メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

03月21日朝日新聞デジタル朝刊記事一覧へ(朝5時更新)

新着記事一覧へ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

土曜「考える」【北の文化】

「さとぽろ」とその時代 井内佳津恵

写真: 拡大

写真:「さとぽろ」創刊号の表紙 拡大「さとぽろ」創刊号の表紙

写真:大胆な構図が印象的な「さとぽろ」5号の表紙 拡大大胆な構図が印象的な「さとぽろ」5号の表紙

●井内佳津恵 道立近代美術館主任学芸員

■モダン都市札幌 香り立つ雑誌

 『さとぽろ』は、1925(大正14)年に札幌で創刊された詩と創作版画を中心とする雑誌です。作者自ら絵を描き、版木に彫り、摺(す)った版画をページに直接貼ったり、版画紙をとじこんだりして製作されるため、刊行部数は少数でしたが、その斬新なグラフィックデザインは、今なお新鮮です。1929(昭和4)年9月刊行の29号を最後に終刊しましたが、戦前の北海道の芸術雑誌を代表する存在のひとつでした。

   ◇ ◇ ◇

 創刊したのは外山卯三郎、斎藤護国、伊藤秀五郎、服部光平、宮澤孝、相川正義、宮井海平、伊藤義輝の8人。北海道帝国大学(以下、北大)の学生と教師でした。創刊号の編集発行者を担ったのは、東京から来た外山でした。1922(大正11)年に北大予科に入学したものの、肺結核で休学。その間、築地小劇場をつくった土方与志や画家・作家の村山知義らと交友し、前衛雑誌『マヴォ』を手伝うなど大正期の最先端の芸術動向にふれていました。

 同時期、北大では美術部・黒百合(くろゆり)会が毎年学外で展覧会を開き、演劇でも外国語劇大会が始まっています。1921(大正10)年には、『平原』『とどろき』『氷河』といった北大生を中心とする文芸誌が相次ぎ創刊され、翌年には「札幌シンフォニー・オーケストラ」が結成されるなど、北の地でも活発な芸術活動が展開されていました。『さとぽろ』同人はこれらの動きとどこかで接点があり、大正期の北大の文芸復興とも呼べるような状況を担っていたともいえるでしょう。

 創刊翌年、外山が京都帝大進学のために札幌を離れると、独特の幻想的な版画作品を残した水産専門部教授・西村真琴が中心となります。西村はテレビドラマの水戸黄門役で人気を博した西村晃の父親で、人間型ロボット「学天則」の生みの親。西村が編集者だった時期は、北大教官を中心に同人が増え、広告も掲載、大幅にページも増えました。続いて創刊時に学生メンバーだった服部光平、伊藤義輝が編集を担当。判型を大型化し、全16ページと薄型ながら、テキストと版画をフレキシブルにレイアウトした誌面には、のびやかな自由さがあり、文章も絵もよくした二人ならではの、洗練された感覚が横溢(おういつ)しています。

   ◇ ◇ ◇

 『さとぽろ』には学外の参加者も多数いましたが、特筆されるのは建築家の田上義也です。関東大震災直後に来道し、北海道の建築家の草分けとなった人物。バイオリニストでもあり、『さとぽろ』の会合で独奏したほか、劇研究部に所属して、舞台装置にすぐれた感覚を発揮、メンバーの自宅やアトリエの設計も手がけました。

 手づくりに近い製作、郵便による交換など、ネット上で瞬時につながる現代から見ると、いかにも遠回りな表現方法かもしれません。一方で、紙の手ざわり、重さ、インクのにおい――そうした皮膚感覚とともに存在する表現のあり方は、いつの時代にも色あせない輝きを放ち続けるのではないでしょうか。

 道立近代美術館では来年3月21日まで、「『さとぽろ』とその時代――詩・版画・都市のモダニズム」展を開催し、雑誌の現物や版画などを展示します。1920年代のモダン都市札幌の香りをたちのぼらせる珠玉のアートマガジンの世界を、ぜひご堪能ください。

     ◇

 道立近代美術館主任学芸員 1962年、ニセコ町生まれ。道立旭川美術館などを経て、2014年から現職。

PR情報

ここから広告です

北海道報道センターから

北海道アサヒ・コムへようこそ。
身のまわりの出来事やニュース、情報などをメールでお寄せ下さい(添付ファイルはご遠慮下さい)
メールはこちらから

朝日新聞 北海道報道センター 公式ツイッター

注目コンテンツ

  • 写真

    【&w】マックイーンの軌跡を追う

    上間常正@モード

  • 写真

    【&TRAVEL】駿河湾の男衆が女装して踊る

    「天下の奇祭」大瀬まつり

  • 写真

    【&M】佐藤可士和の「超整理術」

    原点はガキ大将の美しい部屋

  • 写真

    【&w】会社やめた。どう生きれば?

    ほんやのほん

  • 写真

    好書好日くらもちふさこさん初の自伝

    壮絶なマンガ制作秘話が満載

  • 写真

    WEBRONZA田中均氏が語る「平成」

    今日の編集長おすすめ記事

  • 写真

    アエラスタイルマガジンいま、ワードローブが変わる

    #1ジョルジオ アルマーニ

  • 写真

    T JAPAN歌舞伎の味わい方<時代物編>

    人間国宝、片岡仁左衛門が語る

  • 写真

    GLOBE+ヨルダン王女と単独会見

    がん征圧に身を投じた理由

  • 写真

    sippo「看板犬」に期待した子犬

    超ビビリ、家で味見役に

  • 働き方・就活

  • 転職情報 朝日求人ウェブ