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地方から未来へ【第7部・持続可能な未来へ】

ベンチャー集積 (岡山県西粟倉村) :上

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 ■起業相次ぐ、奇跡の村

 コンビニもない山村で若者らの起業が相次ぎ、雇用が生まれ、子どもが増え始める。中国山地に抱かれた人口約1500人の岡山県西粟倉村では、そんな奇跡が起きた。34もの「ローカルベンチャー」が集積する村を歩き、地域の存続をかけて奮闘する人たちの姿を追った。(清水康志)

 ■「森林で自立」、若者移住続々

 1月中旬、「木の里工房 木薫(もっくん)」を訪ねた。ヒノキの香りが漂い、心地よい。

 森林組合の木材加工場だった広い工房で、職人約10人が保育園児用の机や椅子、ロッカーを丁寧に作っていた。材料は、村の森林から出た間伐材だ。「家具の角は丸めてあるので安全です」。國里哲也社長(45)が教えてくれた。

 村出身の國里さんは2006年、仲間5人と起業した。木工の傍ら、間伐作業など森林の管理も担っている。組合職員だった頃に木材の価格が低迷し、放置された山が荒れた苦い経験が原点という。「間伐材を木工製品にして売り、利益を山主に還元すれば、山を守れると考えたんです」

 近年は待機児童問題から、各地で保育園を新設する動きが盛んだ。そんな追い風もあり、18年の売上高は約2億8千万円に。社員は20人に増え、うち5人はIターンだ。國里さんは「子どもたちに木のぬくもりを伝えることで、次世代に山を引き継ぎたい」と語る。

 木薫が呼び水になり、06年以降、家具工房や木材加工会社をはじめ、食用油工房やジビエ食堂、イチゴ菓子工房、宿泊施設、帽子工房など34の多彩な起業が相次いだ=地図参照。その売上高は計約15億円に上る。

 起業の大半の担い手は、若い世代の移住者だ。約200人の雇用も生まれ、今では移住者とその子どもが人口の1割を占める。

 それにしてもなぜ、こんなに移住者が多いのか。実は、合併で住民サービスが悪くなることを心配した村が、「平成の大合併」を拒んだのがきっかけという。

 生き残りに苦慮した村は、総務省から派遣された「地域再生マネジャー」を交えて議論を重ねた。そこでのアイデアは、木薫の立ち上げに生かされた。

 08年には、村は「百年の森林(もり)構想」を掲げ、村ぐるみで森林の手入れや間伐材の商品化を進め、次世代に豊かな森林を残すと宣言した。翌年には、これに共感した家具職人が岐阜県から移住し、家具製造などを手がける「ようび」を起業。さらに、間伐材を加工・販売する三セク「西粟倉・森の学校」もできた。

 こうした活動が広く知られると、新たなチャレンジを求めて人が集まる好循環が生まれた。手応えを感じた村は、起業や定住をさらに進めるために、都市部の若者らが田舎に移住して活動することを支援する総務省の制度「地域おこし協力隊」を活用。村主催の

「ローカルベンチャースクール」の取り組みにつなげ、7件の起業が実現した。

 ■村がスクール、人材発掘し支援

 そのローカルベンチャースクールの様子ものぞかせてもらった。

 昨年12月初旬。西粟倉村の川沿いにあるゲストハウス「あわくら温泉 元湯」で、2018年度の最終選考会が開かれていた。審査員の前で最終プレゼンに臨んだのは、10人が参加した1泊2日の1次選考会を突破した20〜30代の男性2人だ。

 通過すれば、村の遊休施設を安く借りられるなど、物心両面で幅広い支援が受けられる。地域おこし協力隊になることもでき、19年度から最長3年間、月額20万円の報酬と年額100万円の活動費を受け取りながら起業への準備ができる。

 千葉県出身で、昨年4月に村に移住した革職人渋谷肇さん(34)は、駆除された鹿の皮を使った革製品を販売する案を披露。「村を代表するカバンを作り、鹿の価値を広めたい」などと訴えて見事通過した。

 1次選考の際、審査員から「皮の仕入れから出口までの流れを作ったらよいのでは」と助言されたため、1カ月間各地を飛び回り、仕入れ先や東京の販売店を開拓したという。「起業に対する本気度を示せてよかった」と喜んだ。

 もう1人の方の岡山市の男性(28)は、村民出資による太陽光発電事業を提案したが及ばなかった。

 この日は、スクールを経て起業した人たちの活動報告もあった。菓子製造販売会社「ミュウ」の社長を務める渡部美佳さんは、03年から京都市内でイチゴ菓子専門店「メゾン・ド・フルージュ」を営む。事業拡大を考えていた時にスクールのことを知り、16年度に参加した。17年に村の観光施設「あわくら旬の里」に工房兼店舗を構え、地元のスタッフ6人で焼き菓子やアイスを作り、京都店でも販売している。

 渡部さんは、西粟倉店の開業で焼き菓子の製造量が大きく伸び、会社全体の売り上げも約3倍に増えつつあると報告。「西粟倉店でも売り上げ1億円を目指します」と宣言した。

 村でオリジナル品種のイチゴを栽培する構想も進めているところで、役場が畑や持ち主を紹介してくれたという。「村は個人では難しい部分を支援し、伴走してくれる。イチゴの味を引き出す菓子作りのノウハウを生かし、西粟倉での製造をさらに増やしたい」と夢を語った。

 ■子どもの数「V字回復」

 西粟倉村では、起業によって新たな雇用が生まれ、若い世代を中心に移住者が増えた。その結果、子ども(幼稚園児と小中学生)の数が減少から増加に転じている=グラフ参照。

 02年に199人いた子どもの数が、11年には126人と4割近く減った。しかし、村が村外からの人材獲得のために設けた「村雇用対策協議会」などの取り組みが功を奏し、子連れ家族が移住してきたり、移住後に結婚して子どもが生まれたりし始めた。12年以降「V字回復」し、18年には154人まで戻った。

 共働きの子育て夫婦も増えたため、村は18年に、これまでなかった保育園を設けた。村内産の木材をふんだんに使った温かみのある園舎が特徴だ。

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