど貴重な植物で人気の「花の山」だが、その山肌は登山者の足で傷つき、肝心の植物の生存を脅かしている。どう保全するのか、環境省や尾瀬保護財団などが頭を悩ましてきた中で、対応策として浮上した新工法も費用負担などの課題を抱えたままだ。至仏山生き残り対策の現状を報告する。

■対策の木道整備 雪で傾く

 至仏山はマグネシウムなどの有毒な重金属を含む蛇紋岩という岩で覆われている。オゼソウやホソバヒナウスユキソウなど、そうした環境に適応した特別な植物が育ち、それを見ようと10年前までは年間2万〜3万人が訪れていた。

 だが、遅くまで雪田が残る湿性草原の軟らかい泥炭質土壌は登山者が歩くとくぼみ、そこに雪解け水や雨水が集まって土を押し流してしまっていた。

 これを防ごうと、県と至仏山東面の土地所有者である東京電力(当時)は1989年に登山道を閉鎖し、2億円ずつ投入して木道を整備したが、うまくいかなかった。冬に十数メートルもの雪が積もる至仏山では、雪の重みや雪が斜面をずり落ちる力で木道を支える木杭や木道が傾いてしまい、登山者が木道脇の土の上を歩くようになるからだ。

 修理を繰り返すと荒廃が拡大し、やせた土壌がはぎ取られて岩盤がむき出しになり、植生の回復は望めなくなる。

 春先の雪の重さは1立方メートルで約500キロ。至仏山東面の平均傾斜27度の斜面で実測したところ、ひと冬の間に積雪が地表を12・5センチずり落ちていたという。

■「新工法」を提案

 今年3月9日、環境省や日本自然保護協会、尾瀬保護財団など、尾瀬の関係者らが第12回至仏山保全対策会議を県庁で開いた。「積雪が多い場所の木道に対しては、人が歩くことより雪の影響の方が大きい」と資料を示しながら話したのは東京・世田谷にある「MTS雪氷研究所」の松田益義社長(70)だ。

 保全対策の関係者らは2002年以降、従来型の木道整備では効果が出ないとし、07年には登山道の付け替え(地図の(1)〜(3)の3カ所)などを含む至仏山保全基本計画をまとめた。その具体化のため協力を求めたのが同社。松田社長が32年前に始めた雪氷や気象問題のコンサルタント会社だ。

 同社が提案したのは、金属板に切れ目を入れ網目状に押し広げたエキスパンドメタルや、鋼材を格子状に組んだグレーチングを床に使い、杭には土壌構造を破損する木杭の打ち込みに代えてねじ込み型の金属製スクリュー杭を用いる工法だった。床が格子や網目状なら日光や雨水も通り抜けられ、杭もねじ込み式だと土壌への負荷が著しく減る。特許も申請済みという。

 9日の会議では、この工法を使った(1)緩やかな傾斜向けの低床階段道(2)ハイマツなどの上を渡る高床道(3)斜面を横切るトラバース床道の3方式が示された。

 ユニークなのは、これらの方式に含まれる「ずれ動く登山道」の考え方だ。岩盤にボルト、土中にスクリュー杭をねじ込み、床とつなぐワイヤの途中に金属のバネを取り付ける。積雪が斜面をずり落ちると床も一緒にずれてバネが伸び、雪が解けるとバネが縮んで床が元の位置に戻る構造だ。

 冬の間、世界でも有数の強風と豪雪にさらされる日本の山岳地帯。松田社長は「登山道の位置と構造を決める際、雪への考慮が不十分だったことがうまくいかなかった原因と思われる」と話す。日本自然保護協会の横山隆一参事も「雪に逆らうのではなく、『うけ流す』という逆の発想など、説明の限りでは合理的方法と思う」と関心を示す。

 オーストラリア最高峰のコジオスコ山には植生破壊を防ぐための金属網目の長い登山道がある。至仏山での「新工法」登山道は、同様の課題に直面する国内の他の登山道のパイオニアになる可能性もある。

■費用負担が壁に

 15年には同社の新工法の考え方を反映し、新登山道の設計思想として(1)植生を伐採しない(地表をいじらない)(2)杭を打たない(土壌構造を破壊しない)(3)登山道を地表から浮かせて日照と雨水が床を通り抜けるようにする(地表の植生を保護、回復させる)を挙げた報告書もまとまった。

 ところが報告書が出てから2年、動きは止まったままだ。委員の一人は「費用をだれが負担するかで行き詰まっているため」と説明する。環境省などは、登山道の整備は基本的に地主である東電の役目と考えていたが、東電側は「既存の登山道の修復はするが、新しいルート造りは別の枠組みで」との意見だった。

 また、新工法に対しても「理屈は分かるが実例がなく、本当に機能するか、至仏の雪に耐えられるのか」という声もある。

 9日の会議で、尾瀬保護財団は「迂回(う・かい)ルートの想定場所に評価期間も含め5〜6年、試作品を置いてみては」と提案し、加藤峰夫委員長(横浜国大教授)は「3回冬を越し、データ整理して4〜5年」とまとめた。道のりはまだ遠い。(井上実于)

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