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さくらとひまわり【さくらとひまわり 日ロ交流の歴史を訪ねて】

(3)陽明丸

写真: 拡大

写真:出迎えられたロシアの子供たち。陽明丸が寄港した室蘭で撮影された写真が残る。はめ込み写真上左はオルガ、同右はユーリ=いずれもオルガ・モルキナさん提供 拡大出迎えられたロシアの子供たち。陽明丸が寄港した室蘭で撮影された写真が残る。はめ込み写真上左はオルガ、同右はユーリ=いずれもオルガ・モルキナさん提供

●寄稿 作家・谷村志穂

■革命期の子、日本船が救出

 今回のロシア再訪にあたり、元サンクトペテルブルク日本領事の内田一彦氏(現在は日本たばこ産業に勤務)に、日本とロシアの交流の歴史について幾つかの意外なエピソードを教わった。中でも「陽明丸」の逸話は、日本人として深い驚きがあった。

 第1次世界大戦から革命へと突入したロシアでは、貴族階級の子供たちも行き場を失っていった。サンクトペテルブルクでは、食糧難や感染病が起こり、子供らを夏のキャンプへ連れだす計画が始まる。1918年のことである。

 集まった子供たちは、4歳〜18歳の約千人にのぼった。ひと夏だけのつもりで親元を離れ、ウラル地方へ旅立ったが、内陸部でも内戦が始まり、子供たちは次第に追いやられ、旅は結局2年半にも及んだ。ウラジオストクで幽閉状態にあった彼らを最後に救援したのは、赤十字社から要請を受けた日本の海運商だった。所有する貨物船「陽明丸」に客室を作り、約800人を乗船させたのだという。

 日本では良い話はなかなか伝わらないが、陽明丸について私は名前さえ知らずにいた。1920年7月に出発した船は、同月14日から室蘭に寄港している。子供たちは地元の小学校で大歓迎を受け、その際の写真まで残っているのだから、覚えのある方もあろうか。船はその後3カ月をかけ、サンフランシスコ、パナマ、ニューヨークを経て、フランスまでたどり着く。

     *

 今回サンクトペテルブルクで、乗船していた男女の子孫にあたる、オルガ・モルキナさんに会った。

 キャンプに出た子どもたちの中に、オルガという少女とユーリという少年がいた。ともに15歳。この冒険に満ちた旅で二人は恋に落ちる。陽明丸に救出され祖国へ戻り、二人は20歳を迎え結婚し、娘(モルキナさんの母)を一人授かっている。しかし第2次世界大戦が始まると、二人は離れ離れになる。

 オルガ一家はサンクトペテルブルク(当時のレニングラード)を離れるのを固辞し、ユーリは自分の父とボルガ河沿いの街で軍の技術者として職を得る。レニングラードはドイツ軍の包囲で封鎖され、オルガの母は餓死した。これによりオルガもこの地をようやく離れる決断をするが、男女としてのすれ違いは続き、二人は互いに新しい相手と暮らし始めるのだ。それでも、双方の家族は生涯、一人娘を囲み様々な行事を共に過ごし続け、二人の亡き後、オルガとユーリを一つの墓に眠らせたという。

 ユーリはモルキナさんに、陽明丸の出来事をおとぎ話のように話していたそうだ。日本の船に救出されたからこその命だが、その後も数奇な運命をたどった二人について、モル

キナさんは、日本人の私と分かち合うことを喜んでくれた。

     *

 英語教師をしているモルキナさんは、「ヨーメーマル」という不思議な響きと「カヤハラ」という船長の名をずっと覚えていた。近年、日本からやってきた篆刻(てんこく)家の北村南苑さんに、船と船長について一緒に調べてほしいと願い出る。やがて、船主は愛媛出身の勝田銀次郎、船長は岡山の茅原基治だとわかった。モルキナさんは、日本の南山高校(名古屋市)より講演を頼まれ2011年来日した際、岡山に茅原氏の墓を訪ね、祖父母の礼を伝えている。陽明丸の旅立ちより、90年以上が経っていた。

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