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平和・ヒロシマ【聞きたかったこと〜被爆から73年〜】

親が残した店の帳面

写真:赤松偕三さんは今でも夜の短時間だけ店番をする。「出んでもいいんですけど、何でか出てしまうんです」=広島市中区 拡大赤松偕三さんは今でも夜の短時間だけ店番をする。「出んでもいいんですけど、何でか出てしまうんです」=広島市中区

写真:長兄(後列左から3人目)が戦地へ赴く前に撮った家族写真。赤松偕三さん(後列左端)は父(後列左から2人目)と並んで立っている=1943年ごろ、本人提供 拡大長兄(後列左から3人目)が戦地へ赴く前に撮った家族写真。赤松偕三さん(後列左端)は父(後列左から2人目)と並んで立っている=1943年ごろ、本人提供

 ◇広島市中区 赤松偕三さん(90)

 観光客や買い物客らでにぎわう広島本通商店街(広島市中区)に、400年続く薬局がある。原爆で店も店主の命も奪われたが、街とともに、がれきの中から復興を遂げた。戦後、長く店を切り盛りしてきた赤松偕三(かいそう)さん(90)は当時薬学生。「街は全滅」の知らせを受け、進学先の岐阜から広島に戻り入市被爆した。自らの歩みと街の復興。重なる思いを聞いた。

    ■    □    ■

 赤松薬局は江戸初期の1615年に創業。赤松さんの祖先は、現在の岡山市北区から広島へやってきた。

 そんな老舗に5人きょうだいの末っ子として生まれた赤松さんは、1945年当時17歳。春に修道中学(現・修道高校)を卒業し、呉海軍工廠(こうしょう)へ動員されていたが、7月の呉への空襲で動員を解かれた。かねての希望がかない、岐阜薬学専門学校(現・岐阜薬科大学)へ入学した。

 しかし、8月8日、学校前の本屋で見た新聞の見出しに目を疑った。「広島に新型爆弾が落ちて全滅?」。その晩の夜行列車に飛び乗った。

 翌9日の午前11時ごろ。列車は広島駅まで近づけず、海田市駅で降車。広島駅近くの大正橋(現・南区)まで歩いたところでようやく街の様子を見ることができた。そこには何もなかった。川面に5、6人の遺体が浮いていた。

 広島電鉄の線路に沿ってさらに歩き、がれきが散乱する店の跡地を見つけることができた。知人宅から数日間通い、瓦の下から2人分の白骨を見つけた。一人の骨には溶けた薬瓶の破片が、もう一人には見覚えのある帯留めが付着していた。変わり果てた父と母の姿だった。「むごいことをする……」。悲しみと、米軍への怒りがこみ上げた。何よりも心を覆ったのはこれからどう生きていけばいいのかという不安だった。

 その時、ふと父の言葉を思い出した。「もしものことがあったらここを掘れ」。庭にある土蔵前の地中から、当時の初任給の百倍ほどの現金と、家財や医薬品を避難させた親戚宅や元従業員宅を記した帳面が出てきた。「よう残してくれたのう」。感謝で胸がいっぱいになった。

    ■    □    ■

 その年の10月に復学した。翌年には、復員した長兄が店の跡地にバラックを建てて、薬屋を再開した。原爆投下前にあった呉服屋や食料品店なども徐々に再建され始めた。

 48年春に学校を卒業すると、長兄を手伝うようになった。通り沿いには多くの店が立ち並び、復興の兆しが見えてきた。一方で、「母の日」になると、亡くなった母親に贈るとされる白いカーネーションを身につけた女子学生を大勢見かけるなど原爆の傷痕は色濃く残っていた。赤松さんも苦しい生活の中で、「両親と一緒に死んでおけばよかった」との思いが脳裏をよぎることもあった。

 「嫌なことばかりの過去を振り返りたくない」。その一心で、商売に精を出すことに専念した。店には父の代からひいきにしてくれる客もおり、60年ごろから市内に支店を構えるようになった。支店はやがて3店舗に。商店街の店主同士で草野球チームをつくり、背中にそれぞれの店名を記したユニホームもそろえた。戦前からの顔なじみで、同じ苦境を乗り越える仲間がいる。それが励みになった。

    ■    □    ■

 やがてバブルが崩壊。本通商店街でも店主が代替わりするとともに、なじみの店が次々と姿を消した。戦前から今も残る店はわずか4、5軒ほどという。二十数年前に赤松さんも支店を閉じ、数年後には店の経営を長男に譲った。

 「自分がそうだったように、広島の市民一人ひとりが毎日懸命に生きてきた。その結果、本通商店街も広島の街も、今のような姿になったんだろうねえ」

 (橋本拓樹)

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