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土曜「聞く・語る」【ひと模様】
若菜勇さん(3)なぜ丸く?欧州で調査
●マリモ博士・若菜勇さん
マリモ命名100周年事業に使う資料をネットで調べていた1998年夏、パソコン画面に突然、見慣れた球状マリモのイラストが現れました。しかし、私たちが描いたものではありません。けげんに思いクリックすると、北欧のアイスランドにあるミーヴァトン研究所のホームページにジャンプしました。
欧州では、球状マリモはすでに途絶えたはず。メールで問い合わせると、「ミーヴァトン湖のマリモだ」との返信がありました。これが欧州調査のきっかけになりました。
■国内で糸口なく
《なぜ欧州でも調査を始めたのでしょうか》
それまでの国内調査で「マリモとは何か」は粗々分かってきましたが、「なぜ丸くなるのか」を知る手がかりはさっぱり得られませんでした。日本で球状マリモが現存するのは阿寒湖だけで、比較できるフィールドがなかったのです。
研究所とのやり取りを通じて、ミーヴァトン湖の周辺には火山があり、その影響で温泉や伏流水が湖内に流れ込んでいるなど、阿寒湖と似た環境が分かりました。その一方、面積が阿寒湖の約2・8倍もありながら、平均水深が約2メートルとたいへん浅いなど、違う点も少なくない。マリモの生息環境の比較に適しているように思われました。
《ミーヴァトン湖での調査はどうでしたか》
最初は99年の夏。ボートを出してもらうと、直径10センチほどのマリモが次々に水面に浮かんできました。現地の研究者は「お前を歓迎しているんだ」と喜んでいましたが、これ以外にも岩の裏についたまま丸くなるマリモや表面が白いマリモなど、阿寒湖では見た経験のないものばかりで、ひどく混乱させられました。
翌2000年から本格的な調査にかかりました。群生地は阿寒湖の数十倍、個体数としては数百倍あることや、球状の構造は同じ放射型であっても、直径14センチより大きくならないことなどが確かめられました。
■ツインレイクス
《球形化のメカニズムは分かりましたか》
04年まで毎夏、潜水調査を続けた結果、球状マリモは岩の上で密生した糸状体が塊になって剥がれ、それが大きくなって生成される過程がはっきりしてきました。阿寒湖では、大きなマリモが壊れて生じた断片から球状マリモが再生されるので、構造はそっくりでもでき方は全く違うのです。
また、生息環境に関するデータ分析からマリモの形状は(1)付着する岩石などの大きさ(2)湖水流動の速さ(3)分布水深(4)湖底の光強度の組み合わせによって変化することが分かってきました。阿寒湖で確認されていたフジマリモ型やトロマリモ型といった形状の多様化も同じメカニズムで説明できるようになりました。
ツインレイクス(双子の湖)――。似ているけれど違う二つのマリモ湖沼を、私たちはこう呼ぶようになりました。しかし、比較調査の終了直後から、ミーヴァトン湖ではマリモの分布域が急速に縮小し始め、14年にはついに「絶滅宣言」が出されました。
四つの環境要因のバランスが崩れると、マリモは急速に減少に向かいます。ミーヴァトン湖はその過程が初めて詳しく観察された実例となったのです。
(聞き手・見崎浩一)
◇次回の「ひと模様」は1月13日の予定です。
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