ちゅうごく経済【ちゅうごくの底力】
錦川鉄道（山口県岩国市）
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■鉄道の赤字補う「観光事業」
多角経営で地域の足を支えるローカル鉄道がある。岩国市の第三セクター、錦川鉄道。沿線人口の減少で開業以来赤字が続き、Ｖ字回復への道のりは険しいが、「地域と一体」を掲げ、足元の観光資源の整備など鉄道以外の関連事業に力を入れる。
ＪＲ岩徳線の岩国駅から二つ目、川西駅から錦町駅までの３２・７キロを、県内一の大河・錦川に沿って走る錦川清流線。車窓には、渓谷に包まれた瀬でアユをねらう太公望、川岸では鈴の音のようなカエルの鳴き声が響く。四季折々の色を映し出す風景に癒やされる。
４台ある車両は、全国有数の清流を奏でるように「桜のピンク」「森林のグリーン」「清流のブルー」「ホタルの光のイエロー」で装飾。沿線に生息する生き物のカラフルなイラストが、濃い緑の山あいでひときわ目を引く。
釣りが趣味だという運転士３年目の野坂優希さん（２５）は「錦川が間近に見える絶景を独り占めできるのが運転席。安全運転を心がけつつ、アユ釣りの人たちを見かけると自分もわくわくする」と話す。
旧国鉄時代は岩日（がんにち）線と呼ばれていた。錦町駅からさらに北へ、現在の島根県津和野町まで延びる岩日北線を整備する計画だったが、１９８０年、赤字解消などを目的に工事は凍結。岩日線も廃止の危機に直面した。ところが、住民らが存続運動を展開。８７年の国鉄民営化に伴い、沿線自治体や住民らの出資と寄付で現在の錦川鉄道が発足した。
沿線の人口は２０１８年度、少子高齢化と過疎化の影響で開業当初と比べて２万４千人余り減少し、利用者も年を追って漸減。老朽化に伴う保守経費もかさみ、鉄道事業の収支は今も厳しい。そこで、その赤字を補うのが観光などの多角経営だ。錦帯橋や岩国城、ロープウェーといった市の委託業務などの関連事業の収入は全体の７割に及ぶ。
１９７５年に旧国鉄に入り、徳山駅長も歴任した磯山英明社長（６７）は就任５年目。「関連事業はすべてが黒字。鉄道を補完する事業として大きな力となっている」と説明する。
左党が注目する岩国５蔵の地酒を、列車に揺られながら堪能する利き酒列車。開通せず、高架やトンネルが残ったまま放置されていた岩日北線の路盤を活用した、トロッコ遊覧車「とことこトレイン」。昭和のレトロ感が漂う旧国鉄型ディーゼルカー「キハ４０系」を実際に動かす運転士体験は、全国各地から客が訪れる人気ぶりだ。
昨年７月の西日本豪雨では、線路に土砂が流入して全線不通になったが、５０日ほどで再開した。「関係機関が全力で復旧に尽くしてくれた。地域と一緒に、住民の生活を支えるこの鉄道を守っていきたい」と磯山社長。関連事業をテコに鉄道事業を維持していくことが、社の使命だと力説した。（具志堅直）
＜錦川鉄道＞ 旧国鉄岩日（がんにち）線の川西―錦町間が１９６３年に開通。８６年に第三セクター化が決まり、翌８７年に設立された錦川鉄道が、錦川清流線として運行を再開した。２００２年にトロッコ遊覧車、とことこトレインの運行を開始。１５年に就任した磯山英明・現社長が、本社のある錦町駅舎のリニューアルを手掛けた。今年３月、新駅としては２６年ぶりに「清流みはらし駅」が開業した。
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