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土曜「考える」【Opinion北海道】

受動喫煙防止へ対策は

写真: 拡大

写真:大和 浩さん 拡大大和 浩さん

写真:宮下 剛さん 拡大宮下 剛さん

 受動喫煙による健康への影響を防ごうと、美唄市が「条例で公共施設などでの禁煙化を進める」と表明したところ、たばこ業界や飲食店組合が反対に動き出した。国内で条例化したのは神奈川、兵庫両県だけで、他では実現していない。受動喫煙の問題とその対策について、双方の立場に尋ねた。(聞き手・綱島洋一)

■美唄「禁煙条例案」に反対意見も

 美唄市は「自分の意思に関係なく、他人のたばこの煙を吸わされてしまう」受動喫煙によって「がんや心臓病のリスクが増加する」として、市民の健康を守る立場から2014年12月に受動喫煙防止対策のガイドラインを策定。15年2月には学校、病院、公共施設などでの禁煙を求める条例の制定を打ち出した。

 条例素案は、飲食店について「分煙措置を講じるのが物理的に難しい」事例があることなどを配慮して「適用除外」とした。神奈川、兵庫両県のような違反した場合の罰則規定は盛り込んでいない。

 それでも、日本たばこ産業と地元たばこ販売組合などは「条例化は唐突」とする反対意見を市に出した。市は学識経験者と市民、たばこ販売業者、商店街関係者らによる検討委員会を設置。受動喫煙の防止対策について議論を深めることとし、条例案はまだ市議会に提出されていない。

■屋内の全面禁煙化、必要 産業医科大教授・大和浩さん

 日本人の死亡原因をリスク要因別に調べた2007年の研究によると、最も多いのが「喫煙」で12万8900人。受動喫煙では、肺がんと虚血性心疾患により年間約6800人が死亡したとの推計結果を、国立がん研究センターが10年に発表しています。

 たばこの煙は、約70種類の発がん性物質を含みます。たばこから立ち上る煙を電子顕微鏡で撮影すると、極めて小さい粒子と分かります。大気汚染で問題となった微小粒子状物質(PM2・5)よりも小さい「ナノサイズ」です。

 それゆえ煙は肺の奥深くまで吸い込まれ、炎症を起こします。炎症は血液の循環により全身に及び、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などのリスクが高まります。受動喫煙でもこれらの病気を発症するリスクが高まります。妊婦だと低体重児が生まれるリスクがあります。子供では、小児ぜんそくや乳幼児突然死症候群を発症する懸念が指摘されています。

 私は、壁で禁煙席と隔離した喫煙室のある喫茶店などでPM2・5の濃度を測定し、論文で発表しました。喫煙室の濃度は1日平均の環境基準(1立方メートルあたり35マイクログラム)をはるかに超える400〜800マイクログラム。大気汚染が激しい季節の中国・北京ほどでした。

 禁煙席でも基準を上回り、「外出を自粛するレベル」。たばこを吸う人が喫煙室を出入りする度にドアが開き、たばこの煙が禁煙席に漏れてきていました。こうした分煙では受動喫煙を防げません。

 深刻なのは、喫茶店などで働く従業員への影響です。喫煙室に入って接客や清掃をしなければなりません。働く人々の健康を守るため、屋内の全面禁煙化が必要です。

 15年9月現在、50カ国が飲食店を含む屋内を全面禁煙とする法律を施行しました。それらの国では、法律制定の直後から心筋梗塞(こうそく)や脳卒中、気管支ぜんそくなどの疾患が減ったとの報告があります。働く人の健康を守るという観点からも、屋内を全面禁煙とする条例を自治体が制定すべきです。さらに、違反すれば罰則のある法律で全面禁煙化を確実に達成すべきです。

     *

 やまと・ひろし 北九州市生まれ。呼吸器内科医を経て産業医学の研究者に。2006年から現職。受動喫煙の影響や、屋内を禁煙とすることで喫煙率がどう下がるかなどを研究する。55歳。

■分煙で迷惑避けられる 日本たばこ産業社会環境推進担当部長・宮下剛さん

 「自らたばこを吸うと肺がんや心臓病といった特定の疾病を引き起こすリスクが高まる」という疫学研究があります。確かに、喫煙は疾病につながるリスクのひとつ。ただ「疾病の直接的原因」とは言い切れないとの見解です。

 受動喫煙の場合はどうか。当社は、国際がん研究機関(IARC)が喫煙者の夫と暮らす非喫煙者の妻について肺がんリスクを調べたとして紹介した多くの論文を、2004年時点で分析しました。「受動喫煙との関係が統計的に有意」とする論文は13%に過ぎず、「有意ではない」との論文が87%を占めました。

 煙を吸い込む量が受動喫煙では少ない。自らたばこを吸うのとは違い、特定の疾病を引き起こすリスクが高まるとまでは言い切れません。

 子供がたばこの煙を吸い込むと、ぜんそくが悪化するなどの呼吸器系疾患のリスクが高まるとの疫学研究が多くあります。子供はたばこの煙を避けられる場所に自ら移動することが難しい。「子供の周りでの喫煙には配慮を」とお願いしています。

 JTは「たばこを吸われる方と吸われない方の協調ある共存社会の実現」に取り組んでいます。条例で「禁煙」としなくとも、分煙により「たばこの煙による迷惑」を回避できると思います。

 個室化した喫煙エリアを設置したり、空気の流れを制御したりする仕組みを導入すれば、たばこの煙による迷惑を被ることは避けられます。

 確かに、設備を整えるにはコストがかかります。「分煙」をうたいながら禁煙エリアに煙が流れ込む店舗があるのも事実ですが、JTは分煙が確実に進むよう04年から商業施設などを対象にコンサルティングに力を入れ、累計実績は1万5千件以上です。

 また、店頭に「喫煙可」「当店は禁煙」「分煙」とステッカーで明記すれば、お客が利用する店を選べます。

 「飲食店で働く人たちは受動喫煙による健康への影響が避けられない」との指摘には、答えを繰り返すことになります。受動喫煙で特定の疾病を引き起こすリスクが高まるとまでは言い切れません。

     *

 みやした・つよし 大阪府大東市生まれ。1990年4月、日本たばこ産業入社。IR・広報部次長などを経て15年4月から現職。喫煙マナーの啓発と分煙推進の活動を担当する。48歳。

■記者の視点

 受動喫煙についての取材で最も衝撃的だったのは、たばこの煙を撮影した電子顕微鏡の写真だ。丸い粒子が点在しているのがくっきりと見える。「煙が見えるのは、粒子が光を乱反射するからだ」と大和教授の論文には説明してあった。

 そのたばこの煙、いや、粒子は大気汚染で問題となったPM2.5より小さく、「発がん性物質を含んでいる」という。

 中国でPM2.5による大気汚染が取りざたされると、日本中が健康への影響を心配した。大和教授の取材で訪れた九州は中国にほど近い。新聞やテレビでは「PM2.5の予想数値」が今も報じられていた。

 分煙の飲食店で喫煙室と禁煙席のPM2.5値を掲示した事例を見たことがない。大気汚染を心配するのなら、たばこの煙の健康への影響を懸念するのがごく自然だ。たばこを吸わない私は、分煙の飲食店をためらいなく利用できる自信がない。

(綱島洋一)

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