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08月19日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

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記者報告

尾瀬の歩荷 山小屋下支え

写真:こまめに休むのがポイント。歩荷の萩原さんは、日本百名山の至仏山が目の前に広がるポイントで荷物を背負ったまま腰を落として休憩した 拡大こまめに休むのがポイント。歩荷の萩原さんは、日本百名山の至仏山が目の前に広がるポイントで荷物を背負ったまま腰を落として休憩した

写真:たくさんの荷物を背負って歩く歩荷の萩原雅人さん=いずれも尾瀬 拡大たくさんの荷物を背負って歩く歩荷の萩原雅人さん=いずれも尾瀬

写真:萩原雅人さんの背負梯子。肩ひもはオリジナル。100円ショップで買ったバスマットでつくった。背中に当たる部分は、ビニールひもが巻いてある 拡大萩原雅人さんの背負梯子。肩ひもはオリジナル。100円ショップで買ったバスマットでつくった。背中に当たる部分は、ビニールひもが巻いてある

 はるかな尾瀬。広大な高層湿原やミズバショウとともに「尾瀬ならでは」と言えるのが、たくさんの荷物を背負って運ぶ「歩荷(ぼっか)」と呼ばれる人たちだ。

■荷の重さ100キロ

 「重いし、肩が痛くなるので、自分のペースで焦らずに歩きます」

 歩荷の萩原雅人さん(25)は両腕を前に組み、荷物を積む仕事道具「背負梯子(しょいばしご)」を背中に密着させて進む。身長168センチ、体重63キロの萩原さんが大きな荷物で、小さく見える。

 背負う段ボールやカゴは15個ほどで、積み上げた高さは約2メートル。中身はレタスやトマトといった生鮮食品や缶ビールで計100キロにもなる。

 歩く時は転ばないこと、無理をしないことが大事だという。心を無にして集中し、5〜10分歩くと、肩がしびれる前にベンチや木道に座って一休みする。

 8月末のこの日はいつも通り、尾瀬の玄関口・鳩待峠まで車で荷物を運び、午前7時から歩き始めた。道のりは尾瀬ケ原の入り口にある山ノ鼻の至仏山荘までの約3・3キロ。石が敷かれた道や木道の下り道は前日の雨で滑りやすいが、スタスタと進んでいく。聞けば、踏む石はいつも同じだという。

 ハイカーに会うと、注目の的だ。「すごい!」「歩荷さんに会えた!」。標高約1500メートルのブナやミズナラの森に歓声がわく。「女の子に声をかけられると元気が出ます。尾瀬は年配の人が多いけど」と軽口も飛び出す。

 至仏山が目の前に広がる休憩ポイントではボーッと風景に見入った。スノーボードが好きで積雪期にはガイドもする萩原さん。どう滑ろうかと想像を膨らませる。「夏の地形を確認できて、トレーニングもできる。尾瀬で働く特権です」

 尾瀬の歩荷はいま、最年少の萩原さんから51歳のベテランまで男性6人。萩原さんは今年4年目で、唯一の地元・群馬県片品村の出身者でもある。

 といっても、学業を終えてすぐ歩荷になったわけではない。きっかけは、実はサーフィンだった。

 山に囲まれた片品村に育った萩原さんは海と都会にあこがれ、高校を卒業すると村を飛び出した。

 都内の大学に通う中でサーフィンを知り、夢中に。大学を1年で中退すると、千葉県の南房総に移ってサーフィン漬けの日々を送り、ハワイやドミニカの波にも乗ってきた。

 そこで出会ったのが、目を輝かせて地元愛を語る国内外のサーファーたちだった。「格好いい」と思う一方で、片品や尾瀬の良さを伝えられない自分に気づいた。尾瀬を見直してみようと、尾瀬を歩き回る歩荷になった。

 1年目は大変だった。とにかく重い。75キロ以上の荷物となると緊張し、先輩に少し持ってもらったことも。バランスを崩して荷物もろとも転倒し、卵を割る失敗もあった。「けがは?」と真っ先に心配してくれる山小屋のおかみさんのやさしさに触れた。翌日、自費で卵を買って届けた。

■「無理」は禁物

 応援してくれるのが同居する祖父の理平さん(86)だ。約25年にわたり歩荷を務めた大先輩でもある。

 90キロの荷物を持てた、と自慢げに話した時は理平さんに「無理するな」と言われた。「自分がつぶれないように考えてから背負え」という言葉を大切にする。

 歩荷は4月下旬〜10月末のシーズンに週6日働く。点在する10カ所の山小屋に届けるが、遠い小屋だと鳩待峠から12キロにもなる。生鮮食品を預かるから、多少の雨や風でも届けに行く。きょう頑張れても、あした無理だったら意味がない。萩原さんが「チーム」と表現する仲間の歩荷にも迷惑がかかる。だから無理は禁物だ。

 最近は午後9時に寝て、翌日午前3時すぎに起床する。2時間ほど大根の収穫作業のアルバイトをしてから歩荷の仕事に向かう。

 コツもつかんできた。荷造りで重心を間違えると、肩や腰が痛くなること、同じ重量でも缶ビールは重く、野菜は軽く感じることを体で覚えた。

 萩原さんは今、120キロの荷物も背負えるようになった。「疲れた顔を見せないから、たいしたものだ」と理平さんも感心する。

■「大切な存在」

 この日、目的地の至仏山荘まで一般の人と同じ約1時間で着いた。背負梯子を降ろすと「ホッとした」。

 歩荷の収入は重量と距離による歩合制で、この日は1万円弱。これに収穫のアルバイトやガイドの収入を加えて生計を立てている。

 荷物を受け取った至仏山荘の支配人栗栖潤さん(33)は「お客様の要望に応じて欲しいものをすぐに持ってきてくれるし、尾瀬の四季や他の山小屋、ふもとの情報も教えてくれる大切な存在です」と話す。

 尾瀬では月2回ヘリコプターが飛び、燃料や布団、米やみそなど日持ちする食糧を山小屋に運ぶが、それ以外は歩荷が頼りだ。

 最近、木の実を探すクマとよく会うようになった。「何もしなければ何もされない」と知らんぷりして通り過ぎる。尾瀬の中で最も遅く姿を見せるオヤマリンドウも咲き始めた。背負う荷物も減ってきて、秋を実感している。

 尾瀬を歩きながら、うつろう四季を感じている。

 正午までに荷物を届けると、山小屋は特別な昼食でもてなしてくれる。キノコの煮物やとち餅といった伝統料理、焼き魚、トンカツが並ぶこともある。

 歩荷は大変だけど、楽しいという。 「毎日表情が違う尾瀬は過ごしていて飽きない。それに尾瀬の人たちが家族のように接してくれる」(張春穎)

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