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土曜「聞く・語る」【北の文化】

芥川賞とった「兄さん」 納谷真大

写真: 拡大

写真:芥川賞を受賞した「兄さん」こと山下澄人氏(左)と筆者 拡大芥川賞を受賞した「兄さん」こと山下澄人氏(左)と筆者

●納谷真大 劇作家、俳優、演出家

■演劇に収まりきらない表現者

 芸人の世界では、先輩または兄弟子のことを「兄さん」と呼ぶケースが多いようだが、俳優の場合、先輩などを「兄さん」と呼ぶことはそんなに多くはないのではないか。

 しかし、私は山下澄人のことを「兄さん」と呼ぶ。呼ぶというより、山下澄人は、私の「兄さん」である。血の繋がりはない。しかし、もっと濃く深く強い「なにか」で繋がっている、はず、である。

   ◇  ◇  ◇

 私は25年前に倉本聰師匠の富良野塾に入塾した。その時すでに「兄さん」は富良野塾の看板俳優的な存在だった。まだ若く、俳優として成功することだけに一心不乱になっていた私は、雲の上の存在の山下澄人をいつもライバル視していた。もちろん当時は「兄さん」ではなく「澄人さん」だった。

 澄人さんは、強面(こわもて)にもかかわらず、私にとても優しく親切だった。その分、時にはシバかれそうになるくらい怒られもしたが。

 富良野塾を卒塾したあと、私は「澄人さん」にFICTIONという劇団に誘われた。そこでの数年間の経験は、私にとって、富良野塾での経験に匹敵するものだった。いつの間にか、「澄人さん」は「兄さん」になっていた。私は創作者としての根の部分を倉本師匠に教えられ、幹の部分を「兄さん」に教えられたことで、今もかろうじて創作の世界に身をおくことが出来ている。

 山下澄人という俳優は、演技オタクを自負する私にとって、最高の演技者であり、私が演技をする際に、山下澄人を意識しなかったことは一度たりともない。いつも「山下澄人ならどう演じるのか」が真っ先に頭をよぎる。とにかく「兄さんの演技」が私の大好物なのである。

 そんな「兄さん」が小説を書きはじめた。もう10年ちかく前になるのだろうか。完成した「緑のさる」という小説を読んで、私は、私にとっての最高の演技者は、演技だけでは表現しきれないものを小説というカタチで吐き出した、と感じた。

 俳優には、決められたセリフがあり、演出家や監督の意図を具現化するという役割がある。しかし山下澄人という表現者は、その他者と関わらねば成立しない演技という領域には、おさまりきらなかったのだとおもう。

   ◇  ◇  ◇

 それからの「兄さん」はいつも飄々(ひょうひょう)と何かを書いていた。頭をかきむしることもため息をつくこともなく、淡々と手が動くに身をまかせ何かを書き続けていた。大好物の演技を目にする機会は極端に減ったのだけれど、「兄さんの話」を聞くことは「兄さんの演技」の次に大好物だったので、私はいつもワクワクしていた。

 「コルバトントリ」が芥川賞の候補になった2014年には、発表を一緒になって待っていた。当事者の「兄さん」はあくまでも他人事(ひとごと)で、他人の私が躍起になっていた。結果が出たあと「兄さん」は、「すんませんでした」と私に一言だけ言った。それ以外はいつもの「兄さん」だった。

 そして、先日、「しんせかい」で芥川賞を受賞した。お祝いの言葉を言った私に「兄さん」は「ありがとう」と「なんか、もう具合わるい」とだけ言った。それ以外はいつもの「兄さん」だった。

     ◇

 なや・まさとも 1968年、和歌山市生まれ。劇作家、俳優、演出家。早稲田大学卒。富良野塾9期生を経て、札幌を拠点に活動。2004年、演劇ユニット「イレブン☆ナイン」を結成。8月12〜19日には、札幌演劇シーズン2017夏「あっちこっち佐藤さん」(会場/かでる2・7ホール)を上演予定。今年1月、第159回芥川賞を受賞した山下澄人氏は、富良野塾2期生。

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