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火曜「学ぶ」【知の達人たち】

死後画像診断、死因に迫る 渡邊智さん

写真: 拡大

写真:死因究明にCTスキャンを導入する渡邊智教授=札幌市中央区の札幌医科大学 拡大死因究明にCTスキャンを導入する渡邊智教授=札幌市中央区の札幌医科大学

写真:遺体の組織は顕微鏡で詳しく調べる 拡大遺体の組織は顕微鏡で詳しく調べる

■札幌医科大学医学部教授(法医学)・渡邊智さん(55)

 道内では昨年、犯罪に巻き込まれた可能性のある遺体約660体が司法解剖された。札幌医科大学の法医学者・渡邊智教授(55)は、その3分の1の遺体を担当した。解剖するだけではなく、CTスキャンや内視鏡なども駆使し、死因の特定に尽力している。

 岩手県奥州市出身。松山千春さんが歌う北の大地の世界観に憧れ、北海道大学に進学した。医者になれば道内を転々としながら働けるだろうと思い、医学部を選んだ。医学を学ぶ中で心臓外科医を志し、当初は外科医に。函館や旭川など道内約10カ所の病院で研修を積み、患者を診てきた。

■道内先駆けCT導入

 医師4年目で母校に戻ると、膵臓(すいぞう)の細胞の研究に誘われた。小さな細胞の観察を重ね、結果を導き出すおもしろさにのめり込んだ。外科医と細胞の研究者の経験を生かせる場はないかと考えて2003年、「メスも顕微鏡も使えるだろう」と法医学の道に進んだ。

 だが、想像とは全く違っていた。「解剖すれば死因は分かる」という考え方が根強いのに驚いた。外科医は患者の体にメスを入れるまで、問診や血液検査、CT画像診断などあらゆる検査をする。様々な病気の可能性を検討し、やっと手術の同意をもらう。「いきなりメスを入れるなんて乱暴。遺体を多角的に調べる必要があるのではないか」と考えた。

 札医大に移った後の10年7月、遺体専用のCTスキャンの機材を道内では先駆けて導入し、「死後画像診断」を始めた。0・5〜0・7ミリ幅で遺体の断面を撮影し、4千枚にも及ぶ画像を組み合わせて3D画像にする。亡くなったままの状況が再現され、骨折や出血の痕、骨に残る生前の手術痕などが細かく浮かび上がる。この画像を見ることで、死因がある程度解剖前に分かることもあるという。

 内視鏡で遺体の体内をのぞくこともある。のどに何かを詰まらせて窒息した可能性はないか、気道に水が入って水死した可能性はないか、などを調べるためだ。CTや内視鏡は患者を診察していたときに使い慣れている。

 こうした診断と解剖で遺体1体を調べるのに、最低2〜3時間はかける。「生きている人も、亡くなっている人も診る方法は同じ」。隠れた犯罪を見逃さないために、死因を見極める診断方法を確立したいと思っている。

■社会に還元したい

 道内では現在、札医大、北大、旭川医科大学の3大学5人の医師が中心となり、回り持ちで司法解剖を担当している。札医大は渡邊教授が一手に引き受けており、昨年は約240体の遺体を調べた。07年の大相撲・時津風部屋の若手力士急死事件などで死因究明の重要性がさけばれ、司法解剖の数は年々増加。道内でも10年前の2・5倍に増えた。多くの経験が積める一方、休む暇がほとんどない。研究に費やす時間が限られてしまうことが、悩みだ。

 こうした悩みは自身だけのものではない。法医学者は全国で約150人、全国約80の医学部に各1〜2人しかいない。昨年9月に札医大の医学部法医学講座の教授に就任したが、後進の育成は急務だ。若い医師たちにとって魅力ある研究の場を提供しようと、数年前から死後画像を診断する力を養成する講座を開いている。

 法医学者の仕事は死因究明が第一だが、それだけとは考えていない。死因の究明を通して、「私たちが生きる社会にも還元できる」と思っている。

 風呂場での高齢者の水死や子どもの虐待などは後を絶たない。「一人の人間がなぜ、どのように亡くなったのか。正確に死因を調べてその資料を残していく。それらが私たちの生活習慣を見直す材料になってくれれば」と期待している。

 (森本未紀)

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