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水曜「働く・暮らす」【現場一話】

活路探る新得の共働学舎

写真: 拡大

写真:人気のセミハード系チーズ「ラクレット」の熟成状態を確かめる宮嶋望さん。札幌軟石で作られた熟成庫は年間を通じて室温約12度、湿度約95%に管理されている 拡大人気のセミハード系チーズ「ラクレット」の熟成状態を確かめる宮嶋望さん。札幌軟石で作られた熟成庫は年間を通じて室温約12度、湿度約95%に管理されている

写真:農場内にあるチーズ工房(手前)。奥には搾乳場が隣接し、土地の傾斜を利用してポンプを通さず搾りたての生乳が送られてくる=いずれも新得町の共働学舎新得農場 拡大農場内にあるチーズ工房(手前)。奥には搾乳場が隣接し、土地の傾斜を利用してポンプを通さず搾りたての生乳が送られてくる=いずれも新得町の共働学舎新得農場

■チーズ、地域独自の味わい磨く

 日本とEU(欧州連合)の経済連携協定(EPA)が大枠合意した。消費が伸びる日本市場を目がけ、本場のチーズが今よりもたくさん安く入ってきそうだ。海外のコンテストで受賞するほど名の通った十勝の手作り工房も身構え、活路を探る。

 JR新得駅(新得町)から約2キロ。標高480メートルの牛乳山にある「共働学舎新得農場」では、最大傾斜約20度の斜面に約100頭のブラウンスイス種の牛がゆったり草をはむ。ふもとには牛舎やチーズ工房、カフェが点在する。

 「ヨーロッパには長年培った伝統と品質がある。自分たちの環境に合ったオリジナルを作らないと勝負できない」。代表の宮嶋望さん(65)は気を引き締める。

 暑さに弱い牛を育てるのに適した土地に1978年、共に働き、支え合いながら学ぶ共同生活を追究する「共働学舎」が農場を開いた。宮嶋さんの家族3人を含む6人と牛6頭からのスタートだった。

 今では約70人が働く。心身に障害があったり、引きこもっていたり、約半数は社会で居場所を見つけられずにいた人たちだ。一人ひとりが特性を見つけ、家畜の世話や商品の開発・製造、カフェの運営などに力を発揮している。約20種類のチーズを製造し、農場の収益の7割を稼ぐ。

 画一的な大量生産ではなく、地域ごとに違う味。欧州に根付くチーズの食文化は、農場の目指す方向性と一致する。それぞれに違う魅力や個性、多様性を大事にする姿勢だ。本場の味に近づこうと製法をまねして試作を繰り返した当初は悪戦苦闘が続いた。

 チーズは生き物だという。発酵させる菌の働きが重要で、温度や湿度、牛の成育環境、器具の管理状態までが味に影響する。特に水は重要で、硬水の欧州と軟水の日本とでは環境が大きく異なる。

 徹底的に独自の生産環境を追究した。搾乳場とチーズ工房は、においなどの問題から通常は50メートル以上離すが、土地の傾斜を利用して生乳を運べるよう23メートルに近づけた。ポンプを介さないことで乳の成分が保たれるのだという。建物の下の土に炭を埋めて環境を整えることで食品衛生基準もクリアした。

 2004年、世界規模のコンテスト「山のチーズオリンピック」で最高賞に輝いた。受賞したソフトタイプのチーズ「さくら」は、町の木でもあるエゾヤマザクラの塩漬けを乗せ、ほのかにサクラの香りがする商品だった。

 近年、小規模なチーズ工房が全国で増え、240カ所ほどあるとされる。ただ、チーズの国内消費の8割以上を輸入が占め、それぞれの工房の健闘ぶりは見えにくい。

 「『さくら』は新得だから作ることができた。それぞれの土地で、それぞれの味を丁寧に作る。違いこそ私たちの生きる道なんです」。日欧EPAでは伝統的な産地ブランドを互いに保護することも合意した。宮嶋さんは地域ごとに個性ある味を磨くことが勝負のカギになるとみている。

 (長谷川潤)

■国内の流通品、多くはEUなどから

 日本のチーズ消費量は少子化にもかかわらず年々増えている。農林水産省によると、2015年度は約30万トンで10年前より約2割増えた。国内で流通するチーズはEUなどの輸入品が多く、国産は15%にとどまっている。

 日欧EPAの大枠合意では、日本が29.8%の関税をかけているカマンベールやモッツァレラなどの「ソフト系チーズ」などに一定の輸入枠を設け、枠内の関税を16年目に撤廃する。枠を超えた分は今の関税が残る。ゴーダなどの「ハード系」も16年目に撤廃する。

 国産チーズに使う生乳のほぼ全量が道内産のため、道内の酪農家らはとりわけ影響を懸念。政府は生乳やチーズ製造の生産性を高める国内対策を検討する。

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