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土曜「聞く・語る」【北の文化】

世界の芸術家を札幌に招く 柴田尚

写真: 拡大

写真:札幌に滞在中のプリゴフ氏(右)。その隣が筆者 拡大札幌に滞在中のプリゴフ氏(右)。その隣が筆者

●柴田尚 NPO法人「S−AIR」代表

■表現の自由は地域を映す

 「Appeals to the Citizens(市民への訴え)」

 いくつかの詩のメモ群による作品が、今年の9月までドイツのカッセル市で開催されていた国際美術展「ドクメンタ14」で展示されていた。作者は、ドミトリー・プリゴフ。すでに2007年に亡くなっており、死後10年も経ってから、現代美術のオリンピックとも呼ばれる夢の舞台に選出されたのだ。

 彼はロシアの詩人であり、画家、俳優、テレビのコメンテーターなど、多彩な才能を持つアーティストだったが、生前は不遇であった。自由に表現活動ができるようになったのは、ゴルバチョフによって提唱されたペレストロイカが浸透してからのこと。この「市民への訴え」(1985〜87年)という詩の発表によって、彼は逮捕され、精神科病院に収容されていたのだという。

   ◇  ◇  ◇

 実は亡くなる7年前となる2000年、自分が事務局長をしていたNPO法人S―AIR(エスエア)のプログラムで札幌に3カ月間滞在し、私の住むアパートのすぐ隣の部屋で作品制作していたことがある。

 「アーティスト・イン・レジデンス」という滞在制作をサポートするプログラムである。元々は17世紀にヨーロッパで芸術家の留学として始まったようだが、日本では1990年代から増え始め、現在、国際交流基金管轄のサイトによれば、公式なものだけで58プログラム(14年10月現在)となっている。S―AIR(Sapporo Artist in Residence)は、助成金などを得て、約2〜3カ月間、滞在制作を支援する。昨年までの18年間に招請者は32カ国92人にのぼる。

 この活動の中では、プリゴフのように表現の自由のある環境を求めてやってくるアーティストとよく出会う。かつての東欧や中国などの共産圏、そして現在のASEAN各国も芸術文化の助成などはない。彼らに共通しているのは、「アーティストであり、アクティヴィストである」ということだ。つまり、政府に芸術文化が理解されない環境では、何らかの意味でアクティヴィスト(社会活動家)にならざるを得ないということなのである。

 元々アーティスト志望だった自分は、「札幌はアートシーンがとても小さく、創り手にとって恵まれない土地」と思っていた。しかし、ある時、マレーシアから来た作家に「朝、札幌で目覚めるだけでうれしい。それは自由に表現ができるから」と語られ、地域に対する考え方が変わった。

   ◇  ◇  ◇

 アーティストが自由に表現活動できる地域は、そこに暮らす多くの人々にとっても暮らしやすい環境であるはずだ。自分は、この「アーティスト・イン・レジデンス」という活動を通して、以前よりも幅広い視点でものごとを考えられるようになったのではないかと思う。

 そのS―AIRも来年、とうとう20周年を迎える。招請作家は100組に達しそうだ。「アート」という自由の窓から、世界がどう見えるのか改めて感じてみたいと思っている。

    ◇

 しばた・ひさし NPO法人「S−AIR」代表 1962年歌志内市生まれ。99年、S―AIRを有志により設立。事務局長となる。2005年、NPO法人化に伴い代表に。13年度より、北海道教育大学岩見沢校教授。大学では岩見沢を舞台としたヌーヴォーシルク(新しいサーカス)の滞在製作「空知遊覧」を昨年よりスタート。16年には北海道文化奨励賞を受賞した。

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