朝日新聞デジタル：移住し起業独自の研修（島根県海士町）：下 - 広島

移住し起業独自の研修（島根県海士町）：下

研修で山内道雄さん（左）の話に耳を傾ける阿部裕志さん（左から２人目）と参加者ら＝島根県海士町

研修で自らの「原風景」を画用紙に書き込む参加者ら

　「この島で仲間たちと共に持続可能な社会モデルをつくり、日本中、世界中を引っ張っていきたい」。こんな夢を抱いた若者が、隠岐諸島にある島根県海士町に移り住んで１１年余り。人材育成や地域づくりを手がける会社を起業した阿部裕志さん（４０）は島にしっかり根を下ろし、新たな挑戦を続けている。

　京都大大学院修了後、トヨタ自動車で働いていたころに「持続可能なまちづくりを目指している島がある」と聞いて興味がわき、２００６年から何度も島を訪れるようになった。地域づくりに励む人たちと酒を酌み交わし、「ここを『学びの島』にして発信したい」との思いが高じた。

　０８年に仲間とともに移り住み、「巡（めぐり）の環（わ）」を起業。海士の風土や人を生かし、「新しい生き方」や地域づくりを学ぶ研修などを開いてきた。

　昨年１２月、海士町で「私と社会」について考える研修があった。参加者たちは「原体験」を画用紙に描き、自らの内面を深掘り。その後はフィールドワークに出かけ、地域づくりを牽引（けんいん）した前町長の山内道雄さん（８０）や「島留学」で知られる県立隠岐島前（どうぜん）高校の魅力化プロジェクト担当者から話を聴いた。「『私』が仕事を通じて、どんな社会をつくるのかなどを考えてもらう」のが狙いだ。

　こうした独自の研修は評判を呼び、企業や大学、自治体向けの研修を年間２０回ほど重ねてきた。現在の社員は７人。これまでに５人が起業していった。「持続可能な未来に挑戦する人づくりが進んだ」と自負する。

　一方、研修を依頼する側にとっては、離島での研修は交通費などの費用がかさみ、日程のやりくりも難しい。集客には限界があり、経営はずっと苦しかった。「赤字で借り入れがかさみ、もう会社をやめて一人になった方が楽だなとも思った」と明かす。

　でもあきらめることはなかった。再起に向けて、昨年１０月に社名を「風と土と」に変更。東京でも研修ができるようにプログラムを改良し、裾野を広げた。新たに出版事業にも打って出る。

　巡の環の起業は仲間に誘われたもので、社長になるつもりもなかった。こうした心の隙が、経営上の課題を生んでいたという。「自分の会社を作って、本当の経営者になろうと覚悟を決めた」

　これからの地域づくりについて、全国の地域間で知見を共有する「学び合い」が必要だと指摘する。その仕組みづくりも進めようとしているという。「ＳＤＧｓ（持続可能な開発目標）などの世の中を良くするアイデアを理想に終わらせず、現実にしていきたい」(清水康志）

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　中国地方で人口減少や産業衰退、医療過疎など様々な課題に向き合う人々や地域を訪ね、将来像を探る企画「地方から未来へ」はこれで終わります。

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