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ちゅうごく経済

「産業遺産」、今も身近

写真:白い煙を上げて回る焼玉発動機=島根県雲南市 拡大白い煙を上げて回る焼玉発動機=島根県雲南市

写真:B級品の硫酸瓶を利用した「瓶垣」は、かつてこの一帯に製陶所が立ち並んでいた証しだ=山口県山陽小野田市 拡大B級品の硫酸瓶を利用した「瓶垣」は、かつてこの一帯に製陶所が立ち並んでいた証しだ=山口県山陽小野田市

「産業遺産」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。海に浮かぶ要塞(ようさい)のような軍艦島(端島炭鉱、長崎市)? それとも圧巻のメガプラント、官営八幡製鉄所(北九州市)? だが、日本の近代化に貢献したのは巨大建造物ばかりではない。旧家の納屋の奥で眠っているような、身近で、現在も人々に愛されている産業遺産たちを、各地に訪ねた。

 ■焼玉発動機、ポン響く 松江、雲南 

 全国の神々が島根県出雲地方に集まるとされる旧暦10月。いわゆる「神在月」にあたる新暦11月下旬の土曜日、同県雲南市の山村に「ポン、ポン、ポン」と、けたたましい音が響いた。

 「神仏の通ひ路(みち)」とされる県道沿いに、「島根の焼玉」と染め抜いた旗がはためく。島根発動機愛好会のメンバーが、1930年代に製造された農業用汎用(はんよう)エンジン「サトー式焼玉発動機」の運転を実演した。白い煙を勢いよく上げながら、発動機は力強く回り続けた。

 燃料は軽油や灯油など。自動車のガソリンエンジンなどで使われる電気式の点火プラグの代わりに、鋳鉄製の「焼玉」を木炭で加熱するという独特の構造だ。

 開発者の佐藤忠次郎(1887〜1944)は現在の松江市の出身。発動機愛好会のメンバー、佐藤正範さん(55)によると、貧しい農家から身を起こした忠次郎は、自ら考案した足踏み式の「稲麦こぎ機」が農作業の省力化に貢献しつつも、足踏みにかなりの力が要り、重労働に変わりはないと心を痛めた。それが発動機開発の動機になったのだという。

 当時は電気式の点火装置は米国からの輸入品が一般的で、それを搭載した汎用エンジンは高価だった。忠次郎は試行錯誤の末、日本古来の燃料である木炭の活用にたどり着く。焼玉発動機は低価格で好評を博し、あっという間に全国に普及したという。

 長時間運転するには、木炭を継ぎ足す必要がある究極のローテク。「出力の制御がうまくいかず、手綱を離れた馬のように暴走することもしばしば。そんな“人間くささ”も魅力ですかね」と佐藤さん。

 忠次郎が創業した農業用機械メーカー・佐藤商会は1970年代の倒産・再建を経て三菱農機となり、2015年からはインド資本が入って「三菱マヒンドラ農機」に。そうした変遷を経た現在も、初期の焼玉発動機が、忠次郎の居宅を活用した記念館(松江市)で大切に保管されている。2008年度に経済産業省の近代化産業遺産に認定された。

 ■道路脇に「硫酸瓶」 山口・山陽小野田

 「小野田皿山」の名で知られ、かつて有数の陶器産地だった山口県山陽小野田市。往時の繁栄を今に伝える象徴が「硫酸瓶」だ。本来の用途を失って久しいが、横倒しにして積み上げた「瓶垣」が残り、道路脇に並べてオブジェにするなど、今なお地域の人たちに愛されている。

 その魅力は、温かみのある赤茶色の光沢と、実用に徹した機能美。日産化学工業(旧・日本舎密〈せいみ〉製造)小野田工場で生産される硫酸の容器として、最盛期の1951年には年間約120万個が製造された。斜面を活用した「登り窯」は30基を数え、約千人が働いていたという。

 そんな栄華もつかの間。タンクローリーによる大量輸送やポリエチレン製容器に取って代わられる。硫酸瓶と、よく似た焼酎瓶が主製品だった製陶所は、60年代に次々と廃業。現在では1社が残るだけだ。

 山口大学の田畑直彦助教(考古学)は「小野田と並ぶ硫酸瓶の2大産地だった愛知県常滑市と比べると、現状はちょっとさびしい」と話す。常滑では登り窯跡を中に人が入れるように整備。瓶垣などを巡る「やきもの散歩道」は、中部国際空港のある常滑市きっての定番観光地だ。

 かつて小野田でも「皿山の里」構想があったが、市町合併や財政難のため、未完成のまま中断してしまった。地元では、製陶所跡などに今なお残る硫酸瓶を適正価格で販売し、代金を積み立てて遺構整備の財源に充てる案もある。市の財政難の中、観光地化に向けた模索が続く。(大野博)

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